「今回は前より多いな」
「前回も合格者が少なかったからね。母数が多いと、どうしても人数も増えるよ」
周りを見ながら、ナギサとヨシヒトが指し示すのは、中忍への昇格試験を受験する、下忍たちの数。受験資格は三人一組なので、自然とみんな、三人で固まっている。
試験会場に掲げられているのは、『中忍試験 第三次 個人戦』の垂れ幕。今日は中忍試験の、第三次試験の日だ。
中忍試験を受けてみないかと、クシナ先生から問われたのは一ヶ月ほど前。下忍になって一年が過ぎた頃だ。
「中忍試験、ですか?」
「ええ。受けるだけでも経験になっていいと思うわ」
呼び出しを受けて、よく集合場所にしていたアカデミー前の花壇の辺りで三人揃って待っていたら、クシナ先生が現れて開口一番に『中忍試験を受けてみない?』とわたしに訊ねた。
中忍試験の存在自体は知っているけれど、まだ下忍一年目がやっと過ぎただけの自分が、果たして合格するだろうか。いや、きっとしないと思う。恥ずかしながら、わたしはまだまだひよっこだ。
「ヨシヒトとナギサは?」
「僕たちはこの前の試験で落ちちゃってね。受験できるならしたいね」
「俺も」
一期上である二人が落ちたとなれば、ますます受かる自信はない。
けれど、クシナ先生が言うように、これも経験の一つだと考えると、受けるだけでもいいかなと思えてくる。
前線にあまり出ない班に所属するわたしには、とにかく経験が必要だ。中忍試験ともなれば、実戦で得られるような何かが手に入る可能性もある。
「受かる自信はあまりないですけど……受験させてください」
最初から弱気な宣言をするのはよろしくないだろうけれど、意気込みだけはある。中忍試験を経験することで、得られるものがあるというのなら、それを全力で手に入れてこようという気概だけはあるつもりだ。
「うんうん! サホが自分から受験したいって言ってくれてよかったってばね」
ポンポンと両肩を叩いたあと、先生はヨシヒトとナギサに「よかったわね」と声をかける。何だろうか、と二人に目を向けると、ヨシヒトが微笑んで応えた。
「実は、中忍試験は三人一組じゃないと受験できないんだよ」
「えっ? そ、そうなの?」
「それを言ったらお前は、俺たちのことを考えて、俺たちのために受験しなきゃって思うだろうから、伏せておいたんだ」
ナギサの言うとおりだ。わたしのせいで二人が受験できないとなれば、わたしの意思など二の次で、『二人のために』と受験することにしただろう。
結果的に中忍試験を受験し、経験を積むことはできただろうけれど、『自分のため』と『他人のため』で挑むのは違う。はっきりとは言えないけれど、きっと違う。ヨシヒトたちがわたしを慮って、わたしの出方を窺ってくれたところは、やはり一期上の先輩らしい。
オビトたちが三人一緒に居られることを羨ましいと思っていたけれど、今は二人とスリーマンセルを組めたことが嬉しい。この三人で居られてよかった。心から思う。
「これでヨシヒトもナギサも、気を負わずに受験できるわね」
「はい。美しきクシナ班の、最初にして最後の中忍試験となるよう、羽ばたいていきましょう」
「あー、ぶっとばすぞ」
もはや相槌としか思えないナギサの口癖を耳に入れながら、二人の足だけは引っ張らないようにと気合を入れ直した。
一次試験はペーパーテストだった。すでに一度受けたことがある二人から、ペーパーテストの可能性を伝えられていたので、事前に予習、復習を重ねていたことが実を結び、わたしたち三人は無事に通ることができた。
一緒に受験していたミナト班は、あやうくオビトが落ちるところだったけれど、何とか補欠合格を手にすることができたようだ。
「リンが居なかったら絶対落ちてたな。ありがとな、リン!」
「どういたしまして」
礼を言うオビトに、リンは柔らかく笑んで返す。
いいなぁ。やっぱり、オビトはリンしか見ていないなぁ、とチクンと胸が痛くなる。
でも今は、何より中忍試験だ。受かる気など皆無で挑んだけれど、ヨシヒトとナギサの足を引っ張ってはいけない。今年で下忍数年目の二人としては、そろそろ受かっておきたいというのが本音だと言うから、自分の恋心より、忍としての本分に集中しなければ。
