最果てまでワルツ | ナノ
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 はたけくんが上忍になるのは、まだ少し先の話らしい。内定しているけれど、色々な都合で就任までは日があると。
 おかげで、わたしははたけくんへのプレゼントをゆっくり考えることができた。はたけくんの好みは詳しく知らないけれど、以前下忍になったときにホルスターを選んだらそれなりに喜んでもらえたみたいなので、今回も実用的なものを贈りたいところだ。

 非番の今日は、一応任務がない。ただ招集があるかもしれないので、いつでも対応できるように、普段と変わらない格好で里でのんびりするしかない。
 ミナト班も今日は非番らしくて、それを知ったリンから、一緒に出かけないかと誘われ、二人で木ノ葉の里をぶらぶらと歩いている。
 こうして歩いているだけでも、わたしたちにとっては敵の存在を気にしなくてのびのびできて、ホッと息をつける時間だ。今日は朝からポカポカといい陽気だから、さらに気持ちがいい。
 話しながら歩くうちに、話題ははたけくんへのプレゼントの話になった。

「リンは何にするかもう決めた?」

 はたけくんとチームを組んでいるリンに相談するが近道だと思い、何となしに訊ねると、リンは少し照れた様子で頷いた。

「うん。あのね、医療用具を詰めたパックにしようと思って。支給されるものじゃなくて、カカシがよく使うものとか、支給されるものより性能がいいものや、これがあったら便利だろうなっていうのを選んで」
「医療パックかぁ……リンらしいし、はたけくんのことを知ってるリンが選ぶなら、絶対に役に立つね」

 支給される医療パックも便利だけれど、それも好みがある。包帯は多めが安心する人もいるし、薬の種類も効きのいいもの悪いものと相性がある。はたけくんに合わせた医療パックなら、はたけくんはまず喜んでくれるだろう。

「それでね。医療パックだけじゃ……ちょっと、足りないかなって思ってて」
「足りない?」
「うん……」

 何が足りないのだろう。自分に合わせた医療パックなんて、それだけで十分嬉しいものだと思うけれど。でもリンとしては、医療パックを贈るだけでは不満らしい。

「だからね、お守りを……作ろうと思って」
「お守りを? 作る?」
「神社で頂いたものがいいっていうのは、もちろん分かってるんだけど。でも、せっかくだから……」

 『お守りを渡す』というのはよくある話だけれど、『作って渡す』というのは、わたしにしてみると珍しかった。お守りといえば、神社で頂くイメージしかない。
 手作りのお守り。まず、お守りを手作りできるのか、というところに関心が向いた。次いで、なかなか素敵なことだと思った。

「いいと思うよ、手作りのお守り。チームメイトの、しかも医療忍者のリンが作ったお守りなら、神社のお守りより効果がありそう」

 神社のお守りと違って、神様の力は宿ってはいないかもしれないけれど、リンの気持ちが込められたお守りの方が、ずっとはたけくんを守ってくれそうだ。
 もじもじと恥ずかしそうだったリンは、わたしの言葉にパッと笑顔になった。頬には菫色の化粧の他に、朱も色づいた。『花が咲いたような』というのはこういうことを指すのだろう、と頭をよぎるほど、かわいらしい笑顔だ。

「でね。手芸屋でお守りの生地を選びたいなぁって思ってるんだけど……」
「うん。じゃあ今から行こうか」

 善は急げだ。どうせ当てもなく歩いていただけだから、目的が定まったのならそちらに足を向ける。
 わたしとリンは里で一番大きな手芸屋に入って、壁に立てかけられた生地や、ボードに吊るされている紐などを眺め、どれがいいかとあれこれ考えた。

「カカシはどんな色が似合うかなぁ……サホはどの色だと思う?」
「はたけくんかぁ」

 はたけくん。はたけくん。はたけくんに似合う色。
 はたけくんと言えば、真っ先に飛び込んでくるのは、あの白銀の髪。
 そして鼻まで覆っているマスク。
 あと、三白眼。

「――夜」
「え?」
「夜みたいな、そういう色……かなって」

 わたしにとって、はたけくんの目は夜の色だ。小さな星が一つきらめく、静かな色。一時期は底なしの闇のような色だったけれど、最近は見かけない。
 でも時折、スッと闇に落ちるときがある。そういうときは無性に不安になるけれど、声をかけることは躊躇われて、ただ見なかったふりをしてしまう。だって、何と声をかけていいのかまったく分からない。

