NOVEL | ナノ

 ふと目が覚めて、まだ夜が明けていないことに気づいた。部屋の中は暗く、窓の外に視線をやればいまだ暗がりがそこに広がっている。雨が降っているらしい、雨音がする。
 そうしてぼんやりとしていたものの感じる肌寒さで身を丸めた。気温が随分下がっているようだった。起きてしまった私とは違い隣で寝ているヴェインさんは健やかな寝息を立てている。寒さを感じていないような穏やかな寝顔だった。
 もう一度眠りにつこうとするが、やはり肌寒い。一緒にかけていた薄手の毛布ではダメなようだ。どうしようと一瞬迷って、私はおとなしく彼に身を寄せた。
 あたたかい。おそらく人よりも高いといえるだろう体温に私はほっと息を吐いた。
「んん……?」
 私がくっついたことに気づいたのか、背中にまわされる。そうしてまわされた腕が、遠慮していた私の距離を思いきり縮めて見せた。びっくりする間もなく私の体は彼の胸の中に納まってしまう。鼻をくすぐるヴェインさんのにおいに、思わず頬が緩んだ。
「どうした?」 
「……さむくて」
 どこか眠たげな声だ。声だけではなく目をしばたかせているから実際眠いのだろう。起こしてごめんなさいという私の言葉にうんとうなづいたヴェインさんはそのまま私の背中を撫でる。背骨のあたりをゆっくりとなでるそのゆびさきのかたさを、私は見なくても思い起こすことができた。
 私の背中を撫でながら、ヴェインさんが目を伏せる。なんとなく目がさえてしまったのでそうして彼の顔を見ていたものの幾ばくかの時間がたったそのあとで、ヴェインさんの腕の動きがゆっくりと止まった。
「眠れねえ?」
「……ちょっとだけ」
「そっか」
 撫でる動作がとんとんと優しく背中をなぞるものへ変わる。
「こうやるとねむくなるみたいでさ。……あれ?安心するんだっけ?」
 目をふせたまま彼がそう口にする。伝わってくるヴェインさんの心臓の音とともに、背中に伝わる振動に私はそっと耳を澄ませた。眠れそう?という問いかけに私は素直に頷く。
 絡めるようにしたお互いの足がふれて私は自分の体が思ったより冷えているのがわかった。
「足、冷えてるな」
「……ヴェインさんあったかい」
 私があたたかいと感じたのならヴェインさんは冷たく感じたはずだ。それでもヴェインさんは私の体をもっと引き寄せて抱きしめた。お互いに隙間などないようにくっついているとそのうち体温もうつっていく。体温が上がっていくのが自分でもわかって無意識のうちにちいさくあくびがもれた。
 ふと、背中に添えられていた手が、私の髪へをうつる。
「おやすみ」
 子供にするようにてのひらが頭をなでた。髪をなでるというより頭にふれるというのが正しいようなその仕草になぜかすきだなという感情をつきつけられるような気がした。それなのにちょっとだけ切ないような思いにかられてくちびるをかみしめる。なにもいえなくて、おやすみさないのかわりに私はそっと額を彼の胸へとこすりつけた。

楽園に一番近いところ

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