最果てまでワルツ | ナノ
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 集合時間には遅れてはいけない。それはもはや染みついた固定観念だ。ここ数日間ずっと腫れの引かない目は気にならないのに、忘れ物をしてはいけない、額当てを付けて、グローブを嵌めて、ということを考えるより速く、体が勝手に動いている。
 朝、家を出て感じる、少し冷たい空気はいつも清々しいと思っていた。今はただ、オビトが死んでまた一日が過ぎてしまったのだという現実しか感じられない。
 ひたすら歩を進めていく。アカデミーか普通の学校に通う子が、わたしを後ろから追い越して元気に走り、風を起こした。乱された髪をそっと撫でつけ、なるべく何も考えないようにただ足を動かす。

 時間より少し早く着いた。にも関わらず、わたしが一番最後だったようで、すでにクシナ先生たちがそこに立っていた。先生の優しい目が、わたしを認めると、

「おはよう、サホ」

と声をかける。赤い髪を一つにまとめて、きっちりと額当てを付け、緑のベストを身に着けている先生の両脇には、同じく緑のベストを羽織るナギサとヨシヒトが立っている。

「おはよう」
「よお」

 お手本のように優雅に微笑んだのはヨシヒト、ぶっきらぼうな挨拶をしたのはナギサ。彼らも、クシナ先生同様、普段と変わらない出で立ちで、変わらない挨拶をした。

「おはようございます……」

 ずっと口を閉じていたせいか、出てきた声はちょっとかすれている。さっきまで気にならなかった腫れた目元を急に意識してしまい、わたしはそれを隠すように少しだけ頭も下げた。

「みんな揃ったところだし……集合時間より早いけれど、今日の予定を伝えるわね」

 クシナ先生の通る声に耳を傾ける。里周辺の警備は何度もやっているので、やり方はもう全員が頭に叩き込んである。今回の基本ルートの確認と、現場周辺の直近の情報などを、先生が手短に教えるくらいだ。

 三人全員が把握し終えたあと、わたしたちは里の外に出て、まずは前任の班との交代と引き継ぎに向かった。基本的に、見回りは三交代制を取っている。わたしたちは朝から夕方までの日中を担当するので、視界の悪い他の時間帯よりも楽だ。もちろん、視界が良いからこそ攻めてくることもあるので、油断はできないけれど。
 前任のルートに沿って移動すれば、班はすぐに見つかった。わたしたちも大して気配を消していないので、近づく前にわたしたちに気づき、顔を上げる。

「第三十五班、引き継ぎに来ました」
「お。二五七九〇、四四三八六」
「七七三六二、〇八一九」

 クシナ先生があちらの班の隊長らしき男性に声をかけると、男性は数字の並びを口にした。こういった警備の交代の際には、事前に伝えらていた暗号によって、互いが仲間かどうかの確認を行うのが習わしだ。
 先生も同じく、数字の羅列を口にすると、隊長は「了解」と一言のあと、右手を挙げる。瞬時に、傍の木々の中に隠れていた他のメンバーが集まってきた。全体的に、うちの班よりも年齢層が高い。
 隊長がクシナ先生に、見回りをしていて気づいたことを告げ、簡単な引き継ぎが行われる。それが終わるとメンバーを引き連れて里の方へと戻って行った。

「さて。じゃあ、ぐるっと周りましょう」

 先生の一言を合図に、わたしたちは慣れた位置を取る。わたしたちは大体、菱型の陣形を組む。先頭はヨシヒト、左右はわたしとナギサ、後ろにクシナ先生。色んな陣形をやってみて、これが一番しっくりきた。
 木々の枝を足場にし、リズミカルに跳躍を重ねつつ、時には怪しそうな場所で止まって辺りの気配を探る。わたしとクシナ先生は結界術が得意なので、気配を探るのは得意な方だ。
 三人で、それぞれの方向に意識を集中させる。――うん。あるのは棲みついている生き物のみで、余計な気配はしない。

