窓の向こうではしとしとと雨が降っている。9月29日、今日は宍戸の誕生日だ。
「ミーティングが終わったら家まで送ってやる」
何処かそわそわした宍戸にそう言われ、教室で大人しく彼を待つ。今日のテニス部のミーティングにマネージャーである私は必要なかったらしい。自分の席に座り外を眺める。しとしと。その時、教室のドアが開く音が聞こえた。
「待ったか?」
窓に向けていた視線を外しドアの方を向くと青い帽子が。そしてその両手には沢山のプレゼントが入っているであろう紙袋があった。
「ああ、お疲れ様。そんなに待ってないよ」
荷物を持って宍戸の元へ行くと、彼は帽子のつばを触りながら帰るぞ、と言った。
「長太郎とは帰る約束してなかったの?」
2つの傘が雨を弾く。雨はまだ止みそうにない。
「あー......長太郎は用事があるんだとよ」
何か後ろめたい事があるのか、目を逸らす宍戸に私は首を傾げた。
「何か今日大人しくない?」
私が宍戸の顔を覗き込もうとすると、その顔はふいとそっぽを向く。耳は少しだけ赤い。不思議に思って声をかけると、宍戸は立ち止まって俯いた。つられて私も立ち止まる。
「あの、よ...」
「何?」
「...俺の傘、入れ」
「え?」
お互いに傘を持っているのに何故そんな事を言うのか。聞き返すと真っ赤な顔で眉間に皺を寄せたまま私の方に傘を向けた。少し驚きながらも、私は自分の傘を畳んで宍戸の傘に入る。距離が、近い。
「それで、よ...」
「うん」
「俺、今日...」
「あ、誕生日でしょ?」
そう言うと宍戸は驚いたように目を見開いた。知ってたのか、と。
「もちろん。でも、他の人とプレゼントと被ったら嫌だなと思ったからまだ用意してなくて...リクエストあるならできる限り用意するよ」
「そう、か」
急に宍戸がもじもじし始める。あちこちに視線を彷徨わせた後、何か覚悟を決めたように私を見た。
「だったら、お前のこれからの時間、俺にくれ」
「え、時間?」
「凪沙が好きだ。付き合って欲しい」
しとしと。音が消える。世界には私と宍戸しかいないような気がした。私が固まっていると、宍戸はあーだのうーだの、声を漏らしている。
「宍戸、」
「あ?」
宍戸の目尻は赤く染まっていた。ああ、顔が熱い。
「私も好き」
言うや否や、傘を持っていない方の腕で強く引き寄せられる。私も宍戸の背に手を回した。
「激ダサだな、俺」
「そんなことない。ありがとう。宍戸」
名前で呼んでくれ、と首筋に顔を埋められてくすぐったい。亮、と小さく名前を呼べば彼は照れ臭そうに返事をした。
「誕生日おめでとう」
そう言うと彼はとても嬉しそうに笑った。雨はいつの間にか止んでいた。
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