「あっ、そこ…、っ」
「ソコがなに?」
「ソコがいいっ…んぅ、」
感じてもいないくせに、もっともらしい声をあげて
「んん、…ゃ、ッ…」
もっともらしい鳴き声を偽造しながら
今日も、名前もわからない男と身体を擦りあわせる。
情事が終われば、いつものように寝たふりをして、
身体のあちこちにまと纏わりつく不快な舌を無視する。
“はやく、消えろ”と脳裏で必死に唱えながら。
ベッドにお金が置かれて、未だに狸寝入りを決め込む私の頬に唇が押しつけられた。
男が出ていった後に“気持ち悪っ”と呟いて、お金を確かめる。
その間にも私の身体は、正確に言うと子宮は、ある男を求めて疼き始める。
ガチャリと扉の開く音がして、足音がこちらに近づいてくる。
扉の開く音、足音。これだけで誰だか分かってしまうなんて、どれだけ惚れ込んでいるのか。愚かなことだと思うが、こんな自分は嫌いじゃない。
「ロイ、」
その黒い瞳が、私の身体を舐めまわすように視線を注ぐ。それだけでイってしまいそうになるこの身体は病気にでもなっているのか。
「今日の相手は随分と独占欲の強い男だったようだな」
「え、?」
「俺のものだと言わんばかりに、君の身体に印をつけているよ」
そう言いながら、わたしの身体を撫で回す。
「んっ」
「今日の男は、いい気分にさせてくれたのかね?」
「その話いや」
私の身体を、さっきまでは他の男が貪っていて。
ロイは私が客を取るたびに、そのあと私の身体を酔わせてくれる。ロイしか私をいい気分にはさせてくれない。でも、最後まではしてくれない。ロイとは一つになれない。幾人との男と繋がりをもったかはわからないくらい、私の身体は汚くて。だから、これが神様の与えた“罰”なのかもしれない。本当に愛しいと感じた相手だけとはつながることが出来ないなんて。惨めなものだ。
「…ロイ」
「どうした?」
彼の指に散々弄ばれた後。
「この後、用事は?」
「待っている人がいるんでね」
「そう、」
聞かない。「だれ?」なんて野暮なこと。
彼には恋人がいて。私は彼の、オモチャ。
そう。彼女では試せないことを、私の身体で彼は試すのだ。
「楽しんできて」
「ああ、」
短く返事をして、彼は出ていく。
私はオモチャ。オモチャが持ち主を愛すなんて、当たり前でしょ?
オモチャはオモチャらしく。役目を果たすだけ。
愛の上に嘘を重ねて
(本物が手に入らないなら、偽物をたくさん)