「問題ないわね」
「そうですね。今日も小鳥が、僕たちクシナ班の美しさを称えるようにさえずっています」
「ぶっとばすぞ」

 ヨシヒトの発言にすっかり慣れてしまったナギサは、表情一つ変えずに口癖を放つことで終わらせるようになった。ひと月前くらいに二人でツーマンセルを組んでいたときに「相手にするとつけ上がるタイプが居るだろ。アイツはアレだ」と言っていたから悟ったのだろう。

 こうして四人で移動しながら見回っていると、オビトが死んだなんて嘘にしか思えなかった。
 このまま何事もなく、敵が襲撃することも、妙な気配を感じ取ることもなければ、次の隊へと交代し、里に戻って家に帰るだろう。
 その途中で、ばったりオビトに会えるような気がした。
 『サホ、久しぶりだな』なんて言って、今日の夕飯だというカップラーメンが入ったスーパーの袋を提げて、わたしが『野菜も食べなくちゃだめだよ』と言うと、困った顔して誤魔化したりして。

 あ、まずい。思った時には、鼻はツンとし、喉はぎゅっと締められ、目元はじんわり熱い。ぽろぽろ涙が零れるので、慌てて服の袖で押さえてみたけれど、すぐには止められない。

「サホ? どうしたの?」

 後方についていて、わたしの動きに気づいたクシナ先生が声をかける。横からナギサの、前からヨシヒトの視線も飛んできて、見られないようにと顔を少し下げた。

「全員、止まれっ」

 先生の号令に、脊髄反射のようにわたしの足が止まった。すぐに先生がわたしの傍に来て、顔を覗き込んでくる。

「サホ」
「す、すみ、ませ……」

 任務を中断させてしまったことにまず謝ろうとしたけれど、喉がうまく使えなくてろくに謝れない。ナギサとヨシヒトも集まってくる。そっと目を上げると、こちらを見つめるヨシヒトと目が合った。

「――ごめ、ごめん。ちょっと、ちょっとだけ。すぐに止めるから。ちょっと待って。お願い」

 昨日のヨシヒトとのことを思い出して、わたしは何とかヨシヒトに、少しだけ待ってほしいと頼んだ。ほんの少しでいい。五分で、三分で。ちゃんと止める。すぐに止める。だから少しだけ。

「そろそろ休憩にしましょう」

 両肩にクシナ先生が手を乗せ、ポンポンと優しく叩く。そのまま、先生がわたしの両肩を持ち歩き始めるので、逆らうことなく従った。
 しばらく歩いたあと、先生がここで、と足を止める。

「パパッと感知結界を張ってくるわ」

 しっかり休憩ができるようにと、クシナ先生はいつも広めの感知結界を張る。そのため、わたしとナギサとヨシヒトだけがこの場に残った。
 わたしの目は、新しい涙はもう零れなかったけれど、鼻はグスグスと鳴る。

「サホ、無理すんな」

 近くの木に背を付け、腰を下ろして胡坐を掻くナギサが言う。そう言ってくれるナギサの優しさは嬉しいけれど、でも――と、思わずヨシヒトの方に目が向いてしまった。ヨシヒトもわたしを見ていたようで、ゆっくりこちらへと歩いてくる。

「サホ」

 わたしのすぐ前で止まるので、泣いていた顔を見られるのがいやで、サッと目を逸らした。

「昨日は、言いすぎたよ。僕がそうだからと言って、サホに強いるのはよくなかったね」

 てっきり怒られるのかとビクビクしていたわたしは、驚き目を再び彼へと合わせた。ヨシヒトの顔に怒りの感情は見られず、柳眉がゆるく八の字を作っている。

「戦争が終わってから思う存分泣く僕が、僕は美しいと思ったけど、それは僕の美しさだ。君の美しさはまた別の形だというのに、もう泣くなと言ってしまった。僕が悪かった。ごめんよ」

 ヨシヒトはポーチから、きれいにアイロンがけされたハンカチを取り出すと、わたしに差し出してくれた。わたしも一応ハンカチは持っていた。ヨシヒトが口うるさく『アイロンをきっちりかけたハンカチを持つこと』と言っていたから、今日も忘れずに持っている。
 だけど自分の分は使わず、差し出してくれたヨシヒトのハンカチを有難く受け取り、まだ湿っている目尻や目頭をそっと押さえた。ふわりと、ヨシヒトの家の、洗剤の香りがする。

「いいの。ヨシヒトの言ったことは、正しいと思う」

 トントン、と目元を何度も押さえつつ、わたしは続けた。

「昨日ね。あのあと、オビトの家に行ったの。オビトが死んだ気がしなくて。家にはね、うちはの人が来ていてね。遺品整理、しに来たんだって」

 あのあと、こっそり貰ったミナト班の写真は、わたしの部屋の、机の引き出しに仕舞った。オビトが貼ったらしい、はたけくんの顔の上のテープもそのままにした。はたけくんには悪いけれど、オビトが貼ったものだと思うと剥がせなかった。

「本当に……死んじゃったんだね……」

 遺品整理が終われば、オビトの居場所が一つ消える。消してしまっても構わないと、うちはの人たちが処分を始めたということは、やはりオビトはもう居ないということを裏付けている。
 自分の言葉が、目の前のヨシヒトをゆらゆらと歪ませる。ハンカチを目の端につければするりとクリアになった。だんだん息が苦しくなってくる。また大きい波が一つ来そうなのを、グッと喉を締めて堪えた。

「昨日、ヨシヒトは言ったよね。『オビトの意志を継ぐんだ』って」

 あれから散々、『オビトの意志』について考えた。
 真っ先に思いついたのは、いつも口に出していた、『火影になる』だった。
 
「『火影になること』は、確かにオビトの目標だった。でも、それは夢であって、意志……とは、違う」

 うまく説明はできないけれど、例えば将来、忍者になりたいとしよう。それは、将来こうなりたいな、という『夢』だ。『意志』と言うのは、「誰よりも強く」とか、「仲間を決して見捨てない」とか、そういう、自分の指針となるものだと思う。

「だから、まだ見つけられないけれど、見つけたら、わたしはオビトの代わりに、それを突き通そうと思う」

 オビトがこの世に居ないのなら、わたしの心にオビトを留めよう。一つずつ失くなっていくオビトの居場所を、わたしだけは残しておく。
 それはまだ、願望だ。わたしはまだ、オビトの死を受け止めきれていない。
 だからもう少しだけ。

「いいね。そのときのサホは、この上なく美しいと思う」

 そう言う、ヨシヒトの笑顔の方が本当に美しくて、わたしは悲しさではない、温かい感情から来る涙を流しそうになる。
 いつの間にかナギサも傍に来ていて、大きな手でわたしの頭をぐりぐりと撫でた。

「こいつに同意すんのは癪だけど、俺もそう思うぜ」

 少し照れているのを隠すためか、撫でるというより、ぎゅうぎゅうと押し付けて乱暴に掻き混ぜるのだから、額当てがずれてしまう。照れるくらいなら言わなければいいのに、と考えたけれど、ナギサのガサツな優しさは素直に嬉しい。

「とりあえず、その目の腫れをどうにかしなくちゃね。ほら、額当てもすぐに戻して。髪も整えて。美しさは強さだよ」

 にっこり言うヨシヒトは、すっかりいつものヨシヒトだ。ナギサも呆れた視線をヨシヒトに送りつつ、ずれたわたしの額当てをグイッと戻した。一つにまとめていた髪型の崩れはナギサには戻せないので、仕方なくわたしは額当てを外して髪を解いた。
 もう一度まとめて、額当てを付け直す間、「細かい男だ」とナギサが嫌味を言って、「一つ幻術を食らってみるかい」とヨシヒトが笑顔で返し、ナギサがげんなりした表情を見せる。二人のやりとりに笑いが込み上げて、つい吹き出すと、ナギサに「笑うな、ぶっとばすぞ」と怒られてしまった。



