※大学生×高校生パロ


ひんやりと冷たい空気にすがすがしい風が重なってとても心地よい、良い天気だ。

一限の真っ最中に登校するのが最近のお気に入りだった。
俺のとっている講義はは二限からなので全く問題ない。ただ、二限の始まる直前には、人があふれかえってしまうから、こうしてだいぶん早めに登校するのが良いのだ。時刻はちょうど10時になろうとしている。まだこの時間なら、講義の無い奴らはほとんど来ていない。学校中が閑散としていてとても落ち着く。


駅を出てすぐ左に折れると、あまり知られていない裏道がある。
木に囲まれていて決して目立つような道ではない、けれど俺は気に入っていた。そこの空気は少しだけ冷たい。そして幾分澄んでいる。



しばらく進むと、珍しい、対向者だ。しかも、高校生?黒い学ランは確かにうちの大学の付属高校のものだ。

この時間に遅刻してくる高校生は確かに時々居るのだが、…、対向してくるってことは、そうか、もう帰るのか。それにしては変な時間だ。
早退したんだろうか。

そう思ってみれば確かに生白い顔をしている。紺色のマフラーのせいで余計にそう見えるのかもしれない。マフラーで隠れていても人目をひくような整った顔の子た。華奢だけれども男の骨格。

大丈夫なのだろうかなどとのんきに思いながらすれ違おうとしたところでちょうど視界から彼が消える。

「おい」

びっくりした。どうやら道の脇の木へほぼ倒れ込むように寄りかかったようだ。

「す、みません」
「いや、大丈夫か」

背中に声をかければ、大丈夫です、と実に冷たい声が返ってきた。そうか、大丈夫なわけがない。

「えっと、救急車?保健室?」
「本当に大丈夫ですから、構わないでください」

「いやいやいや」

この状況でそんか訳にもいかないだろう。何かしなくてはと焦る一方で、本人の意思に反して大騒ぎするのもどうかと思うところもあり、とりあえず軽く持ち上げて、少し先の芝生へと下ろした。

「水かなんか買ってくるけど、何がほしい?」
「あんた授業は…?」
「10時45分からだ、まだまだ全然大丈夫。良いから何がほしい」
「じゃあ水を…すみません助かります」

財布を出すので止めようとするが気にするようなのでとりあえず100円を受け取って、来たばかりの道を引き返し、駅のコンビニまで急いだ。今更ながらに思う。俺何してんだろう。


戻るとその高校生は未だ肩を震わせ息を切らせていた。大丈夫なのだろうか。
かける言葉もなくて、何を言っても失敗しそうで、だって俺は人にちゃんと関わったことがない、黙っているしかなかった。
温かい日差しの下で、なんだか俺たちだけがぎくしゃくと浮いているような気がした。


「何も言わないんですね」
隣の彼が唐突に沈黙を破る。言われたのだから何か返そうと思うのにうまく出てこなくて、俺はやっぱり口をぱくぱくさせるだけだった。呆れられるかななんて思ったけれど、彼は案外嬉しそうな、少なくとも嫌そうな顔はしていなかったので、ひとつ息をついた。

「ありがとうございました、なんか」

調子が戻ったのか、彼は立ちあがって制服についた芝生を軽く払う仕草を見せた。

「それじゃあ」

なにか声をかけようと思うのにどうにも言葉が見つからない。これで終わるのか?いや終わるのか。


駅に向かう彼の背中をぼんやりと見つめるしか俺には出来ない。




「あの」

唐突に、彼が振り返った。

「良かったら、名前を教えてくれませんか」

すこし遠くから呼びかられるその声はぴんと芯が通っていて、まっすぐにここまで届く。


「平和島だ」


確かめるみたいに発音すると、平和島さんですかと丁寧な発音で返された。

「良い名前ですね、あなたにぴったりな気がします」

少しはにかみながら言われる。そんなことを言われたのは初めてだった。

「君の名前は…」

「おりはらです」

「おりはら」

「はい」


結局それ以上のことは聞けなかった。
きっとおりはらと会うことはもうないのだろう。
携帯の番号でも聞けばつながりは途絶えない。けれどそれはきっと何か違う、と思う。

「気をつけて帰れよ」
「…はい」

凛と澄んだ声が返事をして、遠くでさようならと告げるのが分かった。





____

ぼんやりシズちゃんとつっぱり臨也くんなんてどうでしょう。





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