※暗め

「好きです」

そう告げた男の子は真っ赤な顔をして、不安そうにこちらを窺った。何て言えば良いのか分からず顔をしかめたら、彼はNOだと悟ったのか、一言謝って去って行った。遠ざかって行く背を、告白されたのだとどこか他人事ように思いながら眺めていた。

春を迎え、私は鮫柄学園のもっと先の大学に進学した。従弟の遙の実家の近くにアパートを借り、バイトをしながら週末は遙の家に泊まり食事や掃除などの面倒を見る。そんな生活をしていたある日、私と真琴くんは出会った。

第一印象は好青年。遙の面倒もよく見ていてくれているようだし、岩鳶高校水泳部の部長を務めているようだ。頼りになる礼儀正しい従弟の友達。最初はそんな印象だった。それから渚くんや怜くんや江ちゃんを交え一緒に食事をしたり、私がレンタカーを借りて少しだけ遠出したりして、私たちの距離は徐々に縮まっていった。

そして、水泳部の夏の大会が終わった頃、私は真琴くんに告白された。「凪沙さんが好きです。彼女として、側にいてください」初めは年下や遙の友達という事もあり断っていたが、彼の熱烈なアプローチに根負けして付き合うことに。最初は楽しかった、純粋に。なのに。

いつから私は彼の顔色を窺うようになったのだろう。いつから彼は私の周囲を警戒するようになったのだろう。

「告白されてましたよね」

そう言って私を抱き締めた彼の身体は小さく震えていた。真琴くんの大きな身体が小さく見えるのは何とも不思議なことか。私は抱き締め返すこともなく、ただそんなことを考えていた。捕まれた左手は痛くて折れてしまいそうだった。

「大丈夫、大丈夫だよ。真琴くん」

拘束されていない方の手でそっと頭を撫でれば、彼は泣きそうな顔をした。口をきゅっと結び、力なく頭を私の肩に乗せた。

「ちゃんと断ったよ。彼氏がいるって言ったから」

ごめんね、真琴くん。本当はそんなこと言ってないの。同じ大学で違うクラスの人だったんだけど、一目惚れしたんだって。

「だから、大丈夫」

大丈夫、大丈夫。私は真琴くんが好きだ。真琴くんを好きでなきゃいけないんだ。そうじゃないと、

「………良かった。じゃないと、何してたか分かんないや」

何か怖いことが起こる気がする。誰に何をとは言わない。でも私か、あの男の子か、あるいは両方に何かをする気だったかは確実だ。今真琴くんに何て言うべきか、私が何て言えば傷付かずに済むのかは分からない。だから、私は今日も彼を愛しているふりをする。

「君が一番好きだよ、真琴くん」

左手首がみしりと音を立てた。ごめんね、真琴くん。嘘吐いて、ごめんね。



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