もちろんそう感じているだけであって、私は結局どうしたって彼のように強くも正しくもなれなかった。だから恋人も守れない。
簡単に飛んだ恋人の首は悪い夢みたいにあっさりと地に落ちた。重さのある水っぽい音に果実が落ちたみたいだと思った。崩れ落ちた体から流れ出る血を踏みつけて、彼は私に問う。
「どうして許せたんだ?」
彼は地に伏したその死体に一瞬だけ視線をやった。自分が殺した人間の死体をみるような目ではとてもなくて、まるで虫が湧いた悍ましいものがそこにあって、思わず視界に入れてしまったというように嫌そうに彼は目をそらす。
「私にはとても許せそうにないよ」
だからこうして私の恋人を殺しに来たの? 見上げると彼は眉を下げてみせる。手を伸ばした彼は私の頬に飛び散った恋人の血を拭う。転がる恋人のように私を傷つけない大きなその手はただただやさしい。困ったようなその顔もその手も昔となにも変わらない事実に頭がくらくらする。
「きみがこんなものを慈しむ必要は最初からなかったんだ」
彼がその足先で恋人の頭を転がす様子にやっぱり悪い夢みたいな光景だと思ったけど、現実だったから私を抱き寄せた彼の腕のなかは泣きたくなるくらいあたたかくて彼の匂いがした。
血だまりのなかで、離れようとすることを許さないその強い腕に抱かれながら、私は目を瞑る。これが夢だとしたら良い夢だったのだろうか、悪い夢だったのだろうか。私にはわからない。
信じて送り出した好きな女の子が
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