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中学生時代に振られてた女の子


!未来設定!


『……で?何この地獄絵図』
「おっせぇよ」
『は?急に呼び出しておいて何?腹立つ』

三ツ谷の言葉に中指を立てながら辺りをもう一度見渡す。本当になんだ、この地獄絵図は。ドラケンと三ツ谷は辛うじて起きてるけど、林君も林田君も潰れてるし、その机の上は飲み物やら食べ物でぐちゃぐちゃだ。

『いたっ』

突然、足元に痛みが走り、視線を落として確認する。踝を軽く殴ったであろう犯人が目に入って眉を寄せるが、当の本人は気にした様子も無くヘラリと笑った。

『何すんの。佐野』
「来んのが遅ェんだよ」
『急に呼び出した三ツ谷が悪いでしょ』
「早く座れば」

自分の隣をボスボスと叩く佐野は何処か上機嫌らしい。埃が舞うから叩くのを止めてほしい。他に空いてる場所も見当たらず、仕方なく溜息を吐きながら佐野の隣に腰を下ろす。

『なんで私呼ばれたの?部外者じゃん』
「マイキーが呼べってうるせぇんだよ」
『用事あったんだけど。私』

男らしくジョッキを煽って卵焼きに手をつけたドラケンを睨みつけるが、急に顎が掴まれて左に顔を向けさせられる。あまりに突然な事で、私の首から鳴ってはいけない音がした。

『……………なにすんの。佐野』
「いつまでケンチン見てんだよ」
『睨んでんだよ』

不貞腐れた様な顔をしている佐野の頬は僅かに赤くなっている。コイツも酔ってんのかよ。呆れながら顎を掴んでいる手を叩き落として立ち上がる。酔っ払いの巣窟ほど嫌なものは無い。

「は?どこ行くんだよ」
『トイレ。アンタのせいで化粧崩れた』

ポーチを手に取って一歩踏み出すが、足首が捕まれて肩がビクリと揺れる。振り返るとホラー映画でよく見る光景が広がっていて、肝が冷えた。

『ちょっ!離せ!トイレに行かせろ!』
「ふざけんな!ここに居ろ!」
『はあ!?』

私の足首をガッシリ掴んでいる佐野は譲る気が無いのか、大声で叫び始めた。個室の居酒屋とはいえ、お店に迷惑である。いい加減腹が立って、保護者であり、この状況で目を覚ましている男へ目線を投げる。

『三ツ谷!この酔っ払いどうにかしてよ!』
「………」
『その顔やめろ!はいはい、分かった分かったみたいな顔!!』
「あんまりオマエらじゃれんなよ」
『殴っていいか?』

意味の分からない事を言う三ツ谷にムカついてぶん殴ってやりたくなったけど、今はこの貞子が先だ。人の足首ばっかり狙いやがって。私がミニスカ履いてなくて良かったな。

『……分かった。トイレに行くのは諦めるから手を離せバカ』
「よっしゃ」

フフンっと笑みを浮かべた佐野は体を起こし、お酒に口を付けて枝豆を齧った。学生の時より我儘に拍車がかかってる気がする。それもこれもドラケンと三ツ谷が甘やかすからだ。というか私は佐野と会いたく無いんだけど。何故なら私は中学生の時、コイツに振られてるから。私が好きだって言ったらこの野郎なんて言ったと思う?

━━ええ?オマエが彼女?無いだろ〜

なんて、ケラケラ笑いながら口にしたのだ。信じられるか?勇気を振り絞って告白したのに、何とも酷い仕打ちだろう。それからも佐野の態度は変わらなかったし、私も変えなかった。それは、友達ですら居られなくなるのが嫌だったから。幼心ながらに、私は恋心に封をしたのだ。

『まあ、アンタは覚えてすら無いんだろうけど』
「あ?なんか言った?」
『なんでもない』

唐揚げを間抜けな顔で頬張っている佐野は、中学生の時には暴走族の総長をやっていた。周りからは怖がられていたけど、一部の女子からは人気があったんだ。母性本能を擽られるだとか、不良のトップと可愛らしい顔つきのギャップがあるとか何とか。理解できん。…私も惚れてた内の1人なわけだけど。

