※池袋ではないどこかに住んでいるようです
※ファミリー設定



大雪のため電車が動かなくなってしまってから、二時間が経とうとしていた。一面真っ暗な窓の外で、吹雪は弱まる気配すら見せない。今夜はここで泊ることになるのだろうか。


「シズちゃん」

乗客はみな、示し合わせたように囁き声で会話をしていた。おかげで車内は深々とした雰囲気を保っている。隣で臨也が囁く。

「シズちゃん」

「なんだ?」

「…持ってない?」

「ん?」

「持ってない?…俺の薬」

「…そうか、夜の分! わりい、もってねえ」

「だよねえ」

「お前……っ 」

隣の臨也は紙のような顔色で、そこにぐったりとしていた。窓ばかりに目を取られている場合ではなかった。そうだ、こいつがいつも飲んでいる薬が、ここにはない。本来ならもうとっくに家についているはずだったから、俺も臨也も何の用意もなかった。
どうしよう、医者か?っていってもこの雪じゃ……くそ、どうしたら。

「大丈夫、飲んでないからってそんなにすぐにどうにかなるわけじゃないから」

そんな顔で言われても全くもって説得力のない言葉だった。
ただ、この状況で騒いだってどうしようもないものまた事実だ。ちくしょう。



「はああ、しんどい」

ちゃかすように大げさに言いながら臨也がこちらにもたれてくる。
暖房のよく効いた車内で、触れてくるその体が冷たい。いくら触れても、俺の熱なんてちっとも無力で、臨也の身体は一向に冷たいままだった。あまりの無力さに泣きそうになる。


「シズちゃんはあったかいねえ」


目を閉じたまま紡がれる言葉にどうしようもなくなって、縋り付くように手を伸ばす。

「臨也」

あまりにもひどい声をしていたのだろう。一瞬こちらをみて臨也は小さく笑った。

「酷い顔」

「うるせえ」

配給されたブランケットをもう一度臨也にかけなおしながら、俺はただ良くなれと念じることしかできないまま、その体をぎゅっと抱きしめた。


今度こそ、完全にこちらに体をあずけてくる。くしゃりと握った俺のシャツに押し付けるように顔をうずめて、やや不規則な呼吸に合わせて体が上下に揺れる。その背中をぼんやりと眺めていた。このかけられる体重に今まで全く感じることのなかった眠気がやってくる。



外は暗いまま、窓は冷たいままだ。

朝までは、まだ遠いな。



やっぱり臨也には敵わない。

俺を安心させるのはいつだって臨也だ。もう、これはしょうがないことなのだろうか。

観念して、俺も静かに目を閉じることにする。








____

今年の大雪は大変なようですね…!




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