「夜かぁ……黒とか、藍色とか……そういう感じかな」
「うん、そうだね」

 リンが上げた色に違和感はなかった。はたけくんって、そういう色が似合うと思う。
 お守りサイズなら、壁に立てかけている大きな生地ではなくてもいいので、わたしたちは端切れのコーナーを覗いた。端切れといっても、良い生地はそれなりの値段がする。リンは一つ一つ手に取りながら、どの色がはたけくんに似合うか吟味し始めた。
 わたしも何となく手に取って、ふっと目に入ったそれに手を伸ばした。引き出してみると、橙色の布地に赤色の七宝柄が並んでいる。

「あ、素敵な布ね」

 リンが手を止め、わたしが持った生地に目を落とす。わたしはリンに、これを手に取ったことを知られるのが恥ずかしかった。だって、なんとなく、オビトの色に見えたから。オレンジ色のゴーグルと、背中のうちはの赤い紋で、なんとなく、オビトだなぁ、と。

「わたしも、作ろうかな」
「え?」
「ほ、ほら。はたけくんにだけお守りをあげたら、オビトが『なんでオレにはないんだよ』っていじけそうだし……」

 呟いたつもりはなかったのに、口から漏れて、リンの耳に入ってしまった。慌てて、はたけくんを持ち出して体のいい言い訳を作って告げると、リンは口元に手を当て、にこっと笑う。

「あはっ。そうね、そうかも」
「だから、オビトの分はわたしが作ってあげようかな……って」

 はたけくんのはリンが。オビトのはわたしが。リンに、オビトの分も作ってあげたら、と言わずに、こっそりと『わたしが』というところを強調すると、

「うん! オビト、喜ぶよ!」

と、リンはわたしの思惑など気づくこともなく、笑顔でそう言った。
 違う、わたしが作ったものより、リンが作ったものの方が、オビトはずっと喜ぶ。
 本当のことを知っているのに、わたしはオビトの気持ちではなくて、自分の気持ちを優先した。
 だって、オビトがリンを好きなように、わたしもオビトが好きなのだから。
 手に取った橙色の端切れを、わたしはぎゅっと握った。誰も取ることなんてないだろうに、誰にも、リンにも取られないようにと。
 リンはしばらくして、藍色に銀の矢絣模様の生地を選んだ。それがリンにとって、はたけくんのイメージに近いのだろう。
 お守り用の紐はどちらも白色を選び、他に必要な物を買い揃えたあと、支払いを済ませ店を出た。

「まだ時間があるから、このまま家で作ろうと思うんだけど、サホも一緒に作らない? 昨日のうちに、母さんと型紙を作っておいたんだ」
「いいの?」
「うん。一緒に作りましょ」

 選んだ布が入った紙袋を持って、わたしとリンは並んで、リンの家に向かう。こうして買い物をして、二人で話しながら歩いていると、わたしたちはまるっきり、ただの女の子だろう。
 男の子の好みなんて全部分からなくて困って、だから男の子のイメージに合うものを選んでしまうくらい、まだ男の子のことがよく分からない、普通の女の子。
 恋敵と肩を並べて歩いて、親友の家へ向かう、普通の女の子なんだ。



 リンの家で、早速生地を広げ、型紙を敷いて形をとって、鋏を入れて。お喋りをして、お茶とお菓子を摘まみながら、わたしたちはそれぞれのお守りを作っていった。
 日が暮れる頃には、お守りはほぼ完成していた。あとは、中に詰める物だ。

「お守りの中って、何が入っているんだろう……」
「開けたことがないから分からないわよね。開けたらいけないって言うし……」

 ここに来て作業はぴたりと止まって、二人して困り果てた。リンが、家にあるお守りを一つ開けてみようかと言ったけれど、お守りを開けるとバチが当たるだの、ご利益がなくなるだのと言われているから、リンに何かあったら大変だ。

「なんだろうね。おみくじとか……かな?」
「んー……そうだ。もういっそ、私たちで書いた紙を入れたらどうかしら」
「書いた紙、って?」
「怪我をしませんようにとか、無事に帰ってきますようにとか」
「ああ、いいかも」

