夢を視る。 いつもみる夢だ。 白い雲みたいな、霧みたいなのがキラキラしながら目の前に満ちていて、俺はそれに手をのばす。 何度もみている夢だ。 甘い。 この香りを知っている 大好きな人に教えてもらった、 「 」 声がでない 吐く息はとうめいで、いろがない 「 ん」 声が、 「 ちゃ、ん」 目が開いた、見えたのは、白い光が溢れかえった部屋だった。でもただのいつもの俺の部屋だ。開けっ放しにしてしまっていたらしい窓で、カーテンがおおざっぱに揺れている。 頬には涙が伝っていた。 けれど、そんなことはどうだっていい。 だって、だからって何が変わるわけでもない。 あの日から、俺の日々から変化はなくなった。 何も変わらない。俺はあの日死んだのだから、死体のその後は変わらない。昏々ととまり続け、肉体が朽ちるのを待つだけだ。 風が吹く。部屋に容易に侵入して、運んでくる、忌々しくて、大嫌いで、それでも忘れられなくて、大好きな、この甘い香りを。 「また、一年、何にもなかったよ、俺の身体はここにあるみたい、ね、 ちゃん」 どうしても取り戻せない名前を、口に出そうとしても、やっぱり風に連れていかれてしまった。 ------- べったべたを目指してみました。 五感のうち最も記憶を蘇らせるのは嗅覚らしいですね。 |