女性向けジャンル | ナノ
 私の胸元に顔をうずめる彼が強く呼吸するのを感じながら彼の頭を撫でる。そうしてずっとされるがままでいると貴女の匂いが好きだと彼がうっとりした声で言った。
 子供のように縋り続けてくる様子に、満足出来たかを聞いてみる。
「満足、出来ません……。ずっとこうしていたい……」
 仕方ないなあと自分でも甘くなっているのがよく分かる声で言うと、彼がかすかに身震いしたのが伝わってくる。私が彼の名前を呼ぶとうっとりした瞳でこちらを見上げられるので彼の背中にまわしていた手を頬に添え唇にそっと口を重ねた。柔らかな感覚に角度を変えて満足するまでキスをする。それから今度は彼の口元にある黒子に音を立てて口づけた。彼はくすぐったそうに、だけど嬉しさに満ち溢れた顔をしてされるがままだ。手を添えていた頬を撫でると彼の目が細められる。安心している表情にも見えた。
 最初のうちは私から触れたり愛情をこめた言葉を伝えると感極まったようにすぐに行為に持ち込まれていたし、今もよくそうされる。でもこちらからも愛したいということを伝え続けることで、いつしかされるがままになってくれるようにもなった。彼に抱く愛情を示し続けることで、必死に追わなくても慌てなくても私はちゃんとここにいて、彼を愛していることを少しでも実感してくれるようになったのだと思うと彼を満たしてあげられるようで幸せだった。
 私が一つ一つピアスを外してあげたことで見えるようになったたくさん開いている耳にある穴を指でなぞる。それから頬に手を添えて見つめていると、彼が聞く。
「俺の顔が好きですか……?」
 貴女が好きになってくれるならこの顔に生まれて良かったと言うのでもちろん彼自身の要素として顔も好きだけど顔を理由に好きなったわけではないし、顔だけが好きなわけじゃないよと答えるとすぐに引き寄せられて、彼の方からキスをされた。私がしたような軽いキスではなく、深いキスだ。でも乱暴さはない。愛情に満ちた優しいキスだった。
 唇が離れてもそれ以上離れるのは惜しくて、額同士をくっつける。大好きだよとすべての気持ちを込めてそう囁くと、彼の目が潤む。その目元にもキスをしてあげた。
「俺も貴女が好きだ……。貴女のことが本当に好きで、好きで、どうしようもなくなる……」
 彼の名前を呼び、可愛いねと言うと陶然とした顔でこちらを見つめてくれる。
「俺は貴女にこうして可愛がられるために生まれたんです」
 それなら私は彼を愛して、可愛がるために生まれたのかもしれない。そうだったらいいと思う。
 彼は名前を呼ばれるのが好きで、求められる言葉が好きで、可愛がられることや撫でて愛でられるのが好きで、それらは全て私からの愛情の確認だった。私のことが大好きで、大好きな私からの愛情を心から欲する寂しがりで欲しがりなところも、欲しがって求めるのを態度に出せる分かりやすい素直さも可愛いと思う。だから、全部、与えたくなる。奪わなくても、焦らなくても、大丈夫だと思って欲しかった。幸せにしてあげたいと思った。
 支えるように私の腰にまわっていた彼の手に自分の手を触れさせる。長くて骨ばった指に私の指を絡めてあげると、もう離すことはないというように強く握り返された。触れ合っていると体格差をまざまざと感じる。彼は、私を力で支配したことがある、そうすることができる大きな手と大きな体をしている。でも支配されなくたって私は彼を愛している。
「俺を永遠に愛してください……。俺だけを見て、俺だけを抱きしめていて」
 彼はきっとずっと気づくことはないけど、その言葉は私のものでもあった。彼が私を必死に愛するように、私もまた彼を必死に愛しているのだから。
 繋いでいないほうの腕で強く抱擁されながら、私だけを愛し、私だけを見つめている彼を私は心の底から愛しいと思う。激情で自分自身の感情を揺らがせながら必死に私と私の愛を求める彼の姿も可愛かったけど、こうして私の愛を完全に信頼しきってくれた彼の姿もまた可愛い。私が彼をこうしたのだ。
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