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※主従パロ
※子静子臨



「知ってた?庶民のみなさんはあの堅ーい飛行機の座席の素材をわざわざ買ってお部屋で使うんだってえ!」
大変だねえ可哀想だねえ、なんて神妙な顔で頷くのは俺の主人である臨也だった。自分で稼いだこともないガキのくせに偉そうな話だ。
俺の家は代々折原家に仕える家系であり、歳の近い俺はこいつの世話係だった。
二歳下の臨也は弟のようで、ずっと小さいころはそれこそ兄弟のように育てられたのだが、臨也が五歳になるのを境に俺たちは主と従の関係となった。

風呂すら一人で入ったことのないこのぼんぼんは、今まさに俺の手によって入浴中だ。
決して劣悪な環境に晒されることのない絹のような黒髪をすべらかな泡に絡ませる。無造作にかき混ぜることなく丁寧にゆっくりと。
当人は優雅にバスタブにつかったまま、浴室に備え付けられたテレビで一般的な所謂夕方のニュースを見ていた。曰く、社会勉強だそうだ。矛盾している。それならまず自分で風呂に入ってみやがれ。

「流しますよ。」

言うが早いか、湯をかけようとすると臨也は慌てて目をつむった。

「まったく、もう少し早く言ってよ!万が一目に入ったらどうするの」
「そんなへましませんよ」

俺だって自分の首を飛ばすつもりはない。慎重に湯をかけまわしてゆく。

「おお!」
「うわ!」

そんなことを言ったそばから臨也がいきなり起き上がって目をぱっちりさせるので危うく顔に本当に湯をかけそうになった。
好きなお菓子のCMを聞きつけた途端これだ。ガキめ。もっと全然旨いものを毎日食っているはずなのに、最近のお気に入りはこれらしい。その度に俺に調達させるのだ、こいつは。

「動くなこら」
「きゃー」

髪をわしゃわしゃさせると、くすぐったそうに腕の中で身を捩る。
目に入るだろと叱れば、お前はそんなヘマしないよお、なんて暢気に返ってきた。
まったく信用されてんだか、からかわれてんだか。

作業を終え確認するように頭を一通り撫でまわすと臨也は気持ち良さそうに表情をゆるめた。

「もう少しつかりますか」
「いいや。もう出る」
「はい」

バスタブから引っ張り上げて湯滴を丁寧に拭き取り寝間着を着せる。

「寝る前に紅茶が飲みたいなあ、温かいやつ」
「かしこまりました」
「お前が煎れてね?」
「はいはい」
「ついでにケーキも」
「それはだめです」
「ちぇ」

あああ僕に口答えするなんて、お前くらいだよなんて小言を言いながらもこれまでの俺が世話係から解雇されていないことにはちゃんと意味があるんだろう。と思いたい。

「さあて今日もうちのベッドはふかふかかな」
「もちろん」

そう良かったなんて微笑んだかと思えばすぐに苦い顔をして、ああ飛行機ので寝るなんてってまた庶民を嘆いたりした。




「シズちゃん」

思わず自分の眉根に皺がよるのを感じる。
「その呼び方はあまり好ましくないと申しております」
何度言っても直らない。ずっと小さいころの呼び方。
「シズちゃんシズちゃんシズちゃん」
「…なんでしょう」
駄目だと言えば、繰り返す。そうだ。こいつはそういう奴だった。

「一緒に寝てくれる?」
「…まさか!」
「だめ?」
だめに決まっているだろう。
「あなたいくつですか」
「9さい」
「でしょう。わがままは駄目ですよ」

紅茶を用意しながら振り向くと、案の定ふくれた面をしている臨也がいるのかと思えばそれは少しはずれていた。臨也はどこか影を落とした顔に諦めたみたいな微笑みをたたえていた。
俺が一番嫌いな顔。
まったくこういう時だけしおらしい。
確かにこの部屋は俺たちくらいの子どもには広すぎて静かすぎる気がする。

「シズちゃん、」
「秘密ですよ」

自分の唇に人差し指をあてて、それを臨也の口元まで持っていく。秘密の合図。

甘いな、俺も。

「寝付くまでだからな」

「いいよ、」

だって朝だって一番にシズちゃんが起こしに来てくれるんでしょう?

耳元で紡がれる甘い言葉。
花のように笑うこいつが、愛しいことは間違いなかった。

(おやすみ、臨也)

聞こえないくらいに呼べば確かに腕の中が確かにこちらに顔を押し付けているのを感じだ。
いつかは分かたれるこの温もりを、どうか、



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ファーストクラスの座席の素材は素敵すぎて家庭用の寝具として販売されるらしいです。すごすぎる。一度でいいからファーストクラスで乗ってみたいものです。


結局花と悪魔から大分それてしまったので主従パロとしてみました。花のように笑うビビとふてぶてしいトーニ。