ライナスの頬 | ナノ
 冬休みに入ってしまってから爆豪くんと会うのは久しぶりだった。
 今日だって会えるのは夕方からだったのでおそらく半日も一緒にいる時間はないだろう。今日は爆豪くんに予定が入っていたけど明日には私に予定が入っている。
 だからそのDVDを借りてきたのもつい昨日のことだった。話題になっていた映画のDVDレンタルが始まっていたので、そういえば爆豪くんが何かの話題の折に見たいと言っていたなと借りてきたのだった。いかにもパッケージからアクション映画ですよ!というその映画は爆豪くんの好みど真ん中だ。爆豪くんは映画でもなんでも、派手で善悪がはっきりしてて最後にすべてがしっかり片付くものを好む。とことんわかりやすい。そして私もそんな映画が好きだった。私と爆豪くんは割と好みが似てる。
 私の家でご飯を食べて片付けてお互いにお風呂に入って、テレビの前に一緒に座った。寒いのでとりあえず毛布をかけて見ることにした。毛布には一緒に入った。
 一緒に毛布に入る距離になると割と近い。そして爆豪くんの体温は私よりずっと高い。私はそんな爆豪くんの体温にあやかるようにくっついて、肩にもたれかかるようにする。最初はおそるおそる、試すようにだったけど、こうやって甘えるようにくっつくことを爆豪くんは受け入れてくれるということを私は知っていた。
 膝を抱えるようにしながらそうしてテレビを見ているとそのうちベッドシーンが始まった。さすが洋画というような色っぽさだ。わ〜と思いながら思わず爆豪くんの様子を伺うと常と変わらぬ様子でテレビを見ている。見すぎたのか頬づえをつくようにして映画を見ていた爆豪くんと目があった。
 と、爆豪くんが笑う。爆豪くんが笑うとどうしてそんなに悪い顔になるんだろう。そのまま肩を引き寄せられた。
「なに考えてんだよ」
「べ、べつに……」
「やらしいやつ」
 耳にキスされて思わず可愛くない悲鳴をあげかけた。胸に抱き寄せられる。そのまま口にもキスされてしまう。肩に添えられていた手が私を抱いてそのまま爆豪くんの膝のうえに体が動いた。軽いものだったはずのキスが、どんどん深くなって体から力が抜けていく。ようやく解放されたときには体がぐにゃぐにゃにとけそうになっていた。
 そのまま爆豪くんの首に腕をまわしてぎゅっと抱きしめる。爆豪くんの首筋に顔をうずめるようにすると私と同じボディソープのにおいがした。それにまじるように爆豪くんのにおいがする。思わず深く息を吐いた。
 じっとこちらを見下ろすようにしている爆豪くんの頬に今度は私から手を伸ばす。キスをしようと首を近づけたところで、テレビから思いきり爆発音が聞こえた。思わずそちらを見る。映画はいつの間にか佳境に入っていたのか味方だったはずの主人公の親友が寝返っていた。いつの間に。
 つづいて入った派手なカーチェイスに、いそいそとむきなおった。さっきと違って今度は爆豪くんの横ではなくひざの間に座ることにする。体温で背中があたたかい。いつのまにか床に落ちてしまっていた毛布を爆豪くんにもかかるようにかけなおす。当然というように爆豪くんのてのひらがおなかにそえられたのでその上に手を重ねる。
 おなかのうえにあるあたたかな手のひらがなんだか照れくさくてくすぐったくて思わず少しだけ笑ってしまった。
「なんだよ」
「なんでもない」



 黒々とした髪にふれると指のすきまから零れ落ちていく。そうやって撫でるようにすると名字は気持ちよさそうに目を細めた。もともと気の抜けた顔をしているのにその顔ときたら目も当てられない。そんなにも間抜けな顔をして許されるのは俺の前だけだ。
 ベッドの上で甘えるようにすりよってくる。眠いのか名字の体はあたたまっていた。映画の終わりですでにあくびをしていたので限界に近いらしい。眠そうにまぶたをしばたかせながら、そのくせ目を開こうとしている。
「もう寝ろ」
「……ん、……ひさしぶりだから」
 舌ったらずのうえに主語がないがなんとなく伝えたい意味はわかる。冬休みに入り、お互いにお互いのインターンやらで予定があわずこうして二人で過ごすのも久しぶりだった。学校に通っていた時期の方がまだ会うことができていた。
 それが仕方ないことであることも当然であることも俺も名字も分かっている。名字の口から不満も漏れたことがない。たぶん思ってもいない。そういうやつだった。ただ寂しいとは思っているのか会うと甘えてくっついてくる頻度が増える。もともとくっつくのが好きなやつだったからべったりだ。
 べたべたくっつかれるのなんてうぜえに決まってるのに(実際に他のやつだったら思うだろう)名字にそれを思ったことはない。いつからそうなったのか、こいつに関することはいつだって例外だった。
「もう年末だねえ」
「……」
 髪の毛を撫でていた手を背中に移動させる。一応雄英の生徒なのだから鍛えているし、そうやって努力している姿は見ている。それでも名字の体はもろくて小さく感じる。やわらかな体の曲線はどうしようもなく女のもので、いますぐにキスしてめちゃくちゃにしてやりたいような思いに駆られる。それでもそうしてやる気にはならないのは彼女が疲れているのがあまりにもわかりやすく見てとれたから。だからもう、なにもする気は起きなかった。
 本当に不思議なことになぜかこいつと一緒にいると本当だったら気に食わないだろうことも、それでもいいとか許してもいいという気持ちになる。
 そえたてのひらで背中をゆるくたたいてやると(そうされることが名字は好きだ)口調が明確にあやふやになっていった。
「もうすこししたらとしこしで、もうちょっとしたらしんきゅうしちゃう…」
「おう」
「もっと、いそがしく、なるかも、で、でも」
「ん」
「いっしょに、いたいなって」
 そのあたりで意識が途絶えたのか、まぶたが完全にとじてしまっていた。静かな寝息が聞こえてくる。かけていた布団をもう一度しっかりかけなおしてやる。自然と自分とは思えないような手つきでそうした自分が笑えてしまった。高校に入る前の自分には考えもつかないことだろう。こうやって触れることも、こいつといることも。
「お優しいことで」
 暗闇のなかで白くうく彼女の頬にそのまま口を触れさせる。一緒にいると自分とは思えないようなことができる自分を嫌とは思わない自分に笑った。
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