 結界を張り終えたクシナ先生が戻ってきて、休憩を取ったあと、警備を再開する。前半と違って、わたしの感情の揺れも落ち着いたのか、涙が流れることはなかった。
 ヨシヒトやナギサとも普段通りに喋られるようになっていたし、クシナ先生の指示にも集中して応えることができた。

 終了時間が来て、次の班と交代を済ませたあと、わたしたちは揃って里へ戻る。
 夕方の里には、学校が終わって帰る子どもや、買い出しに向かう人や、わたしたちと同じく任務から戻った人が行き交い、あちらこちらから声が上がっている。
 受付所に報告書を出すため、騒がしい里の中を四人でお喋りしながら歩いていると、「サホちゃん」と声がした。声に引かれて後ろを向くと、背中の曲がったキクおばあちゃんが手を振っていた。

「キクおばあちゃん……」

 歩くのをやめ、おばあちゃんを見るわたしに、三人も足を止めて「サホ?」とクシナ先生が呼ぶ。わたしの目線の先のおばあちゃんを認めると、「知り合い?」とヨシヒトが訊ねたので無言で頷いた。

「お仕事かい?」
「……うん。さっき終わって、今戻ってきたの」
「そうかい。お帰り」

 キクおばあちゃんの顔を見て、オビトのことを思い出した。オビトが、結果的に最後になってしまった任務へ向かったあと、おばあちゃんとオビトの話をした。わたしはオビトに『おばあちゃんが会いたがっていたよ』と伝えると約束していた。今となっては叶わなかったけれど、キクおばあちゃんはそれを知らない。

「あの、先に行っててください。ちょっとお話しなくちゃいけないことがあるので。……オビトのことで……」
「……分かったわ。受付所で待ってるわね」

 先生はそう言うと、二人を連れて受付所へと進んでいく。三人の背中が少し遠くなったところで、わたしはキクおばあちゃんの下へ歩み寄った。

「おばあちゃんは買い物帰り?」
「いいや。買い物は昨日済ませたからね。今日は散歩だよ。老いぼれは歩かないと、すぐにガタがきちゃうからね」

 キクおばあちゃんは茶目っ気たっぷりに、ニコニコと笑う。いつもなら、「老いぼれなんて」と否定してあげていたけれど、今は伝えなくてはいけないことを、どう切り出していいか考えていて、それどころではなかった。

「あのね、おばあちゃん。オビトのことなんだけど……」
「オビトちゃん? オビトちゃんががどうかしたのかい? そういや本当に随分と顔を見てないねぇ。この前のお仕事からも、もう帰ってきてるんだろう?」

 勇気を出してオビトのことを口にすると、おばあちゃんは心配そうな顔を見せた。忍の間では神無毘橋の件は広く知れ渡っているみたいだけれど、忍じゃない一般の人たちの間ではそこまで知られていないようだ。基本的に任務に関わることは、家族と言えども忍でない者には話したりはしない。キクおばあちゃんが知らなかったとしても、不自然な話ではない。

「オビト、任務中に……死んじゃったんだ」

 そういえば、わたしが誰かにオビトの死を伝えるのは、今が初めてだ。みんな、誰かからすでに聞かされていた。こうやってオビトの死を、自分の口と声で再認識すると、胸がグッと痛い。
 キクおばあちゃんは目を見開いて、言葉を失った。口元を両手で押さえて、わずかに「まあ、ああ」と、言葉にならないものを漏らしている。

