NOVEL | ナノ

 初めてキスしたのは私からだった。今もよく覚えてる。水樹くんは部活の話をしていた。私はサッカーをよくわかっていないのでうんうんとうなづくばかりだったけど、あんまり喋らない水樹くんが自分から話してくれたと言う時点でそれはもう私を幸せにしたのだ。
 私ではないどこかを見つめる水樹くんの瞳はきらきらしていた。すごく綺麗だと思った。そう思った瞬間に私は水樹くんの名前を呼んでこちらに視線を向けた彼の唇を奪っていた。本人である私が一番動揺していたと思う。水樹くんはたぶん何をされたかよくわかっていなかった。
 首をかしげた水樹くんに、私は赤面した。言い訳がぐるぐると回っていたけど、どれも口にするには適していないと思った。そんな私を見て、水樹くんは顔色も変えないまま言った。
「もう一回」
「え」
「したい」
 そういった瞬間に水樹くんの手が私の肩に伸びて引き寄せ、唇はもう一度くっついていた。キスするときは目をとじてするものだと思っていたのに、水樹くんは目を開けたままだったし私もそうだった。さっきは私のほうからしたのに、返ってきたカウンターに私は固まっていた。やっぱり私のほうがいっぱいいっぱいだった。
 そうしてくちびるを離して、ほとんど無意識に体を逸らそうとした私の手をぎゅっと握りしめた水樹くんは、さっきまできらきらしていた目を爛々とさせた。
「もっと」
 主語がなくても分かってしまう。自分で仕掛けたことだったけれどこんなところでという言葉が一瞬頭をよぎった。けれど私を見る水樹くんの目を見てしまえばそんなためらいなどなかった掻き消えてしまうのだった。結局のところ私は水樹くんに乞われて嫌だと言えないのだ。
 それはキスなんてもう何度もしている現在でもそうだ。むしろますます悪化している気がする。
 あのときみたいなくちびるを触れ合わせるキスじゃなくて、くちの中で舌を絡ませるキスだ。くちびるはもう腫れそうだった。いつもこうだった。こうするのが好きなのだと思うけどキスがすきなの?と終わってから聞いたとき、首をかしげていたので無意識なのかもしれない。
 私だって好きだけど、好きなひととして好きじゃないわけないけど、こうしてずっとしているのは割とつらい。腰が抜けそうだ。でもふらついても私の体をあっさり抱き寄せて続行するので解放はしてもらえない。
 おなかの下、下腹部のあたりにかたい感触が触れている。ぐりっと腰を押し付けられてひっと小さく息が漏れた。でもかまわずにそのまま押し付けられる。でもそれは水樹くんがわざとやってることじゃなくてやっぱり無意識なのだ。だからずるい。水樹くんのせいにして前にすすむということができない。恥ずかしい。
 私はついに耐えられなくなって水樹くんのそこに手を伸ばした。そこでようやく水樹くんの動きが止まる。直視するのが恥ずかしくて私は水樹くんの肩に顔をうずめながらバックルへと指先をスライドさせる。慣れもあって見なくても外せた。慣れてしまったことに対してなんとも言えないような気持ちになってる。
「……勃ってる」
 自分の息が熱くて湿ってることがわかる。独り言みたいな私の言葉に水樹くんは体を震わせた。学校でこんなことをしていることとか、そういうのもあって、ひどく、興奮する。そのまま、彼のズボンのチャックを下す。
 そして躊躇いながら下着も下そうとした。でも今度はうまくいかない。私がしている側なのに焦らされているような気分になる。下着越しにこするようなかたちになった。そうなると水樹くんの方がじれったくなったのか、私の手を握りしめる。そしてそのままそれに重ねるように握らされた。
 あつくて、かたい。濡れてる。水樹くんの息がどんどん荒くなるのが分かる。なんていうか水樹くんにも性欲があるというのはこうしていても不思議だった。
 ゆっくりとそれを手で撫でる。優しくこするようにする。水樹くん以外とこんなことしたことないのでいつだってためしためしだ。
「気持ちい?」
 返事の代わりに強く抱きしめられた。そうしているうちに、手の中のそれが強く脈打つ。あ、と思った瞬間てのひらに熱くて粘度のある液体が広がった。水樹くんの体が強く震える。
 ひと段落したような気持ちになって私は息を大きく吐いた。抱きしめる腕の力が弱まったのでそのまま私は水樹くんから体を離す。完全に体から力が抜けて私はよろよろと床にくずれた。女の子座りになりながら、べたべたに汚れたてのひらのためにポケットに入っていたティッシュを出す。
 気が抜けてやっと気づいたけど触られてもないのにあちこちが汗ばんでいた。前髪が額に張り付いている。腕で髪を払いながらもう終わったような気で手を拭いていると、視界にそれが目に入った。さっき出したはずなのに水樹くんのそれは勃ちあがっていた。
 え、なんで、さっき出したのに。そんな言葉ぐるぐると頭の中でいろんなことがめぐるけど、水樹くんがまだ満足していないことだけは分かる。
「ま、まだする?」
「うん」
「……今度はくちにする?」
「ううん、なかがいい」
 えと思うまもなく私の体は持ち上げられた。ちょっと待って、待ってと止めたにも関わらずそのまま机の上に下される。そして当然のごとく私の下着に手をかけようとするので、私は水樹くんの体から距離をとって抗議の意を示した。
「ま、まって。くちにしようよ。私はいいよ」
「え、でもしたい」
「〜〜っ!! あ、あれ!ない、から」
「ゴム? 持ってるけど」
 ほらと、制服のポケットから取り出されたそれはまぎれもなく避妊具だ。最初のときもなぜか水樹くんは持っていた。友人に渡されたと言っていたけど持ちあるいていたのか。というかあれでちゃんと伝わってくれるんだな。水樹くんなのに。
 他にもいろんな理由をあげようとしたのに、そのままキスされた。こうされると完全に駄目っていう気力もとけてくる。
 自分の意思ははっきり言える方だと思っていた。別に嫌なことは嫌なことって言うべきだよって力強く言いきれるほど気は強くないけど、したくもないのに頼られて断り切れなくて受け入れちゃう子を見て、もうちょっと自分の意見言えばいいのになあと思える程度には。普通だったと思う。弱くはなかった。そのはずだったんだけど、私はこの人の前だともう完全に弱かった。ダメダメだった。惚れた弱みもあるけど、水樹くんという人間だからなのだと思う。水樹くんはずるい。でもそういうとこも好き。
「……一回、一回だけなら」
 白旗をあげた私がそうつげると、水樹君はやっぱり何を考えているのかよくわからない顔で、もう一回キスをした。よくわからないけど喜んでるのは、分かる気がする。喜ばれるのは嬉しいし、求められるのはまんざらでもない。もうちょっと駄目って言えるようになりたいけど、これで満足している自分もいた。
 はしたないのは分かっているけど足で水樹くんの腰を引き寄せた。引いていたはずの汗がじわじわと肌ににじむ。水樹くんの背中に回した腕が震えているのはきっと興奮からだった。水樹くんのせいで自分がどんどん猥らになっている気がする。責任とってずっと一緒にいてほしい。もう離さないでほしかった。

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