次の第二次試験は、班での対抗戦だった。戦闘に向いていない班構成のわたしたちはかなり不利ではあるけれど、運よく、当たった班はわたしと同じ下忍二年目しかいない班だったので、何とかうまく勝ち上がっていくことができた。
ヨシヒトの強力な幻術を主に生かし、時にはわたしがクシナ先生直伝の結界忍術で相手の動きを止め、その大柄な体格を生かしたナギサの体術で相手を仕留めていく戦法を見ていたはたけくんに、
「医療忍者がトドメを刺すって斬新だね」
と、感心しているのか皮肉なのか区別がつきにくい言葉を頂いた。もちろん、ナギサばかりがトドメを刺すわけではない。ただ、今のわたしの腕では、術を発動させて複数の人間の動きを制したら、それが精一杯。なのでなかなか、そのまま攻撃に回れないのだ。
相手がよかったこともあり、クシナ班は二次試験も突破できた。オビトたちのミナト班は、オビトが遅刻ギリギリというアクシデントや、豪火球の術を使おうとして不発し、ガイくんに思いっきり蹴りをもらったりして、さすがのリンも苦笑いを浮かべていた。
それでも、はたけくんの強さもあって勝ち残り、第二次試験も合格した。
そして今日は第三次試験。ここからはチームではなく、個人の実力を問われる。戦闘があまり得意ではないわたしからすると、どうか勝てそうな相手と当たることができたら、と組み合わせの発表を祈るように待ったけれど、残念ながら、今回は相当運が悪かった。
相手は、ヨシヒトたちと同じ一期上で、しかも戦闘に特化したタイプ。風遁や結界忍術を自分なりに上手く使ったけれど、健闘虚しく敗れた。
「お疲れ様。残念だったけど、持てる力を出し切る姿に、戦の女神が微笑んだね」
「おい、テキトーなこと言ってんじゃねぇ。微笑んだなら勝たせるだろうがよ。でもま、頑張ったな」
二人の下へ戻ると、温かく迎え入れてもらって、負けたくせにわたしは笑顔になってしまった。
確かに、今の自分を最大限に出し切った。だからか、負けた割には清々しい気分だ。何度も練習しても自信がなかった術も、ぶっつけ本番でやってみたらうまく成功したし、すんなり相手に勝ちを譲ったつもりはない。胸を張って、精一杯頑張ったと言える。
負けたわたしは、試験会場の、壁際に設置されているギャラリーから、ヨシヒトとナギサの試合を見守りつつ、オビトたちミナト班にも注目した。
リンはわたしと同じく、残念ながら初戦敗退となった。やはり医療忍者だと、戦闘向きの忍術より医療忍術を重視して学んでいくから、どうしても手数が少ないのが課題だと、自分でしっかり分析していた。
同じ医療忍者のナギサは、その辺も考慮して、自分の身を守るべく体を鍛えた結果、医療忍者には見えないくらい筋肉質な大柄の体格になったらしい。リンが「私も見習おうかな」と言っていたけれど、リンがムキムキになるのを想像したら、なんだかリンじゃない気がしたので、ほどほどにねと制しておいた。
オビトはガイくんと対戦することになった。対戦前に、恐らく第二次試験のときのことだろう、「この間のお返し」などと何やら声を上げていたけれど、
「誰だお前は!? オレは怨みを買うような覚えはないぞ!」
とガイくんから返され、自分のことなど全く覚えていないガイくんに怒りを露わにしていた。二次試験から日が経っているとはいえ、そんな何年も前のことじゃない。そもそも、アカデミーで同じクラスだったのに。
「ガイくんの人の顔を覚えない癖、本当にすごいね」
「忘れられている方が、変に絡まれないからいいと思うけど」
隣のはたけくんに言うと、うんざりした顔をした。大変に重みのある言葉で、「そんなことないよ」などと気軽に返せる雰囲気ではない。
肝心のオビトの試合は、リンの応援に答えるのに気を取られた、その隙を突いたガイくんの見事な蹴りを顔に食らってしまい、負けてしまった。
「何やってんだか……」
