「シズちゃん、」

臨也がやってきたのは12月26日の真夜中だった。出来るだけ早く来るからと言い残して仕事に行って以来、一週間ぶりの再会だ。

「お前、こんな時間に…もう明日でよかっただろ」

正確にはもう今日か。
とにかくわざわざこんな時間に来ることもないだろうに、と俺は思ってしまうのだが。

「遅くなってごめんね、クリスマス間に合わなかった」

当の本人はどうしてもクリスマスに来たかったらしい。結局間に合ってないんだけど。

クリスマスに仕事があることは前々から聞いていた。クリスマスに何か思い入れがあるわけでもないから別に俺は気にしないのに臨也は酷く気にしているようだった。確かに街中がこれだけざわめいていると一人で過ごすのは何だかさみしい気もする。けど、それくらいのことだ。それなのにこいつは何を気にしてるんだか、酷くしゅんとしている。

「いいから、あがれよ、寒いだろ」

臨也のマンションのように快適ではない、この暖房の効きすぎたボロアパートを選んで真っ先に来てくれただけで俺はもう十分なのに。






「お前、熱でてるだろ」

「え、そうかな」

「絶対そうだって」

隣にくっついて座るとこころなし熱い。
臨也は、そう言われればそんな気も、なんてのんきに言いながらぺたぺた自分のおでこを触ってみたりしていた。なんで自分で気づかないんだ。そいういところが俺の心配を煽るんだ。

「確かにちょっとだるいけど…」

「だろ」

よくみれば顔色も悪い。
油断するとこれだ。

「ご飯抜いてたせいじゃないかな?」

「いや飯抜いたから熱出たんじゃねえの?」

「いやそもそもだるいからご飯抜いた訳で」

「いや、だからそのせいで余計」

「ええ、うー、もうよくわかんない」

「まあいいや、とにかく寝ろ、寝たら治るだろ」

「やだよ、せっかく来たのに」

じとっと上目に睨まれる。わざとだと判っていても流される。


「…じゃあせめてこれ、くるまっとけ」

床に放置してあった濃い色のブランケットを投げてよこした。

「…はーい」

臨也は案外素直に言うとおりにした。

温かい飲み物でも入れてやるか、しょうがない。








「クリスマス何にも出来なかったね」

「まあな」

自分用にココアを、臨也にははちみつレモンを用意した。毛布にくるまってみの虫みたいになってる臨也が時折、隣でもぞりと動く。

「さみしかった?」

「べつになあ…」

クリスマスだからと言って何ら変わりない日々だった気がする。
それよりこいつの微熱の方が気がかりだった。ただの熱ならまだいいが、無理させて悪化してしまってはいけない。

「なあ、臨也、そろそろ」

寝ないか?今日のところは、なんて俺が気遣いを発動しようとしていたらその隙に、手元のココアが盗まれた。しかも不機嫌そうな顔。何なんだいったい。

「臨也?」

何なんだか分からずに目で追えば、それはそのまま臨也の口元に運ばれる。
大きく一口、口に含まれたそれはゆっくりと嚥下された。

「ココアの方が良かったか?」

思ったままに聞けば臨也は、呆れたように馬鹿にしたように笑う。こういうところは嫌いだ、ほんと。


「ねえ、シズちゃん、わかんないの?」

「なんだよ」


「甘いよ?って言ってるの」


赤い舌がちろりちろり小さく開けられた口の中で踊っていた。


「…何煽ってんだよ、馬鹿」


空になったカップが床に転がるのが目の端にうつる。でもそんなことは気にもせず、挑発にまんまと乗せられた俺は口を寄せた。

「甘い…」

からめとる、いつもよりも微かに熱帯びる舌が、この上なく甘かった。



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クリスマス何も出来なかった記念小説です笑



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