いつかのどこかへ
 受け渡そう
 出来るだけたくさんを


臨也が入院した。俺がそれに気づいたのはことが起きてから数日後だった。また隠しやがって。毎度同じ手法なのはわざとか?バレバレだっつの。
入院は頻繁なことではないが珍しいことでもない。付き合いも7、8年になると何度もそれはあった。臨也はいつも決まって一番豪華な一人部屋を占領して案外楽しそうに過ごしていたりする。
今回だって初めて来たときは死んだようにぐったりしててこっちが泣きたくなるくらいで何を言っても一言も返さないどころか反応すらしなかったこいつだが今じゃいつ来てもベッドの上でパソコンにむかって楽しそうにカタカタしてる。そんなひまがあるなら早く帰ってきやがれ。

「ちょ、シズちゃん邪魔、この仕事は絶対に今日中なんだって」
パソコンを塞ぐように臨也に乗っかれば本気で邪険そうな顔をされる。
「うるせえ」
ごちゃごちゃうるさいのは聞かないで口を塞ぐ。
「いっ、た、ばか、点滴と、れる」
身動ぐからだばか。
もう一度深く口付けて逃げる舌を絡めとる。苦しそうにして頭をぺしぺし叩いてくるけれど、もうすこし。最後にもう一度歯列をなぞってゆっくりと離す。息をきらせながらきつく睨まれる。怒っているんだろうが残念ながらえろいだけだ。キスを拭うように腕を口へもっていくのがちょっとムカついたが、息苦しさからの無意識なんだろう。我慢だ。
それにしても臨也はいつまでたっても息が整わない。終いには苦しそうに眉をひそめて数回咳をする。
やりすぎたかな。でもこいつが悪いんだ。パソコンばっかり見てるから。
「びょうに、んだっつの、ばか」
「てめえが病人じゃないことなんてあんのか。」
「…生意気っ、」
ちょっと前までは少し具合悪いだけであたふたしてたくせに!とか言って背に敷いていた枕を投げてきた。
たしかにそうだが、本当にこいつはいつでも具合が悪いのだ。俺だって要領を得る。まずは行動、そして反応をみて、大丈夫な程度にくっつけばいいのだ。

今日はもうこれ以上はしない。
流石にしんどそうだ。まだ肩で息してるし。
「ああ、最悪。とにかくこれが終わるまでは大人しくしててよ、頼むから」
「はいはい」
はなからそのつもりだ。
うしろに回り込んで臨也を腕におさめる。
「ちょ、何すんの!離せ!」
「別にじゃましてねえだろ。さっさと仕事しろよ」
「お前に言われたくない!」
無視だ、無視。どうせ照れ隠しなんだ。
臨也の肩に顎を乗せる。ちょうどいい。目の前の首を舐めたい。耳をかじりたい。けど今日は自重だ。我慢できなくなるから。
この前具合が悪いところを無理矢理やり通したら本当に本当に酷いことになった。あれは流石に申し訳ない。

「早く治んねえかなあお前」
何となく呟くと腕の中の臨也がぴくりと反応する。
「…俺だって帰りたいし」
ちょっと拗ねたような怒ったような声で言われる。
え、こいつ帰りたいのか。なんとなくわざとここに長居してるような気がしてた。治す気を疑うぐらい仕事してるし、ここがけっこう快適そうだし。
て、そうか、点滴ついてる訳だし一応具合が悪いんだ、いつにも増して。
「いつもならこれくらいすぐ治るのにな」
かすかに呟きながらぐいっとこちらに体重をかけてくる。
ああ、弱っている。思いの外弱っているようだ。珍しい。まあ素直で良いことだ。これくらい強引にしないとこいつは本当のことばなんて少しも漏らさないのだ。


「臨也見てみ」
窓の方へと視線を促す。
「なに?」
「観覧車」
「へ?…あ、本当だ」
臨也は気づかなかったと言いながら少し身を乗り出すようにする。

ここの窓からは遠くに小さく観覧車がみえるのだ。俺よりずっとここに居るくせに、やっぱりこいつは気づいていなかったらしい。

「仕事もデートも出来て一石二鳥だな」
「へ?」
「遊園地デート」
つむじにキスをしながら言えば臨也が笑いだした。
「何それ、ちょっと違う」
揺れる髪があたってくすぐったい。
でもまあいいや、さっさと終わらすね、とか言いながら臨也はまたパソコンに向かいだした。
俺は腕の中身を確かめるようにもう一度腕に力を込め直す。

あの観覧車は今日も幸せな二人をはこんでいるのだろうか、俺たちみたいな。
くるくるとしあわせが交代に誰かから誰かへと受け渡されてゆくのを想像した。
こんな温かな気持ちを抱くことが出来るのは間違いなく――


「今度ちゃんと連れていってね、あの遊園地」
腕の中で微笑んでるのが分かって俺はもう一度つむじにキスをする。


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ことばもない()
…静雄さん帰ってきて!

素直に来てと言えないお話でした(^ω^)…?ぜんぜん表現できてない!!orz



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