恋と呪う | ナノ

恋と呪う

 コナンくんを抱えていた犯人の後ろを、突如として現れた彼がとった。こちらからそれが見える私たちが反応する前に、流れるような動作で包丁を持つ犯人のてのひらをつかむ。握られてそのまま上へ持ち上げられることでコナンくんが解放される。そこでようやく彼の存在に気づいた犯人が彼の方を向いたその瞬間に、彼の手によって犯人はそのまま地面に沈みこんだ。頭が地面にぶつかるにぶい音が大きく響く。
「コナンくん!」
 蘭さんが思い切り叫んだのを皮切りに、止まっていた時間が流れ出した。わっと上がるような歓声の中で、そばにいた毛利探偵に話しかけられた彼が照れたような表情を浮かべた。
 改めてお礼を伝えるために彼に駆け寄った蘭さんの横で、私は一歩引いて彼の表情を見ていた。何度も体験していることだけど、今まで間接的にしか見たことがない誰かにこうして改めて会うのは感慨深いような不思議な感覚だ。その感覚になれることはない。
 彼といえばポアロのイメージがあったのでもし出会うのはあちらだとばかり思っていた。まさかこんな風に会うのだとは思わなかった。
 ぼんやりとそんなことを考えているとこちらを見た彼と目があった。はっとして固まる私に気が付いたのか蘭さんが彼の方に視線を向けてから、私に視線を向ける。
「名前さんは会うの初めてでしたよね。前に話した父の助手になりたい探偵さんです」
 その言葉にこちらから初めましてと頭を下げた。不躾にじろじろと見てしまった自覚があるので恥ずかしかった。やっちゃったなあと思いながらそろそろと顔を上げる。けれどこちらを見つめる彼の表情はにこやかであまり私の視線も気にしてないように見えた。これだけ格好よければ見つめられるのにも慣れているのかもしれない。
「蘭さんの紹介の通り毛利さんの助手をさせていただいている安室です。ええと、お名前は?」
「あ、名字です」
「なるほど、あなたが名字名前さんですね」
「え?」
「蘭さんからお話はかねがね伺ってます。僕も一度話をしてみたいと思っていたんですよ」
 思わず蘭さんの方を向くと、蘭さんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。事実のようだ。
「ほら名前さん、時々事件のときすごくはっとするような推理をするでしょう? そのことを話しちゃって」
「……私の推理なんて毛利探偵に比べれば小さなものだけどね」
「そんなことないですよ! それにそれだけじゃなくて人のことをよく見てるっていうか、すごいなあって思ってて」
 勢いよく始まったその言葉は恥ずかしかったのかどんどん尻すぼみになっていく。つっこんで否定するのも野暮なのでありがとうと素直に笑った。そんな風に言われるのは嬉しかったけれど、実際のところ私はずるをしているようなものなのだ。そんな風にほめてもらえるたびにだましている罪悪感があった。
 私の蘭さんの掛け合いを聞いていた安室さんが、私に片手を差し出す。私も手を差しだした。
「よろしく」
 にこやかにそう笑う彼の手はかたく、大きい。物腰が柔らかいのに不思議な感じだなと思いつつ、私もその笑顔によろしくお願いしますと握り返した。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -