自分の顔をみながらにやけている私は変質的だろうが許してほしかった。だって嬉しくて仕方ない。もともとピアスを空けていなかったのでファーストピアスをあけてかれこれ数か月たってようやく、やっと、私はカルナさんからもらったピアスを身につけることができたのだ。
カルナさんもくるしもうちょっとちゃんとした顔にならないと、と、頬に手を添えてみる、けどああ、駄目だ。本当にこれは。ぎゅうっと思わず頬に添えた手のひらに力を込める。
「マスター」
かけられた声に私は反射的に振り向いた。振り向く前に声でわかる。もう約束の時間になっていたらしい。カルナさん、と思わず彼の名前をよぶと彼も私が身に着けているものに気づいたのか目を大きく開いた。
「それは」
「うん、カルナさんにもらったやつだよ。やっとつけられた」
どうかな。と微かな緊張とともに告げると、彼はは私に歩み寄った。私の飾られた耳元へと手が伸ばされる。ガラスに触れるよりももっと優しいしぐさで、カルナさんが私のみみたぶにふれるのが分かった。私を見遣る、彼の目元がやわくゆるむのがわかって私はそれだけで、もうそれだけでどうしようもない気持ちになった。
「ああ、似合っている」
感嘆に似たため息のような、そういう声に思わずほほ笑む。たまらなくなって自分からキスした。首元に突如として抱きついた私に驚く様子も揺らぐ様子もないカルナさんは抱きしめ返してくれる。
「カルナさんすき………」
うわごとのような言葉をつぶやきながら私はひしとカルナさんにくっつく。そうしていると当然のように足元が空に浮いた。そのまま抱きあげられてベッドに運ばれて座らせられる。胸にくっつくようにしていた私の肩をカルナさんが引いて、顔を覗き込まれる。
したい、と思った瞬間にはもういちどくちびるがくっついていた。うすいくちびるがふにふにと感覚をたしかめるように重ねられる。触れ合わせて、離して、そうしてじゃれるようにして、どちらからともなく舌をからめあわせた。私がカルナさんの舌に追いかけられたり、追ったり、もっとくっつきたい私を焦らすように逃げるから追いかける。そのうち与えてもらえなくてじれったくなった私が非難するようにカルナさんの胸をたたくとようやくちゃんとカルナさんからもしてくれた。与えられるくちづけに息も絶え絶えになりながら思わずずるいという言葉が口からでる。カルナさんはこういうときちょっとだけ意地悪だ。
「すまんな、オレを必死に求めるお前をみているとついそうしたくなる」
顔色も変えずに言い放つカルナさんにとろとろに脳みそがとけそうになった。ずるい。ほんとにずるい。そういうところが好き。
「マスター、これを付けたお前をそのまま抱きたい」
うっとりしながら頷くとカルナさんの指がもういちど私の耳に触れる。耳のふちをなぞられて、そのままてのひらがくすぐるように首へ、鎖骨へ降りていく。ふれられる感覚に、陶然と息を吐いて、体を彼に寄せた。
◇
うすぐらい部屋の中、最大限にしぼった照明の光で、私は鏡を見ていた。初めてつけた彼のピアスによる興奮さめやらぬで起きてしまったのである。もう一度彼に寄り添って眠ってしまおうかと思ったが、付けているところをもう一度鏡で見てみることにしたのだ。二人きりのときにつけてほしいというのはカルナの願いである。私はもちろんそうするつもりだったので、このピアス残念だけどここでしかつけられないのだ。
もともと装飾品自体めったにつけることがないから、耳にはめられたこの大きな飾りは私には派手すぎる気もする。それでもこれはカルナさんにもらったピアスで加えていうならカルナさんがつけているピアス自体ともにていた。そんなピアスをもらって喜ばないわけがない。嬉しい。
「そんなに気にいったか」
いろんな角度でつけたピアスを見ている私に、ふと声がかかる横でねむりについていたはずのカルナさんが目をあけていた。
起こしてしまっただろうかと思いつつ鏡をおいて、彼のからだにたれかかる。
「すごく嬉しいよ」
暗闇のなか自然と声のボリュームがおちる。内緒話をするような声の大きさにおかしくなって私はくすくす笑いながら額を彼の体ににくっつける。
「ならもっと作ろう。ピアスのようにお前が身に着けて、オレに見せてくれるものがいい」
「ううん、これだけでいいよ。これだけがいいんだ」
「そうか?」
「うん、これだけで十分。大事なものはいっぱいあっても困るから」
「そうだな。これのようにお前がそちらに夢中になりすぎてはオレも困る」
すねているのかとびっくりしてカルナさんの顔に目をやると、顔を近づけられる。顔ではなく耳へ、ピアスのはまったちょうど穴のあたりにそっとくちづけをされた。そのまま耳朶をやわくはまれて、ぎゅっと体がはねた。額を寄せあうようにして目を合わせる。いつだって変わらないまっすぐさで私を見るその瞳の美しさを、私はずっと忘れられないだろう。どんな宝石よりもきっと尊い。
「だが、いいな。オレが贈ったものを見に着けているお前は考えていたよりずっと心が躍った」
「……今度は、私が贈ってもいい?」
「ああ」
「なんでもいいな。カルナさんにずっと持っていてもらえるなら、それだけで嬉しい」
そうして裸のまま、お互いの体温を重ねるようにして私たちは抱きしめあった。まるまるようにして体をまげた私の髪をカルナさんが撫でる。その指があんまりにも優しい動作で私の髪を撫でるから私はそのたびにもうほかにはなにもいらないような気になれた。カルナさんもそれに似たような感情を抱いてくれればいいと、そう思う。そう思うことを、どうか、許してほしかった。
柔らかな掌握
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