恋と呪う | ナノ

恋と呪う

 いつの間にか私と安室さんの関係に対しての周りの人の認識が恋人ということになっていることに気付いたのはつい先日のことだ。だからこのまえコナンくんは私に何とも言えないような顔で安室さんのことどう思ってるのって聞いたんだなと納得した。コナンくんは彼がどういうところに所属している人間なのかを知っている。心配してくれたんだろう。もちろんそんな事実はこれぽっちもないです。
 蘭さんたちですら、いつの間にかそういう認識ができていたみたいだ。違うと否定したら返ってきたのはもしかして付き合う寸前なのに邪魔してしまったのか?という根本的に間違っている反応で、それも否定しているのにすべて照れ隠しとして取られてしまう悪循環。蘭さんや真純さんはともかく園子さんはものすごいテンションの上がりようで、否定することが燃料のような反応の仕方だった。
 そういう風に扱われることが嬉しくないわけがなかった。だけど、結局ひとりよがりなんだよなあと考えたらポアロに行くことも安室さんに会うこともつらくなって、連絡をとることが憂鬱になった。連絡は何度かきたものの当たり障りのない返事しか返していない。電話には出なかった。死ぬほど理不尽なことをしている自覚はあったけど、このままあったら泣きだしそうで、それがとても怖かった。
 そんな感じで沈んだまま生活していたら友達に飲み会に連れて行かれた。失恋したなら新しく好きな男でも作ればいいとは彼女の言だ。失恋したなんてひとことも言ってないのに伝わっていたのは私がわかりやすいからなのか少し気になった。安室さんも私が好きなの、もう分かっていたんだろうか。

 そこそこレベルも高いからという耳打ちとともに連れてこられた場所で一緒に食事をしたメンバーはその言葉の通り、そこそこ感じがよくて楽しい会話ができる感じのいい男の人たちだった。その中でも一人の男の子とよく話せた。
 その飲み会が終わったあとで、その男の子と会うようになった。安室さんとしていたデート(と私はあれをよびたかった)をしなくなって、彼と遊びに行くようになった。話もあったし楽しかったけれど、やっぱりふとしたときに思いだすのは安室さんの顔なのだった。
「今日は楽しかったよ」
「うん。映画も面白かった。連れてってくれてありがとうね」
「そうだね。名字さんのご飯もおいしかったよ。来れてよかった」
 明るい笑みでそういう彼に私も笑った。おいしいという言葉は何度聞いても嬉しい。
 封切りをしたばかりの小説を元にした映画を一緒に見に行ったあと彼と一緒に私の家でご飯を食べた。家に来るかという私の問いに××くんは受け入れてくれた。そんな風に誘われているのは慣れているみたいだった。
 何かが起きたらと、期待に似た不安を抱いていた私を裏切るようにご飯を食べていろいろな話をしたあと、彼は家に帰るといった。
 変な期待をしてしまった自分が恥ずかしく思いながら、私は彼を見おくるために外にでた。
「名字さんってさ」
「うん」
「オレのこと見てないよね」
「えっ」
 さっきまでの高校時代の部活の話をしていたときと何ら変わらない声音で彼がいった。思わず彼を見上げる。
 彼に握られている自分のてが急にかさついているように感じた。ひりひりする。まゆを下げた彼は私の手を握るちからを弱めた。私を見る彼の視線で、私は彼が最初から、私が彼を見ていないことを知ってことにようやく気付いた。恥知らずなことをしている自覚が今更湧き出て、私はそっと視線を下げた。
「……ごめんね」
「いやいいよ、オレも楽しかったから」
「……ほんとに、ごめん」
 思わず息を吐く。
 謝罪の言葉しか頭に浮かんでこなかった。でも謝罪の言葉をはいたところでどうなることでもないことだった。さっきまでたくさんのことを話していたことが嘘のようだった。今更なんといえばいいかもわからなくて、口をひらいても何もいえなかった。
 そんな私の肩を彼が引く。下げていた視線がその動作で彼の方に向いた。顔を近づけられて、くちびるがふれあいそうになる。私は、その動作の意味を考えるまえに顔をそむけていた。
 私が顔をそむけたことで、動きを止めた彼が私からそっと離れる。彼は笑っていた。
「キスしたいとも思えないような相手を家にあげちゃだめだよ。誤解するから」
 誤解、と耳の中で反芻される。あのときの安室さんの声が、よみがえる。
 私はそこで、彼を好ましいと感じたのは安室さんに似ていたからだという馬鹿みたいなことを悟ってしまった。
 私の肩、そしててのひらを離した彼と目があう。いい人だなと思った。そのいい人を利用した私は本当に馬鹿だ。
 ひどいことをされたわけじゃなく、むしろひどいことをした側なのになぜだか無性に泣きたくてたまらなかった。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -