※乙女すぎる臨也



「あ!」

夕暮れの帰り道、自転車を押しながら歩く君はオレンジ色に染まっている。俺だってきっとそう。

「何だよ」
「甘いよ!金木犀かな、すごい」
「秋だなあ」

通りぬける空気が柔らかくまとまる。

俺の歩く早さにあわせて、からから、からから、車輪が回る。とん、ととん、足音が重なる。

「でもさあ、こんな遠くまで届くくらいだから間近にするとすごいにおい強いんだよね、ちょっと苦手」

眉をしかめて言えば、シズちゃんが三歩分無言になった後にこう言った。

「お前、銀木犀って知ってるか?」

「何それ?」


聞き返せば、小さくだけどふわっと笑う、シズちゃんのそういうところが大好き。


「ちょっとついてこい」

「え?」

「乗れよ」

シズちゃんが自転車にまたがって、後ろをたたいた。





風を追い越す。びゅうびゅうひきさく。シズちゃんの背中はじっとり暑くて薄くてかたい。
ぐいぐい進む。たどり着いたのは池袋有数の公園、ではなくてどこにでもあるような小さな公園だった。
「何、どこ行くの?」
「もうちょっと」
公園の中でも木の多いあたりに入り込む。それは公園のはずれで、細い小道を挟んだ向こう側に小さなパン屋さんがあった。

「甘い?」

「これ」

「あ!」


金木犀によく似た木だった。
深い緑の葉っぱはつやつやしていて、小さな花が並んでたくさん咲いている。
ただ、
「花が白い…?これがもしかして」

「銀木犀」

「知らなかった…」

クリーム色の小さな花に顔を近付けると、ふわっと小さく甘い香りがした。
金木犀のような香りがする、けど、どこか少し柔らかい。

「俺も教えてもらったんだ、ちいさいころ」

ふっとシズちゃんの声が遠くなる。俺の届かないくらいの遠く。

こんなすてきなことを昔シズちゃんに教えた人がいるんだなあ。

「金木犀よりずっといね!」

わらって振り返る。
今シズちゃんといるのは俺なんだから。悲しいなら、一緒に幸せになればいいのだ。

「教えてくれてありがとう、俺これ大好き」
「だよな、俺も、好きだ」

またひとつ、二人で一緒の宝物ができる。こうして俺たちは時を重ねて、悲しいことは消えなくても幸せになるんだ。
大好きな背中に抱きついたらシズちゃんは恥ずかしがって身をよじらせる、けどそんなのお構いなしにくっついてればくるっと体を回された。

じっとお互いを見てたら恥ずかしくて、それでもやっぱり温かくて、胸がいっぱいで、気づけばどちらからともなくキスしてた。



「えへへ、じゃあ、ここは俺とシズちゃんの秘密ね。」

ぎゅって手をつないで約束する。
シズちゃんが俺の大好きなあの笑顔で、ふわって笑ってくれた。



____
べたべたに甘すぎてどうにかなりそうです…





















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