未完「……ガウェイン?」
恐る恐る呼び名を紡いだその瞬間に自分の体があまりにもあっさりと抱き寄せられ、ひゅっと息をのんだ。腰に回されている腕に込められたその力はあまりにも圧倒的なものだ。原始的な、女と男という差異が体を締め付けるその腕から伝わってくる。そのままあっさりとベッドの上に放られ、体が離れたもののすぐに上にのしかかられ、体がすくんだ。
体重をかけられているわけではない。けれど重苦しさを感じてならない。怯えで後ずさろうとした私のくちびるを彼は自分のそれで封じるとそのまま私の体を倒しベッドに縫い付けるようにした。
ぬるりと肉厚な舌が固く結んでいたくちをこじあける。そこに私の意思はあってないようなものだった。貪られるという単語が脳裏に浮かぶ。ほとんど反射的に動かそうとした腕はしっかりと握りしめられたおかげで少しも動かない。
執拗に私の舌を求めるガウェインに顔をよじるもこぼれた唾液すらその舌で拭われてめまいがする。それでも幾らかたったあと酩酊するような意識の中で、波が引くように腕に込められていた力が抜けていくのが感じ取れた。
「……マスター」
声が震えている。潤む視界が、頬を滑る水のそのあとでひらける。
「どうか、私から離れていただきたい」
荒い息が耳につく。いまだ握られたままの腕がひりひりと痛んだ。私を射すくめる蒼穹の瞳はいまだ生生しい色を帯びていて、いまだ衝動はガウェインの身を灼いたままなのだろう。その衝動を精神力だけで抑えるのはどれほどつらく困難なことなのかを察し、私は小さく息をのんだ。それでもガウェインは耐えている。―――誰のために?決まっている、私のためだ。
「令呪を、マスター」
なんていえばいい?なんといえば私はガウェインのその忠義に応えられることになるのだろう。
悩んだのは数秒だった。腕を動かすと私を拘束していたガウェインの手が外れる。それをみながら私はガウェインのその首に腕を回し、くちびるを押し付けた。びくりとガウェインの体がはねるのが分かる。私よりもずっと強い彼が私の動作一つでそんな反応をするのは可愛かった。
見様見真似でガウェインのその唇をなめる。その耳朶に私は囁いた。
「大丈夫」
緊張で心臓が痛いほど鼓動を打っていた。本心を言えばまったく大丈夫じゃなくて、それでも大丈夫といわなきゃいけないときはあるのだと私は知っていた。だって私はマスターだからだ。
「私が許す」
その言葉ひとつで意図は伝わったのだろう。ガウェインは一瞬顔を思いきり歪めた。それがどういう心理のもとだったのかはわからない。
が、とおそらく手加減はされているのだろう、それでも身の危険を感じるような強さで、腕をつかまれる。痛みに身をすくめそうになって私はかたく目をつむった。