「や…ばっ…!!」

息を切らせて、蒸しばみ始めた空気の中坂道を駆け上がる。
一体誰だ、こんな坂道の先に学校を作ったのは!
いや、そんなの誰でもいい。
問題なのは今日遅刻するかしないか、それだけだ。
よりにもよって今日。
他の日であれば多少の遅刻など、こっそりと校内に入り何食わぬ顔で着席してしまえば

問題はないのに。
ただ、今日だけは。
頭の中に、神経質そうにこちらを睨む氷のような瞳が浮かんで、ぞっと鳥肌が立つ。
ああ、もう!
ぶんぶんと首を振って浮かんだ幻を消し去ろうとする。遅刻の罰も嫌だが、何よりあの

人のことが緑川は苦手なのだ。
だからこの日だけは遅刻しないようにと気を付けていたのに!
懸命に走るとようやく校門が見えてきて、先程脳内から必死で追いやった人物が偉そう

に腕を組んで立っていた。おはようございます現実。彼は今日も朝から不機嫌そうだ。
風紀を守る風紀委員長だというのに、朝の苦手な彼の一番嫌いな職務は朝の校門
検査。
だから、遅刻者・違反者はここぞとばかりに彼の八つ当たりを受けてしまう。


まだ、鐘は鳴っていない。
間に合うか?
緑川の苦手な彼はというと、準備はできているとばかりに他の委員に指示をしている。

準備とは勿論閉門の準備。

(ラストスパートだ緑川…!!)

そう自分を鼓舞して、ぐ、と足に力を込める。
不適に笑う風紀委員長。
今にも閉められそうな門。
鳴り響く―――鐘。


「よっ…しゃあああああああ…!!!!」

キンコンカンコン、と耳に慣れた鐘の、その「キ」の所で緑川は校門をくぐり抜
けた。
後でガシャンッ!と重い音を立てて閉まる門。
正にギリギリ。危ない所だった。
チッ、と舌打ちが背後から聞こえたのは気づかない振りをした。

はぁはぁ、と膝に両手をついて乱れた息を整えている緑川をよそに数人の風紀委員がじ

ろじろと緑川の様相をチェックしていく。
委員長、服装も違反ありません。
そう告げた委員の言葉に再び舌打ち。それには流石に振り返ってしまった。


「ほら、さっさと行きなよ。次の鐘までに席につかないと違反だからね」

不機嫌そうに髪をいじりながらこちらを睨む彼に振り返らなければよかったと後悔しつ

つ、分かりましたと未だ調わない息で返す。
遅刻しても睨まれ、遅刻せずとも睨まれて。理不尽だな、と思っていると思考がもれた

かのように彼はさっさと行け!と苛立ちのこもった声を上げたのだった。





走れ遅刻魔!





ふ、と校舎を見上げると三階の窓からこちらに向かってひらひらと手を振る姿が見えた


今までのことを見られていたのか、と思うと恥ずかしかったがそれよりも朝から彼を見

れたことが嬉しくて、思わずぶんぶんと思いきり手を振る。
それにまた手を振り返してくれた彼の唇が、はやくいけ、と動いて緑川は校舎に向かう


先ほどとは一転して幸せな気分に浸っている緑川は、背後で聞こえた怒声やら悲鳴を聞

こえなかったことにした。




「南雲晴矢ァァァァァァァァァァァァ…ッ!!貴様…体育委員長の癖に遅刻してく
るとは何事だ!!」
「ちょ、おま、いたい!いたい!!ノーザンインパクトはやめろオオオオオオオ…!!!!!」








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お題をこちらからお借りしました→Aコース