呆れて目を細めるはたけくんと対照的に、リンは心配そうな声を上げたあと、救護室に連れて行かれるオビトに付き添うべく、ギャラリーを降りて行った。わたしも一緒に行きたかったけれど、次はヨシヒトの試合だったので、グッと堪えてその場に残った。
ヨシヒトは幻術と、得意の水遁をうまく使い、危なげなく勝った。このままうまくいけば、ナギサもヨシヒトも中忍になれるに違いない。
リンと共に救護室から戻ったオビトは、左目に大きなガーゼを貼っていた。
「オビト、大丈夫?」
「おう。医療忍術で大体は治療してもらったし、目自体には問題ないってさ」
普段から、いずれ開眼するであろう写輪眼のため、ゴーグルをしたり目薬を差したりと気を遣っているオビトにとって、目の負傷は他の部位よりも怖いものだろう。大事がなくてよかった。
「――始め!」
審判の掛け声と共に、次の試合が始まった。会場の中央、みんなが注目している先には、はたけくんとガイくんの姿がある。当然だけど、わたしたち二年目とは試合模様がまったく違う。息をつく暇もなく互いに技を繰り出していく。
これで同い年で、アカデミーから数えると同期。一回戦で負けたとは言え、尽力した自分に満足していた部分が、バッサリと切られる。
もっと頑張らないと。自分は戦闘に特化していないタイプだから、と言い訳していてはだめだ。特化していないからこそ、そこを補えばさらに強い忍になれるのだから。最近はずっと結界忍術や封印術ばかり鍛えていたけれど、決定的な攻撃に繋がる風遁忍術にも力を入れよう。
何となくオビトに目を向けると、ぶすっとした顔ではたけくんを見ていた。その顔が、少しだけ横を向く。チームメイトのはたけくんを応援するリンの方を。
「やったぁ!」
リンの喜ぶ声にハッとして、試合の行方を確認してみると、ガイくんは体を地につけ、はたけくんのみが立っていた。はたけくんの勝ちだ。オビトの顔はますます機嫌が悪くなり、ギャラリーの手すりに置いていた両腕に頭を伏せた。
中忍試験は滞りなく進み、ほぼ予定通りの時刻に終わった。
ヨシヒトとナギサは合格し、中忍以上の証でもある緑色の木ノ葉のベストと、中忍試験の合格証書を手にした。
「中忍おめでとう!」
二人が無事に受かってくれて本当にホッとした。純粋に二人が中忍になったことが喜ばしいところもあったけれど、二回戦までは班単位で合否が下されるので、わたしのせいで二人が次の試験に進めなかったらというプレッシャーが大きかったから、それらから解放されてやっと肩の荷が下りた気分だ。
「ありがとう。美しき中忍の誕生に立ち会えるなんて、サホやナギサは幸運だよ」
「うっぜぇ。いつにも増してうぜぇ。ぶっとばすぞ」
木ノ葉のベストを抱えるヨシヒトが優雅な礼を取り、ナギサは眉間の皺を深く刻む。
「ヨシヒト、ナギサ、おめでとうってばね!」
後ろから二人に、勢いよくくっついたクシナ先生は、興奮からなのか頬を赤くしてヨシヒトの頭をガシガシと撫でたり、ナギサの背中をバンバン叩いて、全身で二人へお祝いの気持ちをぶつけた。
「先生、試験を見ていらっしゃったんですか?」
「ううん、ここへ来たのはさっきよ。急いで任務終わらせてきたの」
クシナ先生からは、任務があるので試験を見学には行けないと事前に言われていた。戦争中の今は慢性的な人手不足だから、上忍師には通常任務が割り振られていると。なので訊ねてみると、やはり任務をこなしたあとらしく、終わり次第こちらへ顔を出してくれたらしい。
普段はセットした髪型が崩れたらすぐに直すヨシヒトも、あんなにバンバン叩かれたら睨みの一つでもきかせるナギサも、先生が屈託ない笑顔で二人の昇格を喜ぶものだから、そんなこと気にも留めずに笑い返したり、どことなく照れた様子も見せる。
「中忍になったからには、もう下忍の頃のような失敗や未熟さは許されないわ。今まで以上に、気を引き締めるのよ」
中忍になった二人に、喜びで緩んでいた表情を真剣なものにし、クシナ先生が言うと、二人も姿勢を正し、同時に「はい」と返した。二人の返事を見て、満足そうに微笑んだ先生が、わたしへと向き直る。
「サホは残念だったけど、どう? 中忍試験を経験して」
