※同居パロ?





日が傾きかけて空がうすぼんやりと黄のように橙のように色付き始める。
さわさわと草を揺らしながら風が通り、昼間あれだけ存在を主張していた強靭な日差しはやわらいだ。
出かける前よりいくぶん涼しい。

一週間分の食料を買い込んだスーパーからの帰り道、俺とシズちゃんは近くの河原に座っていた。
川が流れてゆく様子に何となく目を奪われて、俺がここで少し足を止めようと提案したのだ。

何をするでもなくぼうっと川をながめる。光が射し込んで水面がちらちら光る。水の流れる音が絶え間なく続く。辺りにぼうぼうと生えている草同士のすれる音がたつ。

呼吸をしているだけなのに、ざわついた心が体の重心へすとんとおさまるみたいに感じた。

シズちゃんは俺とは別の方をやっぱりただながめながら煙草を吸ってる。俺は横から見るその姿が彼の仕草の中でもけっこうお気に入りだったりする。

ネギやら牛乳やらがのぞく生活感たっぷりの袋ごしに俺たちは座っていた。
今日は二人で鍋をするのだ。鍋はなんだかんだで手のかからない料理だからよく作る。シズちゃんが切った材料を俺がお鍋に入れて二人で食べるんだ。


さっき俺が見ていたところよりちょっと上に向けられているシズちゃんの目線をなんとなく追ってみる。対岸の畦道のような遊歩道と淡い色をした空の境目がみえた。
緑がゆれて、また静かに音がたつ。
シズちゃんの吐き出した紫煙が斜め奧に流れてゆく。
こちら側はさっぱりだというのにあちら側は意外と人通りが多いみたいだ。
さっきから買い物帰りの人や走っている人がぽつぽつとあった。川に目を向ける人もいれば足早に去ってゆく人もいる。
もう一度俺も川に視線を落とした。川は当たり前だけど人間なんて関係なしにただ流れ続けていた。


ずっと動く気配の無かったシズちゃんが心なし長く紫煙を吐き視線を落としたようなきがして、何だろうと反射的に顔をあげると対岸には親子連れが歩いていた。
なんでもなくただ歩いている、それだけなのに胃がきゅうって熱くなる。俺は視線を落とせなかった。見えなくなるまでその淡々と歩く親子たちを見ていた。
その光景に、ちょっとでも、シズちゃんの心も揺すられたのかと思うとよけい苦しくなった。

シズちゃんは何も言わない。
俺も何も言わない。

それが逆にずっと重かった。

いいなあ、そうだね、って笑い飛ばせたら良かったのにね。

その親子たちはつまらなそうに手もつながずに歩いて行った。俺ならシズちゃんの手も子どもの手もどっちもぎゅって握ってそれでもっと絶対楽しそうに歩くのに、って思いながらそれが綺麗事だなとも分かっていた。

人の心は変わるから。
沢山の時間が過ぎて、もし、もしもだけど気持ちがふと冷めてしまったとき、俺たちを繋ぐものは何もない。

気の迷いが生じたときちゃんと正しい道を選べるのかな。

何も分からない。
先は見えない。


シズちゃんの二本目の煙草が小さくなって携帯灰皿に消えていった。それを合図に俺とシズちゃんは立ち上がる。
大きく伸びをするシズちゃんは大きな犬みたいで可愛かった。

「ほら持て」
3つあるうちの一番軽い、野菜ばかりが入った袋を渡される。
「野菜さわりたくない」
「袋に入ってるんだからいいだろ」
しょうがないなあ、なんて言いながら袋を受け取る。
「でもしまうのはシズちゃんがしてね」
「はいはい」
「切るのもシズちゃんだよ」
「はいはい」
わがまま言っているのにシズちゃんは怒りもしないで今度は手を差し出してきた。
あんなに重いはずの二つの袋は反対側の手で軽々と持ち上げられている。
差し出された手に、試しに俺の方の袋をわたすと、違うだろって足をけられた。
「痛!」
反射的に声をあげだけど実際はぜんぜん痛くもないのでシズちゃんにしたら触れただけみたいなものだろう。
なんだか可笑しくなってきて、お互い顔を見合わせて思わずクスクス笑ってしまった。

まあここは、手を繋ぐんだろうなあ。シズちゃんは変なところが大胆だ。

「人に見られるよ」
「人が来たら離すから」
「もう、しょうがないなあ」

反対の手に荷物を持って俺も手を差し出す。ぎゅっと握られるから俺も負けずに握り返した。

本当は、うれしくてうれしくて仕方ないんだ。
本当は、手をつないだままで、離したくなんてないんだ。
本当は、世界中の誰にだってシズちゃんが好きって叫びたいんだ。

そんな勇気というか無謀さは歳をとるにつれて消えてしまったのだけど。

誰にでも言えるような関係では決してないけれど、それでも俺はこの手を選んだんだ。



(だから今は、この手を信じるしかない)





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重い…なんかもうごめんなさい…







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