※戦国無双4 小田原征伐戦後
豊臣秀吉が北条を破った数日後、天下統一を祝した宴にてそれは起こった。
「ところで高虎と凪沙はいつ婚儀を上げるんじゃ?」
凪沙が口に含んだ酒を盛大に吹き出す。それまでの賑やかな笑い声も笛の音も止み、酒が引っかかり噎せる凪沙以外は皆固まっていた。この空気を作り上げた秀吉さえも「儂は何か変なこと言ったか?」と顔を引き攣らせた。
「ごほっ、ひ、秀吉様...急に何を仰るのですか」
「何じゃ、儂はお前らがそういう仲だと思っとったが...」
違うのか?と秀吉に問われた凪沙が濡れた口元を拭う。凪沙と高虎は浅井長政に仕えていた頃からの仲である。もう一人の友である大谷吉継と三人でよく行動を共にしていたが、一度も浮いた話は出てこなかった。高虎も吉継も異性には淡白であったし、凪沙は"戦には出るしこんな傷だらけの女、誰も貰ってくれないだろう"とこれまでの見合い話も断っていた。凪沙はその事を秀吉に伝えてあっただけに、今更何をというのが正直な心情であるが。
「そ、そんな...私と高虎は別に、そんなんじゃ...」
凪沙の顔が少しずつ赤くなっていく。酔いが回ってきているのもあるだろうが、その場の全員の視線を一気に向けらているからだろう。凪沙は手にじんわりと掻いてきた汗を膝で拭う。何か言葉を探そうと口をもごもごとさせたその時、それまで黙っていた高虎が口を開いた。
「お言葉ですが、俺はまだ誰も娶るつもりはありません。命令、と言われれば別ですが」
何だそうなのか、と秀吉達が視線を凪沙と高虎から外す。しかし凪沙だけはぎゅっと拳を作り俯いていた。好きな人のその言葉は聞きたくなかったなあ、と誰にも気づかれないように唇を噛みながら。
宴の後高虎が外で酔いを醒ましているのを見つけ、凪沙が近づくと彼はその姿を一瞥して桜の木を見つめた。
「どうした」
「あ...いや、姿が見えたから...」
何を話すか決めていなかったようで凪沙が口籠る。高虎はそんな彼女を視界の端に入れ、少しだけ口元を緩めて笑った。
「...先程の言葉を気にしているのか」
「あ、いや、その...」
その言葉に凪沙が口籠る。
「もしあの場で俺が娶ると言ったらお前は了承するのか?」
「......」
凪沙は俯いた。了承は是非ともしたいが、秀吉に言われて動く、というのがどうも腑に落ちないのだ。できれば高虎が自分と本当に結婚したいと思ってくれるのが理想なのだが、それは夢のような話だ、と凪沙は諦めている。お転婆で頑固で傷だらけの女武将を娶る男なんているわけがない。
「お前は結婚する気はあるのか?」
「それは、勿論......」
「凪沙、今、秀吉...様が天下統一を果たしたが、この泰平はそう長くは続かないだろう。いつか本当の意味での泰平が訪れた時、そしてその時にお互いに生き残っていたら、俺はお前を迎えに行く」
「む、迎え?」
「ああ、お前を妻に迎える」
じゃあな、と言いたいだけ言って高虎は屋敷へ戻った。暫く呆けていた凪沙であったが、ようやく意味を理解し顔を真っ赤にさせて夜にも関わらず絶叫した。その叫び声とねねがうるさいと叱る声を聞きながら高虎はほくそ笑んだ。
「これで彼奴は俺に着いてくるだろう」
その後、徳川家康が征夷大将軍になり泰平が訪れた日ノ本にて二人の男女が晴れて夫婦となったのだった。
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