※新セル、静臨前提で新臨




「しんら…」

ゆるく紡がれる、その音に引っ張られる。
何も不足の無かったはずの世界から急速に、熱が、色が、引いていく。










「やっほー」
「…」
「臨也くんが来たよー」
「…」
「新羅くーん」
「…とりあえず上がりな」
「はーい」

セルティが急な仕事で出て行ったばかりだからそんなことだろうとは思ったが。

あまり私利私欲で僕の恋人を働かせないで欲しいな、なんて言えば、うるさい、って拗ねたように返してくる。



肩と肩を隣り合わせにして座る。いつのまにかそうなってしまう。習慣って怖い。横目で見れば臨也はどこを見てるんだかさっぱり分からない、締りのない顔でぼけっとしている。
こいつは二人きりだといきなりこんな気の抜けた顔をする。
まぬけ面だなあ。

「ちょっ、なにすんだよ、はなつまむな」
「あほ面」
「…しんらはS顔してる」
「鼻声」
「だれのせいだよ!」


手を離すとぷはっと息をするのがこどもみたいだ。





ずっと昔、一人きりの世界があった。
俺は環境が異常だったせいが大きいような気もするが、臨也は全く普通の環境で内側から歪んでいった。
俺と臨也では話が違う。
それでもやっぱり俺たちはそれぞれ同じ一人だった。大勢に囲まれるほど一人だった。


そして一人きりの世界が二人になる。

全てが変わった。不満の無かったはずのただ下らないと思っていただけの世界が完全に姿を変えた。飾りつくとかではなくて、世界が一から創り変わったんだ。

悲しいんだか嬉しいんだか分からず、とにかく胸がいっぱいになって、いつのまにか泣いていた。
そこで今まで自分が泣いたことが無かったことに気づいて、ぞっとしてまた泣いた。
後にも先にも泣くのは、きっとあれで最後だ。





それからまたしばらくして、俺たちは、愛想笑いしか出来ない俺たちとは違うひとを愛おしく思うことになる。

セルティへの感情を恋だと気付いたのは、臨也が静雄を好きだなんて言い出したころだった。

その愛は心からのもので、常に相手のために何かしたい、優しく大事にしたいとか思っている。

ただ、いい恋人でいることは、それが幾ら心からの望みであったって、少ししんどいものだ。僕や臨也のような人間には、特に。

愛しているから、大切にしたい、優しくしたい。もっと好きになって欲しいから、こうしよう、ああしよう。

そう思うのに、実行するには少しの負荷がかかる。
人を愛することには大きなエネルギーが必要だ。

俺たちの認識はぴたりと一致していた。

愛は確かに世界を輝かせたが、輝きは何かの反射によっておこる、その雑然とした世界に僕たちは踏み出してしまった。

だから、時々、帰ってしまいたくなる。本当に時々だけど。


肩と肩が触れる距離。
触れ合う箇所からじわり、じわり、浸食してくる熱が確実に自分の何かを融かしてゆくのを知っていた。
悔しいから臨也には絶対に言わないけど。






「しんら…」

「臨也は馬鹿だね」


この世界で俺たちは鏡合わせに存在している。


「臨也、おいで」

「俺は犬じゃないんだけどなあ」


怒りながらもすっぽりと腕の中におさまった。
首筋にうずめられる吐息は生温かくて、しばらくそうしていると、すんすんいうのがきこえる。


「本当に、馬鹿だね」


「…新羅には言われたくない」


「……、一度のことをあんまりぐちぐち言うものじゃないよ」

「はいはい」




臨也の頭を首筋に押しつけながら、僕と付き合うかい、なんておどけて聞けば、死んでもごめんだね、なんて、肩に噛みつかれた。




たぶん一生友達止まり
(そんなことは、当たり前だ)





静かに君のそばにいよう。
(しなやかな関係は崩れないものだから。)






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Gpln様へ提出。
色々詰め込み過ぎました…
臨也くんと新羅さんはお互い心休まる相手だったらいいな!



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