「そう……オビトちゃん……そう……」

 噛み締めるように、おばあちゃんは何度も頷き、そして潤んだ目から涙を流した。さっきまでの笑顔は引き裂かれ、悲しみに染まる。

「あんなにいい子が……まだ子どもだって言うのにね……こんなばあさんが生きて、あんないい子が死んでしまうなんて……」

 ぽろぽろと涙を零すキクおばあちゃんに寄り添って、その背中を撫でた。クシナ先生も、あのとき家にやってきて、わたしの背中をこうやって撫でてくれた。
 わたしは割と、もらい泣きをするタイプだ。テレビを観ていて、悲しいことがあったり、つらい思いをして泣いている人を見ると、釣られて泣くことが多い。
 だけど不思議と今は涙が出てこなかった。オビトの死を悼んで悲しむおばあちゃんを、わたしが支えてあげなくては思うと、鼻も喉も痛くならなかったし、視界も潤んだりしなかった。

「サホちゃん。つらいね。つらいだろうね。なのに私たちは、こんな小さな子どもたちを死なせて、守ってもらわなくちゃいけないなんて、本当にね、申し訳ないよ」
「そんな……おばあちゃん……」

 おばあちゃんがわたしの手を取って、両手で挟む。しわくちゃの手はほんの少し冷たくて、細い骨がこつこつと当たる。

「今日もお仕事だったんだろう? 今日だって、サホちゃんも怪我をしたり、死んでしまったり、そういうことがあったっておかしくないんだろう? どうしてだろうねぇ。どうしてこんな子どもたちが、戦争なんて」

 何度も何度も、キクおばあちゃんの両手は、わたしの手を握り直す。その度に伝わる、この細い体のどこから集められたのかと思うほどの力強さを感じ、おばあちゃんの気持ちの強さもひしひしと伝わってきた。

「忍、辞めたっていいんだよ。サホちゃん一人が辞めたっていいだろう」

 おばあちゃんは、怒りとすら取れるほどに真剣な顔でわたしに言う。『いいんだよ』と言いながらも、口ぶりは『辞めなさい』と訴えているに近かった。
 オビトの死を誰かに伝えたとき同様、これも初めてだ。忍を辞めていいんだよ、逃げていいんだよと言ってくれた人は。
 クシナ先生とヨシヒトは、泣くのは止めて任務をこなすようにと言っていた。
 ナギサも家族も、『忍を続けろ』とは言わなかったけれど、『辞めていいんだよ』とも言わなかった。
 今なら、キクおばあちゃんを言い訳にして、辞めることができるかもしれない。戦争が続いていく中で、親が反対したから忍を諦めると言ってアカデミーを中退した子は居た。下忍になってからも、任務中に心の傷を負った仲間が忍を辞めたりもした。それらと変わらないだろう。

「ううん。辞めないよ。あのね、オビトが頑張ったおかげで、戦況が良くなったんだって。オビトのおかげなんだって」

 おばあちゃんの手をやんわり解いて、今度はわたしの手で、おばあちゃんの両手を包む。

「オビトは木ノ葉のみんなを守るために頑張ったんだから、ここで引いたりなんかしないよ」

 神無毘橋が崩れた今こそ。みんな言う。今こそ、この勢いに乗って戦争を終わらせると。
 そのためには、忍は少しでも多くないといけない。たとえ十二の子どもでも、中忍のわたしができることはあるはずだ。
 クシナ先生やヨシヒトに言われたときは、そんなことを今は言わないで欲しいとしか思えなかった。こんなにも傷ついているのに、どうしてそんなひどいことを言うのだろうと。
 だけど、誰かにいざ逃げ道を提示されたら、そうじゃないと気づけた。
 今ここで目の前のことから逃げては、オビトの死を無駄にしてしまう。
 そんなこと、オビトを好きだからこそ、してはいけない。
 キクおばあちゃんは、わたしとしばらく見つめ合ったあと、

「そう。無理はしちゃいけないよ。オビトちゃんの分まで、生きなきゃね」

わたしの意思を汲んでくれて、自身の両手を包むわたしの手に額をつけると、「ごめんね。ありがとうね。死んじゃだめだよ」と、乞うように何度も何度も繰り返した。



24 残り者には義務がある

20180604


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