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怖い夢を見たら何故か蘭と添い寝することに


!梵天軸!


あまりの忙しさに会社で寝泊まりを繰り返していた私だが、ある日突然眠れなくなってしまった。決して寝心地が良いとは言えないベッドで眠ってから数時間後には目を覚ましてしまい、その体中には汗がびっしょり浮かんでしまっている。内容を覚えてはいないけれど、“怖い夢を見た”という事だけは覚えていて、眠りたくても眠れない日が既に3日も続いている。

『と、いうわけだから助けてください、ココくん』
「は?ガキじゃねぇんだから寝ろ」
『私だって寝たいんだよ〜!』

丑三つ時だというのに、未だにパソコンをカタカタと鳴らして仕事に取り組んでいる九井一くんに助けを求めるけれど、一向に良い回答は貰えない。しかも「眠れないなら仕事すれば」なんて言い出しやがった。人選を間違えたかもしれないが、梵天に属している人間の中でココくんは常識人の部類であり、彼以上に抜擢な人も居ない。

『助けておくれよ〜…』
「永遠に終わりの見えない残業という名の悪夢を見続けているオレに助けを求めるのか?」
『……ゴメンナサイ』

瞳孔をこれでもかと見開きながら、そんな事を言われてしまったら何も言えなくなってしまう。反社会勢力の人間に助けを求めたことが、まず間違いだったのか。重たい足を引き摺りながら暗い廊下を進んでいた時、前の方でゆらり何かが揺らめいて歩みが止まる。

『……まさか、…お、お化け、』

そんなまさか。空元気とも取れる笑いをわざとらしく大きめに吐き出して震える足を一歩前へ出す。念仏の様に、お化けなんてないさ、お化けなんて嘘さ、と繰り返して途中から自分でも気付かない間にドラ○もんの歌まで口遊んでいた。壁に肩をぶつけながら廊下の端を歩いていたのに、不気味な影は無情にも目の前に立ちはだかる。

「ばあ」
『ぎゃあッ!!』
「あれ?腰抜けちゃった?」

みっともなく床へ崩れ落ちた私の顔を覗き込んだのはハクション大魔王改め、セクハラ大魔王の灰谷蘭さんだったのだ。いつものきっちりセットされた髪型とは違い、前髪は頬に掛る様に落とされて、長い髪の隙間から涼し気な目元が覗く。右手を差し出されるが、たった今驚かされた私はその手を叩き落として舌打ちを零しながら、産まれたての小鹿を彷彿とさせる仕草で懸命に立ち上がるけれど、それを見て蘭さんは小さく笑った。

「こんな時間に何してんの〜?」
『部屋に戻る所なんです!』
「そう怒んなって。可愛い顔が台無しだぞォ」
『誰のせいですか!誰の!』
「オレ?」
『それ以外に何があると!?』
「オレの色気に当てられたのかと思って。あ、それも結局オレのせいか」

本当にこの人は何なんだ。六本木のカリスマじゃなくて、人をイラつかせるスペシャリストじゃないのか。足に付いたゴミを払って蘭さんの隣を通り抜けようとしたが、股下のリーチが違い過ぎるせいか、横並びで二人一緒に歩き出してしまう。ついてくんな、と言いたいところだが、彼もこっちに用事があるとしたら自意識過剰という事になってしまうから下手に口を開けない。奥歯を噛み締めた瞬間、ぐらり足元から地面が崩れていく様な感覚に襲われて目の前が歪む。

「うおッと、危ねェな」
『す、すみません…、』
「なに。貧血?生理なの?」
『デリカシー無さすぎませんか』

お母さんの胎盤の中に女性への配慮というものを置いてきてしまったのだろうか。竜胆さんの方がまだ優しいぞ。けれど倒れそうになった私を支えてくれたのも蘭さんである事は変えようの無い事実。仕方なく小さくお礼を述べながら体勢を立て直すと、大きな手が私の頬を包み込んだ。

『なにか?』
「寝不足?隈凄いけど。プ〜さんでも飼ってんの?」

この人の口からプ〜さんって言葉が聞けるとは思わなかった。茶化してやりたいけど、妙に真剣な表情をしながら言うから、ふざける事も出来ない。どうしたものか。いつもみたく彼氏の有無や、ご飯の誘い、過度なスキンシップをしてくれ。そんな心配そうな声を出されたら逆にやりづらいわ。

「よし、今日は特別にこの蘭ちゃんが一緒に寝てやろう」
『何も“よし”じゃない。要らないです、結構です』
「行くぞ〜」
『お願い聞いて』

手を引っ張られて辿り着いたのはそれぞれの幹部にのみに与えられている個室だった。当たり前のように部屋きはベッドが置かれ、流れる様な動作で寝かせられてしまう。やめてくれ。私をそこら辺の女性従業員と一緒にしないでくれ。

「ンな怖がんなよ」
『怖い怖い怖い…。蘭さんと二人なんて、命の危険と、貞操の危機に襲われて安心なんて出来ない…』
「心配すんなって。手ェ出さないから、……今日は」
『今日は…!?』

隣へ寝転んだ蘭さんはこれまた自然の摂理とでも言わんばかりに私を抱き締める。寝るだけなのに何故、抱きしめる必要があるんだ。挨拶の時にキスする外国人ですか。トキメキとは程遠く、恐怖から来る逸りを感じて心臓の辺りを抑え警戒するけれど、一向に手を出す雰囲気は見えない。

『蘭さん…?』
「ん〜?」
『……いえ、なんでもありません』

彼の眠そうな声を聞いたせいか、段々と自分の瞼が重くなっていくのが分かる。抱きしめられているせいで耳が蘭さんの胸板に当たり、心拍の音が緩やかに脳へと流れた。どこか落ち着かず、シーツの中で無駄に動いていると背中に回った手が子供をあやす様に優しく私を叩く。ふわり鼻腔を擽った香りは酷く柔らかく、暖かい。
──おやすみ
意識が途切れる瞬間、聞いた事のない穏やかな音吐が聞こえて、思わず小さく笑ってしまった。



∵∵∵
爽やかな小鳥の囀りで目を覚ます、なんてことは無く、廊下から聞こえて来た怒号で覚醒した私は飛び起きて辺りを確認する。どうやらココくんが三途さんに怒り狂っているらしい。自分に関係が無い事が分かり、安堵の息を吐き出していると、隣で大型動物が唸る様な声が耳に届いた。

『お、おはよう、こざいます、』
「ん゛〜…、……はよ」

軽く伸びをしてから瞼を持ち上げた蘭さんは重たそうに上半身を起こす。その姿は白い肌と相まってシロクマに似ている気がする。それがちょっとだけ可愛く映って眺めていると不意に視線がぶつかって、たれ目な瞳が甘やかに細められた。

「よく眠れたみたいじゃん」
『おかげさまで…。ありがとうございました…』

ふかふかなベッドの上で正座をして、頭を下げながらそう口にする。久しぶりに安心して寝た気がするし、ちゃんと疲れも取れている気がする。シーツに付いている額を持ち上げるのと同時に頬へ温もりが触れて、ゆっくり顔を上げさせられる。柄にも無い優しい笑みを浮かべる蘭さんを見て、心臓が僅かに跳ねた。

「お礼として、オレと付き合って」
『よーし!今日も一日頑張って働くぞ〜!』

両腕を天井へ掲げて大袈裟に声を張りながら地面へ足をつける。その後ろで本気なのにな〜、と声がしたけれど、蘭さんの事だ。冗談なのだろう。自分に言い聞かせながら熱くなってしまった頬を隠す様に髪を直すと、また後ろで彼が喉を鳴らして笑った気がした。


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