 手作りのお守りだから、何から何まで手作りでもいいかもしれない。神様のご加護の方が効果がありそうなのはもちろんだけれど、人の想いだって負けないはずだ。
 中に詰める物の話がつき、わたしはリンの家を出て、自宅へと帰った。あとは中に詰めたあと、紐を結べばできあがる。紐の結び方も、リンが教えてくれたから自分一人でもできる。


 家に着いて、夕飯やお風呂を済ませたあと、自室の机に紙を広げた。雑貨屋さんで買ったとっておきの便箋だ。一目見て気に入って買ったのに、気に入りすぎてもったいなくて使えなかったもので、今こそ使うべきだと封を解いた。

「何を書こう……」

 白紙の便箋を前に、頭を悩ませた。
 書くべきは、やはり怪我をしないように、任務から無事に帰ってきますように。病気もしないでほしい。写輪眼がまだ開眼できていないことを気にしていたから、いつか開眼できて、それで火影にもなれますようにって。
 あとは――お守りの中を見る人なんていないから、だから、書いてもいいだろうか。『わたしを好きになってくれますように』などと。

「いやいや……それこそ神頼みだし……」

 オビトがリンではなく、わたしを好きになる可能性は微塵も感じられない。わたしがオビトを五年以上も好きなように、オビトだって恐らく、それくらいか、それより長くリンを想っている。そんなに長く抱えた想いが、すぐに消えることはない。だってわたしの想いも、いつまで経っても消えないのだから。
 だからこっそりと想いを込めるなんて、意味がない。本当に、本当にオビトに振り向いてほしいなら、自分の口で伝えなければいけない。

「告白……かぁ……」

 そういえば、オビトに想いを伝えようと行動したことはなかった。勇気を出したところで、オビトの目がいつもリンに向いていて、振り絞った勇気はすぐに萎れてしまうから、踏み出したことは一度もない。
 これは、いい機会かもしれない。無事にわたしたちは中忍になったから、他に気がかりなことはない。上忍を目指すには、中忍を目指していたときの何倍もの修業と実績と時間が必要だから、まだピンとこない話だ。
 互いの班員が全員中忍になったということで、みんなで集まって修業をすることはなくなった。任務のランクもDやCばかりだったけれど今はBのときもあるし、単純にやはり、忙しい。下忍の頃のようにはいかない。
 だからオビトに会える時間も、またグンと減ってしまった。このまま再び離れて、その間にオビトの恋が実ってしまうかもしれない。
 なら、お守りを渡すときに、気持ちを伝えてみる――なんて、できるだろうか。

「クシナ先生も……結婚したしなぁ……」

 ミナト先生と結婚したと伝えてきたクシナ先生は、とっても幸せそうだった。『火影を支えるお嫁さん』という夢が叶うのも、時間の問題だろう。
 『次はサホの番』と背中を押してくれたときは、応援は有難かったけれど、中忍試験のことに集中しなければいけなかったし、中忍になってから考えよう、と先延ばしにしたのだった。
 じゃあ、やっぱり、今――なのかな。



 結局便箋には、怪我や病気をしないように、いつも里に無事に戻ってきますように、火影になる夢が叶いますように、という当たり障りない願いを込めた。
 端と端をきれいに合わせて小さく畳み、お守りの中に詰めて、紐を結ぶ。慣れない結び方で時間はかかったけれど、ちゃんとお守りができあがった。
 あとは、これを渡すだけ。そして、言うだけ。
 それが難しい。
 告白どころか、お守りを渡すだけでもハードルが高い。ただの友達に渡すのであれば簡単なのに、好きな人にというだけで、もう顔も見られそうにない。

 だけど、今しかない。

 オビトは中忍試験のあと、リンに告白しようとしていた。オビトはもう、いつだってリンに気持ちを伝えるつもりでいる。そのタイミングを計っているだけだ。
 時間がない。リンの気持ちは分からないけれど、オビトから告白されて、意識しだして、リンもオビトを好きになってしまうかも。
 そうなったら、わたしは失恋確定だ。

「よし……よし!」

 あれこれ悩みながら一夜を過ごし、ろくに眠らずに日の出を迎えたわたしは、布団から起き上がると気合を入れた。

 言おう。告白しよう。決めた。もう決めた。絶対に言う!