「便所〜」
『はァ!?私の時は止めたくせに!?』
「だってオマエは便所とか言って帰りそうだし」

言い返せない。ちょっと帰っちゃおうかな、とか思ってたし。鼻歌を口遊みなが部屋を出て行く佐野を睨みつけて舌打ちを零す。不意に視線を戻すとドラケンと視線が交わった。

『なに?』
「そんな邪険にしてやんなよ」
『してません〜』

そっぽを向いて通りかがった店員さんにカルーアを頼む。せっかく来たんだから飲まないと損だ。コイツらに全部払わせよう。お酒が届くのを待ちながら目の前の唐揚げに手をつける。すると三ツ谷が思い出したように口を開く。

「そういえば少し前に彼氏いたろ」
『ん?…ああ、居たね』
「その時のマイキーの荒れ方は凄かったよな」
「確かに。手ェつけらんなかった」

うんうん、と頷くドラケンに首を傾げる。なんで私に彼氏が出来ると佐野が荒れるんだ。先を越された的なやつか?まさか。中学生でもあるまいし。鼻で嘲笑っていると、三ツ谷が言葉を続けた。

「まだマイキーの事好きなんだろ?」
『………好きじゃないし』
「嘘つくのヘタすぎ」

三ツ谷のこういう所がムカつく。笑いながらコップに口をつける三ツ谷に舌打ちを漏らす。その直後、佐野が戻って来るや否や、流れる様に私の膝の上に頭を置いた。何晒しとんじゃワレェ。

『………ちょっと』
「少し寝るから後で起こせよ」

猫かコイツは。勝手に寝ようとする佐野の頭を持ち上げ、少しズラして落とす。いい音がした。多分痛いだろう。ふふん、いいざまだ。

「い゛っ!」
『なにすんの変態』

三ツ谷の言う通り、私はまだ佐野の事を引き摺ってる。未だに淡い恋心を捨てきれていない。コイツにとっては何でもない行動なのかもしれないけど、私にとっては、たったそれだけの行動でも、心が揺れてしまうんだ。だからこそ、突き放したい。

『私を振った事覚えてないの?』
「………は?」
『中学生の時。私を振ったでしょ。なのにこういう態度取るの本当最低』

たかが中学生の恋愛。されど私にとっては大きすぎる出来事なのだ。忘れるにはまだ、時間が必要なんだ。唇が震えてしまっているのを隠すため、誰のか分からない水に口をつけて、飲み干す。そして隣から口篭りながら紡がれる音に耳を傾ける。

「……振った、…ケド」
『ならその態度やめたら』

ドラケンと三ツ谷が私達を見てるのが分かる。見せもんじゃない。見るな。さっきまでアルコールにしか興味なかったくせに。林田君の顔にでも落書きしてなよ。

「………なあ」
『なに』

控えめに私の服を引っ張る佐野に苛立ちながら枝豆を口へと運び、怒りをぶつけながら咀嚼する。すると佐野は寝転がったまま信じられない一言を放った。

「…オマエが好きなんだけど」
『…………は?』

ポロリと皮からはぐれた枝豆が机へと落ちてしまった。勿体無いとか、言ってられない。だって今コイツ、なんて言った?私が好き?佐野が?私を?

『…………私の事振ったのに?』
「…あの時からオマエの事好きだったけど、…分かってなかったんだよ。…少し前に彼氏が居るって聞いて、気付いた」
さっき2人が放った、荒れていたという話だろうか。私に彼氏が出来ると何故佐野が荒れるのか。……私を好きだから?
『………ヤダ』

小さくそう呟くと佐野が悲しげに目尻を落とした。あんなこっ酷く振られて、9年経った今でも私の心には強く、色濃く焼き付いているのだ。

『佐野も同じ気分を味わうべき』
片方の頬を摘んで軽く引っ張ってやる。佐野は唇を尖らせて軽く頬を膨らませながら舌先で不貞腐れた声を吐く。

「……どんくらい待てばいい?」
『そうだな

優位に立てた私はニヤリと笑って『9週間ってとこかな』と答える。私は9年間なんだから、たった63日なんてきっとすぐだ。

「…分かった」

不服そうに頷いた姿を見て、少しだけ可愛いななんて思ったり。そんな考えを悟られないよう、もう一度水のグラスに手を掛ける。飲み込もうとした瞬間、うつ伏せになった佐野が私の膝に両腕を置いて不安げに私を見上げた。…可愛いな。

「…9週間我慢すれば、オレの彼女になってくれんだよな?」

こんな奴に母性本能を感じるなんてどうかしている。本当にその通りだ。けれど、グラスを置いた右手で目元を覆って空を仰いでしまった私は、とっくの昔に、負けてしまっている。


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