はくしゅ | ナノ


拍手ありがとうございます!
励みになります。

下にスクロールしていただきますと、連載中の『甦る陽』の番外編を記載しております。
興味があるという方は是非!







何かございましたらコメント宜しくお願いします。
レス不要の際は、レス不要と文末に記載していただけると有難いです。





題名:麗らかな春の日のこと
詳細:浩輔が入寮した日の生徒会室のお話。渋谷視点です。

────────



暖かい風が、開け放たれた窓から麗らかな春の香りと共に室内へと侵入してくる。
厳しい冬を乗り越えてきたそれは、優しく俺の肌を包み込む。

しかしそんな柔らかな外の空気とは対照的に、ここ生徒会室のそれは淀んでいた。

「徹ちゃーん、そろそろお茶休憩くらい入れない?」
「そうそう。気分転換にさー。」

机に突っ伏しながら文句を垂れているのは書記の猪口兄弟だ。

「そんなこと言って、またサボる気でしょう?」

俺は有無を言わさずその申し出を却下する。

「入学式までもう日がないんですよ。春休み中に溜まっている仕事は全部片付けてもらいますよ。」

ぴしゃりと言い放つ俺にまだつべこべと愚痴をこぼす2人を無視して、俺は目の前の仕事を進める。
だが、よく考えてみれば俺が今やっていることも本来は俺のやるべき仕事ではない。
俺は新一年なので、正式にはまだ高等部の生徒会幹部ではないのだから。

はあ、と思わず溜息がこぼれる。
現在の生徒会幹部は先ほどから口だけは達者な猪口兄弟と、気まぐれで仕事をやったりやらなかったりの落合副会長と、全く仕事をする気のない岩明生徒会長で構成されている。
誰か発破をかける人間が居なければ成立しない面子な為、まだ正式な役員ではない俺が駆り出されている。
生徒会幹部がこの人たちに決まった時から、こうなることを俺は予想していた。

全くこの人たちは、やる気になればこんな仕事、あっという間に片づけてしまうのになんでこう無気力なんだろうか。

落合副会長は気まぐれを起こしてくれ、珍しく黙って仕事をしてくれているが、岩明生徒会長は窓の外を眺めながら煙草をふかしている。
ここ、高等部の生徒会室なんですけど……。

「会長、煙草吸ってないで仕事して下さい。」
「あ? 俺に指図すんじゃねーよ。」

不機嫌そうに言う会長に苛立ち、俺は負けじと言い返す。

「私は現生徒会の仕事配分、及び進行役を前生徒会長から仰せつかっているんです。ちゃんと仕事して下さい。でないと前生徒会長に頼んで会長の権利剥奪しますよ。」

俺がそう言うと岩明会長は、チッと舌打ちをしてから仕事に取り掛かる。

「徹、なんかイライラしてない?」と笑顔で訊ねてくる落合副会長に俺は「こんな面子を任されてますから」と、当然のごとく口にした。

「今、遼ちんに仕事させたっていつもの倍以上時間かかっちゃうよー。」
「まあ、黒猫が消えちゃったから仕方ないけどねー。」

猪口兄弟はそんなことを口にする。
俺は、またその話題か、と呟きたくなる気持ちを抑え仕事に専念する。

「黒猫どこ行っちゃったんだろうねー。まあ気まぐれな奴だったからまたふらっと顔出すとは思うけどさっ。」
「てか遼ちんもそんな躍起になって行方捜すんだったら監禁でもしてりゃよかったのに。」

口しか動かしていない猪口兄弟を注意しようかとも思ったが話題が話題だけに俺は口をはさむのを止めた。

「大体、遼ちんが捜してるってこと黒猫は絶対知らないよー。」
「そうそう! 遼ちんったら黒猫が店に来るとスッと隠れてたし、遼ちんのこと自体知ってるかどうか……」

瑞貴がそういいかけたところでプツリ、という音が聞こえた気がした。

「おめーら、それ以上言ったらシバくぞ。」

岩明会長が言い放ったその言葉は、カタカタとタイピングの音が交差する生徒会室に低く響いた。

「はいはい」と呆れた様子で仕事を再開する猪口兄弟。俺はこの光景を何度も目にしている。
黒猫、というのは俺を除いた生徒会幹部共通の知り合いらしい。
知り合い、と言っても会長らの行きつけの店によく現れていて、黒猫という渾名以外の情報は一切ないようだ。
その黒猫が理由も言わず急にその店に来なくなってから、岩明会長の煙草の量は一気に増えていったそうな。

俺はその人物を直接知らないし、知りたいとも思わないので、生徒会室でこの話題が出たら口を出さないようにしている。

「そろそろかな」と落合副委員長が急に口を開いた。何がそろそろなんだろうか。

「じゃ、俺はちょっと出かけてくるねー。」

そう言って席を立った落合副会長に猪口兄弟が「ずるい!」と引き留める。

「俺は自分の仕事を全部終わらせてるんだから文句言わないでくれるかな。」

そう言って落合副委員長は何やら浮足立って部屋を出ていく。
ああ、そうか。今日は外部生の入寮の日。

外部生が入学してくると知った落合副会長は、先日その人物について色々と調べていたことを、俺は知っている。
というか、俺も手伝わされた。

副会長はきっと外部生の小湊浩輔に会いに行くんだろう。
会いに行く、というよりはちょっかいを出しに行くという方が正確だろうか。


俺は落合副会長が去って行った暫く扉を見つめ、何とも形容しがたい自分の感情を抑え込み、目の前の仕事を再開した。



ああ、春の日差しが暖かいな。
窓の外ではチュンチュンと小鳥のさえずる声が聞こえていた。



────らかな春の日こと。








[]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -