「蜻蛉さま、奥様がお呼びですよ」

約束の時間になっても姿を現さない我が主を探して来いとの仰せを受けて彼の部屋の戸を叩く。珍しい事ではない。まだこの家に来て間もないが彼のいい加減さは十分身にしみていた。

「蜻蛉さま?」

この部屋に居るとも限らない。返答が無いので勝手に扉を押し開ける。

主は床に転がりシーツに身を包めていた。


「また体調を崩されていたのですね」

ここに来て数日と経たないうちから彼は何度も床に伏せっていた。彼のいい加減さの半分はここに由来していた。もう半分本当に彼の気まぐれなのでどうしようもない。不思議なことは一つ、他の者はこの事を知らないらしい。どうして自分だけが知っているのか。それが分からない。


「双熾か……」

弱い声が自分の名前を呼ぶ。

白と黒のコントラストが眩しい。
シーツに散らばる深みのある黒髪。真っ白なシーツに溶けてしまいそうな肌。顔色はひどく悪い。

他人を察知して身を起こそうとしたらしいが、それは叶わなかった。
途中まで上げられた半身が、ぐらりと揺れて前に倒れる。

たったそれだけの動作で彼の息は一層に苦痛の色を濃くした。
眉はゆるくひそめられる。

「奥様にお伝えて参ります」
「少し気分が悪いだけだ。構うな」

苦しげな呼吸が薄く開く唇から絶えず漏れる。

「そのようには見えませんが」
「お前の目が悪いんだ」
「はあ」

「私は見つからなかった。どこかへ外出したようだとだけ伝えてこい。命令だ。なんなら逃亡したとでも言えば良い」
「……かしこまりました」

こうしてひたすらに隠したがる彼だが、誰かの心配りを汲んでいるわけではないだろう。気の付く人だが目ざといだけで気を利かせることはない。この人はただ本当に面倒なのだと思う。
構われ過ぎて育つというのも考え物だ。

彼が独りシーツを固く握り締める度に、その中へ飲み込まれる歪みが軋む音がした。



______

というのが出会いで、あまりに双熾が無関心だからうっかり甘えられるようになる蜻さまがほしい^^蜻さまかわいいよ!!そして弱る蜻さまによって変な方向にだけど、感情が芽生えるそうたんとか





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