 いつまでもうじうじしていてはだめだ。そんな時間はないと分かっているのだから、だったら行動あるのみだ。
 リンから、今日は朝早くから任務があって、夕方には終える予定だと昨日聞いていた。
 なら、終わった頃を見計らって、うちはの集落の近くでオビトを待っていよう。あの集落への出入りの際、オビトはいつも同じ出入り口を使っているから、そこで待っていればオビトに会えるはずだ。
 わたしも今日は任務がある。といっても、クシナ先生が上層部に命じられた、書庫の整理の手伝いだ。書庫と言ってもただの書庫ではない。普段は厳重に閉じられていて、重要書類などが詰まっている特別な書庫。わたしたちは主に、作業をするクシナ先生を手伝いつつ、一時的に開いている書庫の中身に手を出す不届き者を警戒する役割も担っている。
 お守りをポーチに大切に仕舞ったあと、集合時間に遅れないように家を出た。今日の任務、オビトよりも遅く終わらなければいいな。



 幸運にも、わたしの任務は夕方になる前に終わった。これなら間に合うだろう。
 急いでうちはの居住区の、出入り口へと向かった。当たり前だが、出入り口近くは、背中にうちはの印を背負う人ばかりで、明らかにうちはの者ではないわたしは、出入りの人たちからジロジロと見られた。

「君。こんなところで何をしているんだ?」

 とうとう、一人の男の人に声をかけられた。長い髪を後ろで一つに縛って、鷲鼻が目立つ。うちはの人だ。物言いや表情は柔らかかったけれど、瞳はわたしの真意を探るように鋭かった。

「と、友達を待っています。うちは、オビトを」

 嘘をついてもいいことはない。本能に近い部分でそう考え、正直に話した。

「オビトの友達か。そういえば、何度か見た顔だ」

 男の人は合点がいったとばかりに、わたしの顔を見て言う。うちはの集落に入り、オビトの家に行ったことはある。リンと二人でだったり、はたけくんも入れて三人だったり。その頃は、こんな風に、いかにも『余所者』と疑わしい目で見られたことはなかった。わたしが幼かったからだろうか。

「なら、こんなところで待たずに、家の前で待ったらどうだ?」
「い、いえ……ここで、待ちたいんです。だめですか?」

 家の前で待つのが確実なのは分かっているけれど、そうなるときっと、家の中で話すことになる。それは避けたかった。二人きりの空間をきっちり浮き彫りにさせる場所じゃなくて、もっとこう、開けた場所で、尚且つ人が居ないという、そういう都合のいいところだいい。要するに、人気のない外のどこかだ。

「構わんが……まあ、いい」

 口ではそう言いながら、『構います』といった苦い表情を見せつつも、男の人は一つに縛った髪を揺らして背を向け、引いてくれた。
 追い払われることがなくてホッとして、うちはの人から変な動きをしていると思わないように、それからじっとオビトを待った。
 空がだんだん暗くなり、太陽が西に沈んでいく。少しだけ寒さも感じてきた。まだかな、と足下に目を落とした。木ノ葉の忍の、ほとんどが履いているサンダル。先月買い直したばかりだ。

「サホ?」

 声がして顔を上げると、オビトが立っていた。辺りの薄暗さの中で、わずかな夕陽の光を受けて、オレンジ色のゴーグルが反射している。その姿を目に入れただけで、ドキッと胸が鳴る。

「なんだよ。どうしたんだ、こんなところで」
「お……オビトを待ってて」

 上擦った声が口から出て、ヒヤッとした。変に思われないかな、いや、きっと大丈夫だ。

「そっか。ならオレの家に来いよ。お茶出してやるから」
「あっ……いや、その。家じゃなくて、違うところで話せない?」
「違うところ?」
「ちょっと、ね」

 チラチラと、うちはの居住区とは反対の方に目を向けるわたしに、オビトは察してくれたのか、

「なら、あっちに公園があるから、そこに行こうぜ」

と言って、あっちと指差した方へと歩いていく。わたしはその背を追って、横ではなく後ろについた。紺色の上着に施された赤いうちはの紋は、色の対比のおかげで浮き上がって見えた。
 オビト、なんだか大きくなった気がする。そういえば、いつの間にか身長に差がついている。アカデミーの頃は、わたしとそう変わらなかったはずなのに。
 公園にはすぐに着いた。時間が時間だから、子どもの姿はない。時折強い風が吹いて、揺れるブランコと葉擦れを立てる木々以外は静かに沈黙していた。

