鬼道さん女体化=有奈さん春奈ちゃん男体化=春人くん 「鬼道さん!」 俺が声をあげれば、ゆっくりと彼女が振り返る。 ひらりと、その深紅のマントを翻してこちらを向いた彼女は声の主が俺だと分かるとその鋭い目をふ、と緩めた。 「佐久間」 そう、彼女の口から俺の名前が紡がれるだけで俺は幸せすぎて死んでしまいそうになる。 死ぬのなら彼女を守るために死ぬと決めているから、勿論ここでは死ねないのだけれど。 まるで犬のように走り寄る俺に、彼女は凛々しく引きしめられていた顔を崩す。 くすり、と少しだけ見せる笑みに本当に幸せな気持ちになって、元々崩れていた俺の顔は更にだらしなくなっているのだろう。こんなとこ、辺見あたりに見られたら散々からかわれるんだろうな。 昔はこんな風に柔らかく笑ってくれることなんて、こんな風に彼女と話せるだなんて、思ってもみなかった。 帝国に咲き誇る、唯一無二の深紅の華。 まさに高嶺の華と言うべき彼女は、触れることも躊躇われるほどの厳しい気配を纏っていて、参謀として彼女の右腕として動く俺すら彼女に容易に話しかけることは禁忌に思われた。 そんな彼女が雷門に転校して、こうして笑うようになって。 彼女は依然と比べて随分と柔らかい雰囲気を身にまとうようになった。(それが雷門の連中のおかげだと思うと腸が煮えくりかえりそうになるのだが) だが…それもいいことばかりではなくて…。 「き、きどうさん…」 つ、と目線をを落として声を思わず上げる。 少し上ずってしまった己の声。(ああかっこわるい!!鬼道さんにばれてませんように!!) 「…スカート丈…短くありませんか…?」 帝国の時は勿論。 いつもは雷門の校則に沿ってきっちりと膝丈に揃えられている禁欲的なスカートは今は、膝から20cmほどの所で頼りなく揺れている。 「ああ…これか…」 俺の目線を辿って、苦く笑う彼女。 「春人がな、絶対に短いスカートが似合う、と言って」 学校で上げられてからそのままなんだ、そう困ったように笑う彼女はそれでも弟のしたことだからだろう、優しい表情をしている。 ――音無春人 鬼道さん…我らが鬼道有奈さんの唯一無二の肉親。 長い間会うことすら叶わなかった姉に、彼はすっかりベッタリらしい。 鬼道さんもそれはそれは弟を可愛がっていて、姉弟の仲睦まじさといったらすっかり雷門中でも有名だとか。 鬼道さんの幸せならばそれ即ち俺の幸せ。 けれど…けれども…弟にすら嫉妬してしまう俺を許して下さい鬼道さん…。 だって、羨ましすぎるんです…。 弟と言えど、鬼道さんとイチャイチャして鬼道さんにわがままきいてもらえて…。 そう考えるととてもじゃないけど平静じゃいられない。 そんな俺の内心を知るよしもなく、鬼道さんは穏やかな表情のまま続ける。(その顔はまさに全てを許す聖母!)(それが弟に向けられているものだと思うと俺の方は穏やかではいられない) 「春人ったら…この格好でそこら中連れまわすものだから、すっかり疲れてしまった」 こんなに美人の姉を持っているのだから、そりゃあ自慢したくもなるだろう。 しかし!しかしだ…! こんな姿の鬼道さんを多くの野郎の目に晒しただなんて!! 彼はただ自慢したかっただけかもしれないが…許すまじ!! 彼の無邪気な行為の結果、鬼道さんの白いふとももが…今夜野郎どもの夢の中で欲望に汚されてしまうのだ…ああ、鬼道さん大丈夫です…俺が守りますからね!! 「…ま…くま…おい、佐久間!聞いているのか?」 「…ッはい!!鬼道さんのお言葉を聞き漏らすなんて俺に限ってありません!!」 「そ、そうか…?」 あ、危なかった…余りに考えに耽り過ぎていて鬼道さんと居るのにこんな失態…。 鬼道さんは怪訝そうな顔で首を傾げじっと俺を見ていたが、しばらくするとその視線を地に落とし俯く。 先ほどまでは、困った、といいつつ穏やかな幸せそうな顔をしていたのに。 俯いているせいでその表情はよく見えないが、決して明るいものではない。 どうして、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。 どうしよう。 きどうさん、と名前を呼ぶ。 返事は帰ってこない。 きどうさん、もう一度呼ぶ。 しばらくの沈黙の後、さくま、と返ってきて少しだけ安堵。 「正直に言え」 「…はい?」 「…似合わないだろう?」 「え?」 「正直に言え」 分からない。 唐突に問い詰めるような口調で問われたが、本当に思い当たらない。 …と、彼女の手がぎゅ、とスカートの裾を握っているのに気付く。 (あ…) 力が入り過ぎて白くなっているその手に、そっと触れるとびくり、と鬼道さんの体が強張るのが分かった。 それでも躊躇うことはなく、裾からその手を放させるとぎゅっとその両手を握り込む。 「鬼道さん」 「…」 「かわいいです鬼道さん」 「…ッ!」 「顔、上げてください」 ゆっくりと、顔を上げた鬼道さんの顔は真っ赤だった。 色々な感情がごじゃまぜになった顔。 赤い瞳は、不安げに揺れている。 だって、と小さな声が漏れる。 おまえはいつもさわがしいのに、と耳に届くか届かないかギリギリの声。だが俺がこの人の声を逃すことなどはない。 「今日は、何も言わないから」 似合わないんだと、そう思って。 そう言った彼女は手を振りほどくことこそしないものの、俺から顔を背ける。 ああ、俺は、こんな顔を彼女にさせて。 でも、でも。 なんてかわいらしいひと。 握った手に、やんわりと力を込める。 「見惚れてたんです」 「…」 「見惚れて、何も言えなくて」 「…」 「あと…恥ずかしいから言いたくなかったんですけど、春人くんに嫉妬してたんです」 「…は?」 俺の言葉に顔を背け続けていた彼女が、最後の一言で思わず、と言った風に反応する。 ぱちり、とやっと視線が交わって、それでもすぐに逸らそうとする彼女に、へら、と笑って見せる。 「だって春人くん、鬼道さんのその短いスカート姿一番に見たわけでしょう?」 「え」 「悔しいじゃないですか」 「……お前、馬鹿だな」 とうとう、俺から視線を逸らすことを諦めた彼女は、気の抜けたような、呆れたような笑いをこちらに向けてくれた。 強張っていた体もいつしか緩んでいる。 なんだか色々考えたのが馬鹿みたいだな、とぽそりと漏らす彼女に、鬼道さんは馬鹿じゃないです!と言えばまた呆れたような目で見られて。 でも、その目は春人くんの話をしている時みたいに優しいことに気づいて無性に嬉しくなった。 握った手が、なんだかじんわりと暖かい。 そんなことを思っているといつまで握っているんだ、と振りほどかれる。 ああ!とあまりにも俺がしみったれた声を出すものだから、お前は本当に馬鹿だな、と笑われて。 そして、そっと左手を差し伸べられて。 幸せすぎて死んでしまいそうだ、と俺はまた思った。 ....................... 短いスカートと馬鹿
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