ライナスの頬 | ナノ
 一年生に比べ二年生になると実践訓練が増えた。他のクラスと合同だったり外部からヒーローに来てもらったりロボット相手や先生たちが相手だったりするわけだけど、なにより自分のクラスの人間と一番戦わせられるし協力することが多い。ずっとそうやっていれば自分と相性がいい個性や天敵な個性だとかもなんとなく分かってくる。
 今日は前回のチームのままこのまえの反省を踏まえて行う実践訓練だった。リカバリーガールが今日は学校にいないので規模が小さいものだ。轟くんと役割をすでに決めて動き始めている。今回ももちろん轟くんが主導だ。
 私の目はクラスのみんなの個性の長所も短所も見ることができるけど、そんな風に見抜けても結局自分で対処するのは難しいのだ。……駄目だな、やっぱりなんか僻みっぽくなっている。そんな風に考えごとをしていたからか、私は轟くんが私の名前を呼ぶまで気づかなかった。
「名字!」
 気づいた瞬間にそれは目前まで迫っていた。あ、駄目だと思ったその瞬間に頭に思いきり衝撃を受けた。なにがぶつかったのかもわからないまま、目に火花が散ったような感覚とともに意識が陰る。目の個性持ってるのに見てなかったって意味ないじゃん。ていうかごめん今回一人でも落としたら終了なのに、もうダメじゃん。
 誰かが走るようにして近づいてくる。白く霞がかった視界のせいで、それが誰なのか認識できない。倒れた私をその誰かが、抱き起すのが分かる。だけどそのあたりでふっと意識が掻き消えた。



 目が覚めると白い天井が目に入った。それと同時にびりびりとした痛みが頭に走ってとっさに頭を押えて顔をしかめた。落ち着いて周りを見れば保健室のようだ。先生も誰もいない。あのあと普通に運ばれたのか体操服を着たままだ。
 気を失ったのは覚えている。そんで誰かが駆け寄ってきてくれて、うーん。そこからはもう記憶がない。ていうか今何時なんだろう。
 時計を確認するために身を起こしたそのとき、保健室の扉が開いた。扉を開けて姿を現したのは轟くんだ。
「目、覚めたのか」
「うわあ、轟くん」
「なんだその声」
 ベッドに寄ってきてくれて轟くんは制服姿だった。ということはとっくに授業時間は終わっているのだろう。今何時と聞くと腕時計に視線を落とした轟くんが答えてくれる。すでに放課に入った時間だった。割と長く気絶していたようだった。
「リカバリーガールいねえから相澤先生が代わりに様子みてたけど、まあ大事はないみたいだ」
「めっちゃ痛い」
「正面から受けてたからな」
「……あの、ごめん、轟くん」
 一瞬なんのことか分からないという顔をした轟くんだったが、小さい声で訓練と私が補足するとああと納得がいったというように声を出した。
「自分で分かってると思うけど次はよそ見するなよ」
「うう、はい。ごめんなさい」
 遠くにいた轟くんでさえ、私が他のことを考えていたと分かってしまったらしい。
 轟くんは伝言を相澤先生から預かっていたらしい。通学用のカバンを持っているので、帰るついでだったのだろう。
 伝言はといえば起きたら先生のところに来るようにとのことだった。怒られる予感が隠せない。恐ろしい。相澤先生は怒鳴ったりしないけど、理論的に指摘してくるのでそれはそれできついのだ。
 結局結果はどうなったのかと聞けば私が落ちたのでそこで終了になったそうだ。申し訳なくてもう一度きちんと謝った。それと同時に爆豪くんの怒った顔がよぎる。今回の対戦相手は爆豪くんのいるチームだった。轟くんとちゃんと戦いたかっただろうに、私が考えことして早々に終わりって完全に不完全燃焼だっただろう。
 爆豪くんは手を抜かれるとかそういうのが大嫌いだ。手を抜いたわけじゃない、けど、でもそういう風に見えていたら嫌だなと思う。爆豪くんがどう思ったのかを考えるといろいろ苦しい。 だけどそう思うなら最初からちゃんとやればよかったのだ。
「じゃあ俺は帰るな」
「うん、また明日。今日はいろいろごめん、あとありがとう」
「俺は礼を言われるようなことしてないだろ」
「えっ。誰かに抱き起こしてもらった記憶あるんだけど、私のこと運んでくれたのって轟くんだよね?」
「それは俺じゃない」
「そうなの?」
「ああ。爆豪だ」
「……ば、爆豪くん?」
「一番最初に駆け寄ったのも、運んだのもな。だから礼なら爆豪に言ってくれ」
 上履きをはこうと、床に下そうとした足が中途半端な状態で止まる。仲良かったんだなと、特にどう感じてもいなさそうな声で轟くんが言うけれど返事ができない。少しも考えていなかった答えだった。前に轟くんにそうして運んでもらったことがあって、完全に轟くんだと思いこんでいたが考えてみれば遠くにいたんだからあんなにすぐに駆け寄ってこれるわけがない。
 一番最初にということはあそこで駆け寄ってきてくれたのも爆豪くんで、抱き起してくれたのも爆豪くんということになる。
 どうして、って思った。でも私はそれ以上に嬉しかった。じわじわと胸に沸き上がる甘ったるいようなずきずきとした痛みに情けない顔になるのが分かる。今すぐに駆けだして、爆豪くんに会いたいと思った。
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