*フューチャー設定リスペクト
曾孫鬼道さんが出てきます。曾孫鬼道さんはカノンくんの従兄弟です。







「ひいじいちゃんの葬式の時にさ」

ぽつり、とカノンは鬼道にだけ聞こえるような、彼にしては小さな声でもらした。
――ぞっとするほど、何かが抜け落ちたような声だった。
生まれてこの方十何年と共に育ってきたけれども、そんな色の彼の声なんて今まで聞いたことがなかった。
カノン、と鬼道が思わず名前を呼んで服の袖を引くと、ん?彼はこちらへと顔を向ける。

「あ、ひいじいちゃんって有人ひいじいちゃんのことな」

鬼道に向かってそうにかりと破顔してみせた彼はいつもと変わりはなく、訳も解らぬ不安に掻き立てられていた鬼道はほう、と胸を撫で下ろす。
そんなことは分かっているさ、と鬼道は隣の幼馴染みにやっていた視線を正面に戻した。

大きな棺。
周りを幾人もの大人が囲んでいる。
誰のものとも知れないすすり泣きが聞こえる。
それを少しだけ後ろから見ながら、棺の中に居る人のことを想って、鬼道はぎゅうと手に持った一輪の花に力をこめた。
数年前のもう一人の曾祖父の葬儀の時には、みっともなくも泣き散らしたのをあの人に慰められたのだ。頭を撫でてくれた、大きな手を思い出す。



「…ひいじいちゃん、言ってたんだ。“死んだ人に勝つのは難しい”って“風化するどころか、むしろ勝ち逃げされたようなもんだ”って」

――俺は結局勝つことが出来なかったんだ、ってそう言ってたんだ。

優しい、曾祖父たちだった。
仲の良い、曾祖父たちだった。
けれども彼らの、互いへと向ける視線の違いに気付いたのはいつのことだっただろうか。
毎年毎年、決まった日に白い花束を持ってどこかへ出掛ける自分と同じ鬼道の名を持つ曾祖父を見送る、彼の視線に込められた意味に気付いたのは。


「俺、その時はよく分からなかったけど……今なら」

――分かるんだ。


ふともう一度、隣の幼馴染みへと顔を向けた鬼道はその時ようやく、彼がぼんやりとした視線を向けるその先に気付く。気付いてしまう。
大人たちが涙を堪えながら、最後の別れと共に一輪ずつ棺に花を供えていくその中。
黒一色の喪服の中、一際目立つモスグリーンの軍服。
普段は被らぬ軍帽を、目深に被った彼。
幼馴染みが彼へ向ける視線に込められた意味に、気付いたのはいつのことだったろうか。

ぎゅう、とどこかが痛んだ。
諦めた筈の、気付かない振りをしていたそれが鬼道を痛め付ける。
知らぬ内に力の入っていた手から、花を握りつぶさぬように力を抜く。

母親が、すすり泣きと共に自分と幼馴染みの名を呼んだ。
行こうカノン、と幼馴染みに声をかければ返事をするのはいつもの彼なのだけれども。すれ違う深緑を追う視線に気付かなければ、自分も幸せにいられたのだろうか。

覗き込んだ棺の中。
眠るように目を閉じた、幼馴染みによく似た面立ちの曾祖父の、あの時よりも幾分か痩せ細った手をそうっと握る。
あの時のようには泣くまいと、決めた筈の瞳から滴が溢れる。

「……生きてる人間に勝つのも、難しいものですよ」

彼の顔の横に白い花を一輪そえて、鬼道は小さく呟いた。
振り返れば、会場のどこにも深緑は見えなくなっていた。





視線のその先








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曾孫鬼道さん→カノン→バダップ→円堂さん→鬼道さん→影山。
みたいな感じで