「色んなことが分かりました。封印術の勉強も大事ですけど、やっぱり一対一の戦闘を考えて、体術もそうですし、風遁の術も実戦で使えるほどのものにしておかないといけませんし……他にも自分に足りないものはたくさんあって……だから、もっと学んで、修業を重ねていきたいです」
「うんうん! これからも三人で頑張るってばね!」
気合を入れるかのように、クシナ先生がわたしの背中を思いっきり叩いた。わたしは勢いを堪えきれず数歩前に進んでしまう。
「三人でって……でも、中忍になった二人は、他の中忍と班を組んで任務に出たりするんですよね?」
今は腕がある者はあちこちに派遣される。中忍であれば、下忍を連れて班を作ることも可能だ。中忍同士で組めば、下忍と組むよりもより戦力になる小隊ができる。
「もちろんそういう場合もあるわよ。医療忍者なんかは貴重だし、ナギサは臨時で別の班に加わることも出てくるでしょうね。でも、せっかく連携が取れているところを崩すことがいいとは限らないわ。それにサホだったら、次の中忍試験は通るわよ」
「そ、そうでしょうか」
当然のようにクシナ先生が言うけれど、正直わたしは自信がない。もちろん修業して力をつけ、昇格を目指して次の試験を受けるつもりだ。だけど、はたけくんとガイくんの試合で、まだまだ自分は弱いなと痛感されられたばかりだから、次の中忍試験に受かる自分を想像できない。
「そうだよ。サホはすぐに中忍になるさ。だから共に美への高みを目指すべく励もう」
「こいつの言ってることはほとんどくだらねぇが、次の試験で合格したいと本気で思ってるなら、別の下忍と新しく組むより、中忍の俺らと組み続けた方がいいだろ」
わたしと組み続けることは、中忍の二人の足をさらに引っ張り、中忍として力をつけたい二人の邪魔になるのではと思っていたけれど、二人にはそんな考えはないようだ。わたしに対する気遣いや、期待をじわりと感じる。
二人が言ってくれているんだから、うじうじと後ろ向きなことは考えるのはやめよう。まずは動いて、良い結果を出そう。
「あっ。でも、中忍試験は三人一組なんですよね?」
「そうよ。だからサホは、他の下忍と組んで申請しないといけないんだけど……ちょうどいいじゃない。オビトとリンと一緒に受験すれば。二人とならチームワークはもうばっちりだってばね」
中忍試験の受験資格のことを思いだして問えば、先生はオビトたちの名前を出した。ミナト班ははたけくんのみが試験に合格し、中忍に昇格した。中忍ベストを持ったはたけくんを見て、リンは心から喜んで、オビトはぶすっとした顔をしていて、本当に悔しそうだった。
「試験の合格者は今から軽い説明会があるみたいだし、今のうちに二人と次の試験の約束をしておいたら?」
「そうですね。いってきます」
善は急げと言うし、他の誰かに先を越されるまえに、二人と試験に挑めるように話しておかなければ。わたしは合格者たちや、その仲間たちの中を掻き分け、オビトたちを捜してみた。
「あっ、はたけくん」
合格者たちがぞろぞろと吸い込まれていく出入り口で、はたけくんの姿が見えたので声をかける。はたけくんはわたしの声に気づき、足を止めた。
「はたけくん、オビトたち……あ、じゃなくて。昇格おめでとう」
そういえばお祝いの言葉を伝えていなかったと、まずはそちらを伝えると、
「ありがと。オビトを捜してるの?」
相変わらずだね、と言いたげな顔で問われ、言葉に詰まった。そんなつもりはないのに――でも確かに今はオビトを捜しているけれど――まるでわたしが、いつもオビトのことばかりを考えている人みたいな扱いだ。
「オビトと、リンをね。次の中忍試験で、一緒に組んでほしいなって思って」
「ああ、なるほどね。近くに居るとは思うよ。ミナト先生が任務を終えてそろそろ里に戻ってくるだろうから、オレの中忍昇格祝いで、四人で夕飯を食べようってリンが言ってたから」
わたしに手早く説明を終えると、はたけくんは長い息を一つ吐いた。
「ま、オビトはそんな気なんかなくて、帰ってるかもね」
「そんな気ないって……さすがにオビトでも、お祝いする気持ちはあると――」