「話ってなんだ?」
「えっと……」

 着くや否や、オビトは振り向いて直球で問う。前置きだとか、ワンクッションだとか、そういうものとオビトは縁遠い。いつも感情的で、思ったままに動く。そういうオビトも好きだけど、今は心の準備をもう一度整える時間が欲しい。

「オビトは、今日の任務はなんだったの?」
「今日か? 今日は、霧隠れの忍の姿を見かけたって情報があったから、そこを調べに。見つけられなかったんだけどな」
「そっか」

 とりあえず無難な話題をと、今日の任務について訊ねた。オビトはスラスラと答えた。

「そんでさぁ、カカシの奴、すーぐ文句言いやがってさ。『考えなしに前に出るな』とか、『なんでもすぐに攻撃を仕掛けるな』とか」

 頭の後ろに手をやって、唇を尖らせ、はたけくんへの愚痴を口にする。オビトははたけくんの口ぶりを真似してはいないのに、わたしの脳内には、すんなりとはたけくんがそうやってオビトに言っている姿が浮かんだ。そのはたけくんに向かって、噛みついているオビトも浮かぶ。同じ班になってから考えてももう数年経つのに、変わらず喧嘩ばかりだなぁと、笑いが込み上げてきた。

「リンはリンで、『カカシはやっぱりすごいね』なんて言うし……」

 オビトの口から『リン』が紡がれて、わたしの笑いはすぐに引っ込んだ。頭の中の、喧嘩するオビトとはたけくんの間に、困った微笑みを浮かべるリンが現れる。

「今日もリンの前で、カッコ悪いとこ見せちゃったし……」

 目の前に立つオビトは、眉が寄って、伏し目がちだ。はたけくんと喧嘩しているときの強気な姿とは別人のように、物憂げな顔になる。完全に夜になる前の、世界が藍色に染まるこの闇の中に、そのまま溶けてしまいそうなくらい、儚く見えた。
 明るい太陽みたいなオビトが、暗く沈むのは、いつだってリンのこと。

「なんてな! まあオレは、火影になる男だからよ。カカシの奴なんか屁でもねーんだけど!」

 憂鬱を吹き飛ばすように、オビトは強気な言葉と共に、歯を見せてニッと笑った。闇に同化しそうだったオビトは消えて、普段通りの、地上に足を付ける太陽のオビトに戻った。

「で、サホ。何か話があったんだろ?」
「あ……うん……」

 再度、オビトを訪ねてきた用件を問われ、わたしはさっきよりもずっと、言葉を失くし、勇気も失くしていた。
 オビトは黙って、わたしが口を開くのを待ってくれている。早く言わなくてはいけない。けれど、やっはりオビトの特別はリンなのだと思い知らされたら、お守りをあげることもできそうにない。

「ほら、はたけくんの上忍祝いのプレゼント、何にしようか決めてなくて。オビトはもう決めたかな、って」

 何か適当な話題はないかと、最近頭の隅で考えていた内容を振れば、オビトはしかめっ面になった。

「あいつにやるもんなんてねぇよ」

 あ、まずい。よりによって、はたけくんの話題を振ってしまった。それも、一足も二足も先に上忍になったお祝いの件について。オビトが今一番悔しがって、気にしていることを話題に出したのは、完全にして最悪なミスだ。

「オレ、明日も早いからもう帰るな。サホも早く帰れよ」

 機嫌を悪くしたオビトはそれだけ言うと、先に公園を出て、うちはの集落へと帰って行った。
 怒らせた。怒らせてしまった。
 ああ、なんてことだ。
 わたしは何をするために、オビトの下へ来たの? 告白をするためでしょう?
 なのに、どうしてこんなことに。
 気持ちを伝えるどころか、お守りすらも渡せなかった。
 せめてこれを渡せていたなら。
 ごめんね。ごめんね、オビト。
 あなたを怒らせるつもりはなかったの。
 ただ、好きと伝えたかっただけだったの。



20 泡にも溶けぬ言葉

20180524


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