"今日の放課後開けといてな?"
LINEの通知が鳴ったのは、昨日の夜のことだった。ひそかに片想いしている今吉からそう連絡来たことに、内心とても喜んだ。だって今日は、今吉の誕生日だから。
「諏佐ぁ〜どうしよ〜」
「どうしようったってそんな緊張する要素ないだろ」
今吉がトイレに発ったのを見計らって、諏佐の前の席を陣取る。次の授業の用意をしていた彼は、その手を止めて溜め息を吐いた。呆れた顔をしながらも、なんだかんだ話に付き合ってくれる諏佐は優しい。
「だって......な、何で呼ばれたのかも疑問だし...」
「...神崎、ひとついい事教えてやるよ」
「いい事?」
「今日、あいつ誕生日だろ?」
「うん、それは知ってる」
「バスケ部の奴らでお祝いしようって話になってたんだけどな、明日にしてくれって今吉の方から頼んできたんだ」
「へぇー」
いや、それってつまり......?
「今日、あいつはお前と二人っきりで過ごすつもりってことだ」
意地悪そうに笑った諏佐は、私にとんでもない爆弾を落としていきました。
放課後になり帰りの準備をしていると、今吉に呼ばれ屋上に連れられた。校庭では部活の準備をしている生徒たちでいっぱいだ。
「今吉、部活は?」
「話終わったら行くわ」
「あ、そう...」
今吉はフェンスに寄りかかりポケットに手を突っ込んだ。そして、何かを待つようにこちらを見た。口元を歪めたその顔を見て、私は確信した。彼が待っている言葉を。
「い、今吉、あの、」
「ん?」
わざとらしくいつもより言葉が、雰囲気が、表情が柔らかい。胸が痛くなるほどに鼓動を打つ。
「誕生日、おめでとう...」
「おーきに」
......あれ?あんまり嬉しそうじゃない...?こんなに緊張しているのに、態度が軽い。
「誕生日祝われるのは嬉しいで?」
「こ、心読むなサトリ!」
今吉は楽しそうに笑った。しかし、急に真顔に戻って私の前へと距離を詰める。目の前が彼の顔でいっぱいになり、頬にかかる髪を掬い上げられた。
「なあ凪沙、そろそろ付き合わへん?」
「はあああ!?」
今吉はすっと離れてうざったそうに片耳に指を突っ込んだ。
「うっさいわー、お前ワシのこと好きやろ?」
「はあああ!?」
「だからうっさいわ!」
最悪だ...。何で、私が今吉のこと好きなのバレてるの?サトリだから?妖怪だから?サトリ怖い。妖怪怖い。今吉怖い。
思わずしゃがみ込んだ私と同じように今吉もしゃがんだ。ゆっくりと頭を撫でられる。その手は温かくて。表情はとっても優しくて。恥ずかしくて目尻に溜まった涙を優しく拭ってくれた。今吉、好き。好きだよ。
「ワシも好きや」
「嘘だ...」
「何でや」
「私の方が絶対好きだもん」
「っ、お前は......」
ぐいっと腕を引かれ、ぽすりとその腕に収まった。痛いほどに抱きしめられる。
「なあ、これから試合や受験で忙しゅうなるけど、お前がいてくれたら、きっと、心強いと思うんや」
「......」
「だから、付き合わん?」
「うん...!」
思いっきり泣いてしまった私の背中を今吉はあやすように撫でた。今日は今吉の誕生日のはずなのに、予想外のプレゼントを貰ってしまった気分だ。あやす今吉に甘えて肩に擦り寄ると、今吉はくすぐったそうに笑った。
ありがとう、今吉。そして、これからよろしく。
(で、ワシのプレゼントは?)
(………………………後日渡します)
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