「思う?」
「……あんまり……」
「でしょ」
肩をすくめるはたけくんに、うまいこと反論できない。チラッと見ただけだけど、オビトの顔には、祝うと言う気持ちは微塵も感じられなかったし。
話は終わったとばかりに、はたけくんは勝手に切り上げて、人の流れに乗って他の合格者たちと共に行ってしまった。
わたしも早くオビトたちを捜さないと、と辺りを見回してみるけれど、二人の姿はない。もうここから去ってしまったんだろうか。けれど、はたけくんが言うなら、近くに居るはずだ。少なくともリンは。
あれから近くを捜したけれどすぐには見つからなかった。『近く』という括りが広かったのかと思い、徐々に範囲を広げて、ようやく姿を見かけたのは、夕陽が眩しく照らす道でだった。
道の脇に備えられた、石作りのベンチにオビトが座っていて、リンが何か声をかけていた。わたしは二人から離れた位置で、リンの背中と、オビトの横顔が遠くに見える位置に居る。
「次の試験で頑張りましょうよ」
明るい声はわたしの耳にまで届く。リンに優しく声をかけられたオビトは、それでもなかなか気持ちは上向きにならないようで、何やらボソボソと言い、リンが「何言ってるの!」と喝を入れるように言って、オビトの隣に腰を下ろした。いつも穏やかなリンから大きな声が出たのにオビトが驚く姿が、隣のリン越しに見える。
「火影になるんでしょ」
説くような物言いに、オビトの肩が大きく揺れた。
「私がちゃんと見てるから」
そう言ったあと、リンはきっと、拳を作って見せた。背中だけでは、そんな動きをしただろうという想像しかできない。
オビトはリンの言葉がよほど嬉しかったらしく、さっきまで落ち込んでいたなんて嘘みたいに笑っている。
記憶の中に、これと同じものを見た気がする。圧倒的な速さで下忍になり先を行くはたけくんに、オビトが悔しがっていたときだ。リンが隣に寄り添って、オビトを励まし、オビトはリンに「自分を見ていてほしい」と告げた。
あのとき、わたしはただ見ているだけだった。オビトがリンを好きだと気づいて、目を背けたくて逃げ出した。
一人中忍になったはたけくんを見て落ち込んでいるオビトを、またリンが励ます。今回もまた、見ているだけでいいのだろうか。
そんなのだめだ。このままじゃ、オビトの目にわたしは映らない。
「――オビト! リン!」
名を呼ぶと同時に駆け出し、二人の前に着くと、突然現れたわたしに一瞬目を見開いて驚き、すぐに表情を崩して「サホ、どうしたの?」とリンが穏やかに訊ねた。
「わたし、今度の中忍試験も受けるつもりなの。よかったら一緒に組まない?」
言った。言ったぞ。
言ったあとで、二人がすでに他の人と約束していたら、という可能性に気づいて、心臓がバクバクする。
オビトは同じ班のはたけくんと比べると見劣りされてしまいがちだけど、日々の修業の積み重ねや、うちは一族という元々の素質の良さもあってか、十分な実力を持っている。リンは医療忍者なので後方支援タイプではあるけれど、自分の身は自分で守るという姿勢を持つため、決して弱くなんかない。
どうか、二人がもうすでに別の人と組んでいませんように。内心、祈りながら二人の反応を窺った。
「そっか。受験は三人一組が条件だものね」
「そういやそうだな。オレとリン、サホならちょうどいいや」
顔を見合わせるリンとオビトの会話から察するに、二人が他の誰かと約束はしていないみたいだ。ホッと胸を撫で下ろし、即行動に移してよかったと一息つく。
「わたしと、オビトとリンの三人なら、きっと中忍になれると思う」
「だな! よしっ、三人で中忍を目指そうぜ!」
オビトがベンチから腰を上げて、握り拳を茜色の空へと上げる。わたしとリンも後に続いて、掛け声を上げながら三つの拳が空を突いた。
自分の言葉に嘘はなかった。本当に、この三人で頑張ったなら、中忍昇格も夢じゃない。恋愛よりも、まずは中忍になることが先だ。今はオビトへの恋心だとか、リンへのヤキモチはグッと我慢して、三人一緒に中忍になることにだけに集中しなければ。