※名前変換なし

何かに夢中になってたらいつの間にか日が暮れていた、ということはあるが、気づいたら知らない部屋に寝かされていたという経験は初めてだった。

目が覚めた時、それはそれは大きな部屋に寝かされ、開けられた障子の向こうには広い庭にこれまた大きな池があるのが見えた。ビルひとつない空を見たとき、もしかしたら違う時代に来たのかもしれないと、何故かそう思った。

「目が覚めたかい?」

ゆっくりと体を起こしてぼーっと庭を眺めていると、白髪の優しそうなおじさんが部屋に入ってきた。鎧のような物を身に付けている。戦国時代みたいだ。

「あの、ここは......」

「私の屋敷だよ。ここは毛利家が治めている場所で、安芸って言うんだ」

君は知っているかな?そう言った彼の目が何かを見透かしているように冷たかった。隣に座った彼に思わず体を強張らせると、彼はクスリと笑った。

「君はどこから来たのかな?そこの池に浮かんでいたんだけれど」

「どこと言われましても、」

「私が思うに......未来、かな?」

彼は知った上で質問していたのか。老人にしてはなかなか腹黒いようだ。

「毛利の名は知っているかい?」

「毛利、元就なら...」

「そうか、未来でも私は有名なのか。いやあ、嬉しいねぇ。で、君は何年後から来たのかな?」

「多分ですけど、400年後かと」

「へえ、400年後から」

毛利さんはそれはそれは嬉しそうに笑った。それから未来の事やここが戦国時代であることを話し合い、そして軽く自己紹介をした。毛利さんはもう隠居していて、家督はもう息子に譲ったようだ。じゃあのんびり気ままに隠居生活を送っているんですねと言ったら、嬉しそうに笑っていた。それから執筆活動をしているのだとか。がっつり隠居生活をエンジョイしているようだ。

「で、私は歴史家を目指しているんだ。そして今未来の事を知っている君がいる。どうかな、ここで私と暮らさないかい?勿論、対価はきちんと貰うよ」

「対価?」

「そう、君の知識だ。どうだい?」

戦国時代にひとり放り出されるより、ここで戦争から手を引いている、しかも超有名人の毛利さんに養ってもらえるなんて万々歳だ。お願いしますと頭を下げると、毛利さんは紙と筆を手に、それじゃあ早速と私に着物を渡した。

「それに着替えたら執筆活動を手伝ってくれるかい?」

急に活き活きとし出した毛利さんを見て苦笑いしつつも、これからの生活にわくわくしている自分に気が付いた。この後本が散らかっている毛利さんの部屋を見て、まずは掃除から!と怒ったのは余談である。



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