日誌に今日の感想を書き綴る。日直は本来、隣の席同士で協力しなければいけない。だけれど、わたしの隣の席は今日は風邪で休みなのである。というわけで、一人でやることになってしまったわけだ。 風が窓から入ってくる。反射的に髪の毛を抑えてから、髪の毛をばっさりと切ってしまったことを思い出した。腰まで伸びていた長い髪の毛を一気に襟足まで切ったのはつい昨日のことだ。友人には長い髪の毛を一気に切ってしまったことでもったいないという言葉をもらってしまったけれど、今の軽い髪型は結構気に入っていたりする。 そんな事を考えながら、さっさと終わらせて帰ろうと日誌に文字を書くスピードをあげたときだった。教室の扉ががらりと大きな音を立ててあいた。 「あ、」 入ってきたのは、青峰君だった。あんまり、授業に出ない彼がなんでこんなところにいるんだろう。そんな疑問を浮かべながら彼に視線を向ける。彼は当たり前のようにわたしの前の席に座るとわたしに声をかけた。 「あとどんだけ残ってんだよ?」 「え、なんの」 「日直」 「これ、終わったらあと黒板だけ」 「そーかよ」 そういった青峰くんは頬杖をついて、わたしの書いていた日誌に目を落とした。なにがしたいんだと疑問に思いながら、続きを書いていく。いくら考えても浮かんだ疑問に答えは出てこない。お互いに黙り込んだままでいるのもいやだったし気になって仕方なかったので思い切って聞いてしまうことになった。 「青峰くん、なんで戻ってきたの?」 「は?」 「だって、」 「お前が一人で仕事してるっつーから、来てやったんだよ」 その言葉がすとんと胸に落ちた。もしかして、手伝うたために戻ってきたんだろうか。そう考えると胸の中がほんのりあったかくなった。わたしの、ために、か。顔がにやけるのが分かる。やさしいなあ。青峰くん。 「…なに笑ってんだよ」 「いや、ちょっと」 「なんも面白くねーだろ」 「面白いっていうか、青峰くんって優しいんだね」 わたしの言葉に、青峰くんは一瞬ぽかんとしてあきれた顔をした。褒めたのにそんな顔しないでよと思いつつ、なんだかひどくあったかい気持ちで体が満ちていく。と、同時に青峰くんが立ち上がった。 「オレが黒板消してやるから、さっさと日誌書け」 「了解です」 その言葉に終わりかけだった日誌に視線を向けて、急いでペンを走らせる。あとちょっとだ。青峰くんはそんなわたしを尻目に、黒板を消していく。あっという間に綺麗になっていく黒板に視線を惹かれながらも日誌を書き終えた。 「日誌、書き終わったから先生に出してくるね」 「おー」 「あと、手伝ってくれて、ありがと」 「…別に、暇だったしな」 「でも、嬉しかった」 日誌を持ちながら立ち上がってかばんから、あめを取り出して青峰くんの隣に移動する。青峰くんのほうも、もう終わりかけだ。手、出してと彼に告げると素直に手を出されたので、その上に何個かあめを乗せる。青峰くんの手は、わたしよりもずっと大きかった。 「はい、これ」 「なんだよ」 「あめだよ。手伝ってくれたお礼」 「…どーも」 「じゃあ、いってくるね」 青峰くんに背を向けて、教室の扉に手をかけた。その瞬間に髪の毛の先に誰かの手が触れた。誰かとは、一人しかいないのだから青峰くんに決まっているのだけど。びっくりして振り返ると青峰くんがわたしの髪の毛に触れていた。思いのほか近かった距離に小さく驚きながら、声をかけた。 「なんですか?」 「なんで敬語なんだよ」 「なんとなく、だけど」 青峰くんの指が髪の毛の隙間からから首筋にふれた。その感触に、のどから悲鳴が飛び出そうとして必死に留める。背筋に走るぞくぞくした感触におかしくなりそうだった。甘いような痺れが首筋に何度も走って、ぞわそわする。 「なに、してんの」 「なあ、」 「なあじゃなくて!」 「髪、似合ってる」 その言葉に、顔が赤くなっていくのが分かった。いろんな言葉が頭の中に駆け回って、だけど何もいえなくなる。嬉しさとか、恥ずかしさが胸を満たして、もうわけが分らなかった。視界が、恥ずかしすぎて潤む。 「暗いし、送ってやるから早く戻ってこいよ」 「分か、った」 体が思うように動かなくて、でも教室から出て先生に届けないと、という思いがせめぎあう。やっとのことで教室からでて、しゃがみこんだ。絶対、顔真っ赤だ。なんだよもう。恥ずかしいよ。どきどきしすぎてしにそうだよ。 ×
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