※がっつり新臨
やや新セル、新+静










夢を見た。昔の夢だ。

春の匂いがかすかに感じられる屋上で、高校生のぼくたち三人が集まっていた。

始業式の前の学校にはあまり人はいない。居る生徒は部活をしている奴らばかりだったから、屋上には俺たちしか居なかった。

三人で弁当を広げてもくもくと食べていた。僕はどうしてこんなことになったんだろうと考えていた。春休み中ほとんど連絡を取っていなかった二人から、唐突に連絡があったのは昨日のことだ。何と言っても昨日はエイプリルフールだから、今日のことは手の込んだ嘘なのかもしれない。疑いを持ちながらも屋上の扉を押しあけると、予想とは反して、なぜだかむすっとした二人が背中合わせで座っているものだから俺は笑ってしまった。さっそく喧嘩でもしたのだろうか。本当にこいつらは見ていて飽きない。

敢えてこの日なのか、ただの偶然でこの日なのかは分からない。二人とも、おめでとうなんて一言も言わなかった。実際、誕生日がめでたいなんて思ったことは一度もなかったので、そういうところが俺はとても心地よかった。

結局その日はそれだけだった。屋上で弁当を食べただけ。わざわざそのためだけに登校したなんて少し馬鹿らしいけど、それでも、この日を人と過ごすのは思っていたよりも良いものだった。ずっとずっと良かった。

そんなこともあったのになあ。


馬鹿らしい感傷を意識の端へ残したまま目を覚ますと、セルティが真っ先におめでとうと言ってくれた。音にはなっていないけどよくわかる。
セルティはあまりに長いスパンで生きているものだから、誕生日を覚えていてこうして喜んでくれるのは何年かに一度のことなので、今年はラッキーだ。いいことがあるかもしれない。とにかくセルティはそんなところも可愛い。キスはできないから、思いっきり抱きしめる。それに素直に答えてくれるのは寝ぼけているのもあるんだろうけど、やっぱり今日が特別なんだろう。

そのまま二人でまったりと朝を過ごしていると、珍しいことに静雄から連絡があった。

久しぶりに連絡を受けて、なぜか僕は昼時で混み合ったロッテリアの前に居た。割と強引に呼び出されたのだ。少し遅れてきた静雄は有無を言わさず僕を中に連れ込み、何でも好きなものを食えと促してきた。

めったに食べることのないファストフードは、やっぱりおいしいとは言えないけれど、おごってくれるなんて、静雄も変わったなあ。そのまま他愛のない近況報告や世間話をして、静雄とは別れた。仕事の昼休憩にわざわざ抜け出してきたらしい。静雄は、ちょっと面倒なくらい、根が良い奴なので話していて快いのは確かだった。


都合が良かったのでそのまま外の仕事を済ませると、その頃には辺りがすっかり暗くなっていた。やっと帰ろうかという丁度のとことで、また携帯が鳴った。今日は忙しいな、と思いつつこんなにタイミングよく連絡してくるやつの顔は大体予想がつく。そしてこんな時間に人を呼び出すのは、あいつしかいない。



またもや強引に約束を取り付けられ、待ち合わせ場所に向かう。到着の一歩手前の裏路地でいきなり後ろから捕まえられた。


「へーんたーい」

「こらこら、人聞きの悪いことを叫ばない」

そのまま体をくるっと回されると同時に口をふさがれる。万年発情期か、こいつは。
しばらくもしないうちに押し付けられていたそれから解放された。


「まさか今日、俺意外とキスしてないだろうね」
「あたりまえ、お前みたいな変態はそうそういないからね」
「そりゃよかった」

良かったのかよ。

「ねえ新羅」
「なあに」
「新羅からしてよ」
「……」

僕はセルティを愛している。セルティだけを愛している。

これは浮気だろうか。いや、そんなわけがない。こいつに感じているのは全く別物だ。

俺たちはいつまでこんな傷をなめあうような真似を繰り返すのだろう。
静雄は変わったな。臨也と静雄の関係も変わってしまった。

あの、春の日のように、三人で暖かな昼を向かえることはもうきっとないだろう。


「いつまで、こんなことを続けるの?」あの頃から俺たちだってそれぞれ確実に変わってるのにずっとこんなことを続けるのはやっぱりりおかしいんじゃないだろうか。だってあの頃とはもう違う。

「それは、嫌だと思う、その時までさ」

「そうか」

そうか、そうか。その通りだ。あまりにしっくりくる回答だったものだから、俺には迷いなく臨也の肩をつかんでしまった。細い躰を壁に押しつけると掬うように下から肩に抱き着かれる。

ぴったりとくっつくのは温かい。これは、ちょっとアウトかな。セルティと出来ることをこいつとするのは、まったく気持ちが伴っていないとは言えどと、少しだけ後ろめたくて、慌てて臨也の口をふさいでおいた。

絡み合う舌の温度は何よりも熱い。ぎゅうとつかまれる力が強くなって、肩が軋んだ。


自分の存在を感じることのできる唯一の、この瞬間が俺は好きだった。



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三者三様の心からのお祝い
新羅くんに幸あれ!お誕生日おめでとう!



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