※9巻を読む前に書いていました
※ので、過去が捏造すぎ
※キャラ崩壊が著しい、来神





ただのクラスメイトでしかなかった彼を初めて認識したのは、たまたま校舎裏で見かけたときだったと思う。何ら問題のない優等生が、実際に人を切ったこともないくせに、刃物を振り回すその姿は、とても稚拙で、どこかありふれた光景だった。


声をかけてきたのはあっちからだったはずだ。
あの頃から、人間観察が好きだったのだろう。それで俺に気づいたらしい。

下らない挑発をして、切られたりもした。少しは後悔したりするものだろうと思っていたのに、臨也は俺の様子を見てただ楽しそうに笑っていた。それで、なんとなく、俺たちの距離は縮まった。

話してみると、臨也とはなんとなく気が合った。それ以外に比べたら、幾分理解しうる感性をもっていたし。人間としては最低な奴だけど。

それから俺たちは秘密を共有するようになった。どんなことかはもちろん秘密だ。
毎日、毎日、いろんなことを話した。くだらない話や、大げさな話や、とにかくいろいろな話だ。毎日そうやって過ごしていた。初めてできた友達だった。いや、お互い世間一般でいう友人だなんて思ったことは結局なかったんだろうけど。




臨也は昔からよく倒れたりもした。その度に、周りがうるさいからって俺のところに逃げてきた。俺としては倒れた人間を見るのは珍しくもないし、特に興味がなかったってだけなんだけど、それが気に入られたようだ。まあ周りが何と言おうと関係ないのだから、ごちゃごちゃ言われるのも言うのも嫌だと思うのも確かだった。
そんな風にしていたら、本当にしょっちゅう臨也と一緒にいることになった。不思議と、それは違和感がないことだった。

「ここは静かでいいねえ」
「そうかい?」
「静かだっていうのはさ、なによりだよ」
「そう」

誰もいない教室や、時には俺の部屋で、臨也の柔らかい髪をなでながら、ぽつりぽつりと言葉を交わす、その速度が好きだった。俺の膝でくすぐったそうに身を捩じらせたりふわりと笑ってみせたりする姿に、体が軽くなる錯覚を覚えた。

「おかしい」
「何が?」
「新羅でもちゃんと笑ったりするんだねえ」
「……」

そういったことを指摘されるのは気恥ずかしくて、慣れてなくて、俺はどう反応したらいいのかもわからず、いつも不機嫌に黙るばかりだった。臨也はそういう様子を見て、さらに笑うものだから、俺は余計にどうしたらいいのかわからなくなるのだ。


来神は中高一貫だから、おれと臨也は当たり前に同じ高校へ入学した。何が変わるわけでもなかった。ただ一つの変化といえば、そこで小学校の時から、興味の絶えない存在だった平和島静雄に再会したことだ。今度は、ちゃんと友達になった、と思う。とにかく静雄に抱く感情は小学生の時のように、身体能力に対する興味だけではない。こんな風に俺が変わったのは、間違いなく、あいつのせいだった。


俺たちは三人でそれなりにうまくやっていた。騒がしくも、誰もが一線をわきまえているから、煩過ぎもせず、穏やかな日々だった。
だから、今日のこともほんの些細なことだった。
雨の降りやまない6月は臨也の嫌う季節だ。ここの所ずっと臨也の体調はすぐれないようだった。それで、今日派手に倒れたらしい。退き際を見誤ったなんて馬鹿だなあ、なんてのんきに思っていたら、静雄に引きずられるように呼び出されてしまった。

「お前は分かってたんじゃないのか?」

「何をだい?」

「臨也が体調悪いのだよ!」

「それは、分かってたけど?」

だから何だって言うんだ。

「それなのに、お前は臨也を放置したのかよ」

「放置…?そうじゃなくて、そのあと俺と臨也は特に用事とかもなかったし」

静雄がそういう話をしているんじゃないことは解っていた。嫌がらせだ。嘘、自分には違うということしか判らなかった。

「お前は本当に臨也のこと考えてんのか?」

「だから、そういうのが重いんじゃないの?」

「……分かった、もういい」

なんでこの人間がこんなにも感情を露わに怒りに震えているのかが解らなかった。そんなときに無理するか、自分の時間を犠牲に体を休めるか、それは臨也の時間の話なのだから、そんなの決めるのは臨也じゃないか、としか思えなかった。けれど不可解に思う一方で、そんなことに気を留めている自分の成長に感動していた。

「静雄はさ、」

「だまれ…、」

扉が外れんばかりの勢いで開けられて、静雄は出て行ってしまった。

「お前には分からねえよ」

最後に捨て台詞のように吐き出された言葉に妙に納得する。なるほど、俺には分かりそうもない。











荷物を取りに帰るべく教室に戻ると、臨也と静雄が案の定揉めていた。だから言わないことはない。俺だって臨也だって、なぜか静雄を相手にすると感情を抑えられなくなるんだ。俺や臨也が他人と口論するなんてそれこそめったにないことで、それくらいに僕たちは君のことを特別な存在だと思っているのだから、静雄もせめてもう少し我慢出来ないものだろうか。


「シズちゃんには関係ないでしょ」
「関係なかったらなんなんだよ」

「関係ないなら口を出さないでよ」
「嫌だ、俺は言いたいことを言ってるだけだ」

「何しようと俺の勝手だろ、シズちゃんにそんなことまで束縛される筋合いはない」
「筋合いとか、関係ないとか、そんなことじゃねえ、俺が嫌なんだ、それだけだ」

こうやって自分勝手な感情を考えなしに押し付ける、そういうところは悍ましく苛立たしい。
そのはずなのに。

「なんなの、本当に」
「観念しろ、お前が苦しむのは俺が許さない」

「だからこっちの方が苦しい、の」
「苦しいことは、吐き出さなきゃ、もっと苦しくなるに決まってんだろ」
「馬鹿でしょ、もう」

ひどく苛立つ、それだけの行為のはずなのに、臨也は何故か泣きじゃくっていた。ここはせめて、怒りを露わにするところじゃないのか? これまであれだけ色々あったのに、俺はこんな姿を見たことがない。臨也が人に縋り付いて、延々と泣きじゃくるなんて。



 お前には分からねえよ



その言葉が、さっきまでと180度色を変えて、耳に響いて離れない。




この場から離れたくて仕方がなかった。
馬鹿みたいだ、って頭の中はひどく冷静なのに、体が熱い。いつ振りだろうか、もしかしたら初めてかもしれない、全力で走っていた。家まで何も見ずに走った。

扉をあけても、もちろん誰もいなかった。そんなことは何でもないはずだった。
閉じっぱなしの薄いカーテンから、光が漏れる。明かりはそれだけだった。
視界の端で黒い影が動く。デュラハンだった。どうしてお前なんだ。無性に腹が立つ。

「出ていけ! 」
言葉が通じるかも分からないそれに怒鳴りつける。それが姿を消したところで、やっとひとつ息をつき、そのまま何もない床へと寝ころんだ。

こうしてみるとこの家は本当に何もないな。


気づくよりも前に泣いていた。初めてのことだから、どうしてだかも、どうしたらいいかも、なにもわからなかった。



  お前には分からねえよ



そんなことが、悲しいのではない。そういわれても何の感情も動かない自分が恐ろしい。


そして何よりも、


(いつの間に……)



こんなことなら、知りたくなかった。俺はこんなこと何も感じることはなかったのに。
一人ではないのかもしれないと、勘違いをさせられた。こんなことになるなら、知りたくなかった。臨也となんか、出会いたくなかった。






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ひどくキャラ崩壊と中二病ですみません



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