※名前変換なし


こんなに人を愛したことはなかった。

かつて豊臣最盛期に秀吉様に仕えていたくノ一は仕事が早く、与えられた仕事は確実にこなすと評判だった。少々契約金は高いが、それでもあの北条や武田の忍に次ぐ実力の持ち主なのだから致しかたない。そして、彼女には妙な噂がついて回った。

"彼女に見限られた軍は衰退する"

まるで座敷童のような彼女に、最初嫌悪感を抱いていた。それでも半兵衛様の命で私の食事の面倒を見たり刑部の包帯を変えたりと女中のような仕事から、敵地へ情報収集をしたり戦時には家康とともに最前で戦ったりと、とにかく毎日豊臣のために尽くしていた。そんな彼女を見ていくうちに私の想いも大きくなっていったのだ。

『三成様、私ね、忍は月を嫌うと言うけれど、私は好きですよ』

『そうか......しかし何故それを私に言うんだ』

『だって、月は三成様に似てるでしょ?だから好きなんです。太陽より、ずっと』

数日後、彼女は豊臣から去った。その翌日、家康が秀吉様を討った。

「何故だ.........何故、皆私を裏切るのだ......」

配下の忍によれば、彼女は徳川に就いたという。秀吉様と半兵衛様が亡くなったあの日から、家康が裏切ったあの日から、彼女が豊臣を見限ったあの日から、私には何も残っていない。だから、何もない私にできることは一つ。家康を倒すことだ。秀吉様のため、半兵衛様のために、家康を討つ。私が家康を倒したら彼女は再び私の元に戻るだろうか。私の直属の部下になってくれるだろうか。

「三成様、徳川の軍が来ました!」

「分かった......行くぞ」

今度は私から迎えに行こう。もう裏切りは許さない。

(月が好きと言ったのに)
(何故太陽を目差したのか)



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