浅い眠りからさめる。
朝が来てしまった。

だるい。

腕と額をぴったりくっつけてみると、熱の均衡を保つ摂理、腕にばかり熱がゆく。
ここのところ微熱が下がらない。

心臓にもやもやと不快感、脈がぐらぐら揺れる。

怖い。

何が、ということも無いのに恐怖が指先まで浸透しているような錯覚を覚える。
大して悪くもないくせに大袈裟な話だ。
馬鹿だなあ。寝ぼけてるんだ。
早く意識を覚醒したくて頭をぐるぐる働かすのに、全然だめだ。

もう一度眠りたい。だいたい寝足りないのだ。
でも、だめ。朝が来てしまった。
働かなくてはいけない。そうじゃなきゃ生きていけない。なんて世の中だ。

しかたがないので体を起こす。顔でも洗って目をさまそう。




冷たい水はてのひらに心地よかったが、手は水をすくうばかりで、それ以上はなかなか持ち上がらない。顔を洗うのも億劫だ。

しんどい、な。

その場に座り込む。


「しずちゃん…」


魔法みたいに、俺が呼んだらいつだって出てきてくれればいいのに。そんなこと、あるわけないのだけれど。どうしたらこのぐちゃぐちゃ全てを拭えるんだろう。


膝を抱えて、目に入った、きのう深爪した右足くすりゆびの端っこがずくりと痛んだ。



ほぼ衝動で、それのもとへと向かう。充電してあるそれに手を伸ばす。

この前俺からかけたばかりだからこれだけは嫌なんだけど、俺ばっかりで、くやいしいし、でも、やっぱり、

三回だ、三回で出なかったら切る。それなら着歴にだって残らない。まだ朝早いし、きっとシズちゃんは起きてない。
これは俺の気休めなんだから。

そう言い聞かせてボタンを押したのに、

「もしもし?」
「……」

なんですぐ出るかな!

「もしもし、いざや?」
「しずちゃん…」
「ん」

シズちゃんの声だ。全身の隅々までがいっぺんに熱くなる。どうして今までこのボタンを押さずにいられたんだろう?


「し、ずちゃん」

「いざや?どうした?」


「…何でもない」

「……、臨也」

「なあに?」

「お前、次の休みいつだ」

「三ヶ月後」

「…忙しいんだな」

「うん…、」
いそがしいんだよ。
呟いて、言葉にしたら、馬鹿みたいだけど、泣きたくなった。

「ちょっとでいいから時間取れるときないのか」

「…今日、の夜なら」

「分かったじゃあ今日の夜は家に居ろよ」

「え?」

「居なかったらぶっ殺すからな」

「シズちゃんっ、そんなの、」

「とにかく決まり」

これじゃあ夜を待つ羽目になるじゃん。そんなの嫌なのに。

「ああ、いざや」

「なに?」


「おはよ」


瞬間、光が見えた。
カーテンの裾から漏れたみたいだ。きのうの夜から開けたままにしてあった窓から時折流れ込む風に揺られるたびに、ちらちらと床に映るそれは水面みたいだ。

(気づかなかった)


カーテンを少しだけ開けてみた。眩しい。


「おはよう、シズちゃん」

今日も、朝がきた。


(夜がきてまた変わずに朝が来る)

(変わるのはきっとおれのほう)


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お互いきっと寝ぼけてます。


しずちゃんってもしもしが似合わないですね!




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