寺生まれの坊ちゃん(後編)



セレネside


その後僕らは、志摩ちゃんと猫丸君から“青い夜”の話を聞いた。なんでも十六年前に、さっちゃんが世界中の有力な聖職者達を大量虐殺したらしい。
それを聞いてさっちゃんの方をジト目で見てしまったのは仕方ないと思う、やりすぎだよさっちゃん。
さっちゃん曰く『反省はしているが後悔はしていない』そうだ……当時の皆さん御愁傷様です。
祓魔師が万年人員不足なのってそれが原因なんじゃないの?と思ってしまう。

「あ、戻ってきはったわ」
「授業再開するゾー!」

と、その時…誰かの携帯のバイブ音が鳴り出した。

ピッ

「何かネ、ハニー?」

ハ、ハニー…?

「なんだって?今からかい?仕方がない子猫ちゃんダ!」
「子猫…ちゃん?」
「ちょ、セレネちゃんコッチ見んといて下さいッ!!」
「注ゥ目ゥー暫く休憩にするッ!!」

えええええええ!?彼女(?)優先!?
普通仕事が先でしょ、なんなのこのケツ顎ッ!!

「いいかネ!基本的に蝦蟇は大人しい悪魔だが、人の心を読んで襲いかかる面倒な悪魔ナノダッ!!私が戻るまで競技場には降りず、蝦蟇の鎖の届く範囲には決して入らないこと!時渉君の二の舞にならないように、いいネ!?
分かったら以上!今行くヨ子猫ちゃーんッ!!」

そう言ってケツ顎男爵は走り去っていった。
愛に生きる男…ケツ顎男爵。…………なーんて冗談で言えるレベルじゃないね、これはメフィストに報告しないと。体育実技はあの人よりお姉ちゃんの方が向いてると思う。

「なんやアレッ…!!アレでも教師かッ!!」
「僕も竜君に賛成ー、流石に授業放棄はアウトだと思う」
「正十字学園て、もっと意識高い人らが集まる神聖な学舎や思とったのに…ッ!!生徒も生徒やしなぁッ!!」

竜君は燐兄をを睨みながら怒鳴り、燐兄とまた口論が始まる。

「なんだよさっきから煩ぇな、なんで俺が意識低いって判んだよッ!!」
「授業態度で判るわッ!!」
「坊、大人気ないですよ」「止めたって下さい坊」
「喧しいわお前らッ!!黙っとけッ!!そうや、そんならお前が意識高いて証明して見せろやッ!!」
「は!?」

あれぇー?なんだか雲行きが怪しくなってきたよー?
さっちゃんニヤニヤしてないで止めるの手伝ってよ、このままだとちょっと……嫌な予感が……

「あれや、蝦蟇に近づいて襲われずに触って帰ってこれたら勝ちやッ!!今後祓魔師になるんやったら、蝦蟇なんて雑魚にビビッとられへんしな?勿論俺もやる、当然勝つッ!!」
「うわぁ、本当に嫌な方向に進んでるよ…」
「お前も無事戻ってきたら覚悟決めてやっとるって認めたるわッ!!どうや、やるかやらんか決めろッ!!」
「……へっ面白ぇじゃねぇか!」

燐兄までノってどうするの!危ないから止め…

「まぁやんねぇけど。」
「へっ?」
「なん!?」

珍しい…いつもの燐兄ならノってるのに今回は理性的だ。

「間違って死んだらどうすんだ、バッカじゃねぇの?俺にも“お前と同じ”野望があるしな、こんな下らない事で死んでらんねぇんだ」
「ッ…!?志摩……子猫……お前ら言うたなッ!?何が野望や……お前のはビビっただけやろうがッ!!(どいつもこいつもっ………何でや、何でこうなったんやッ!!)」
「竜君…」

猫丸君がさっき話してくれた竜君の過去。
一日で大勢のお坊さんが変死した寺を住民は皆気味悪がり、檀家も参詣者も減り、その内“祟り寺”と言われるようになってしまったらしい。
実家のお寺がそんな状態で、更に自分のお父さんの悪口も言われ……そりゃあさっちゃん怨むわ、悔しくて悔しくて仕方がない。なんてことしてくれたんだこの魔神は。

「なんで戦わん…悔しくないんかッ!!俺はやったるッ!!お前はそこで見とけ腰抜けッ!!」

そう言って竜君は坂を下って下まで降りていき、蝦蟇の近くまで歩いていく。

「俺は……俺はッ……!!」

ああ駄目だよ、それ以上先を言ってしまったらッ……!!


「サタンを倒すッ!!」



「プッ…プハハハハッ!!」


そう宣言した途端、麿眉のお姉さんが吹き出し笑い始める。

「ちょ…サタン倒すとか!あははッ!!子供じゃあるまいしッ!!」
「待って駄目、それ以上言ったら蝦蟇がッ……!!」

麿眉お姉さんを止めようとしたが時既に遅し、お姉さんの言葉は竜君の耳にしっかりと届いた。

「俺の野望をッ…!!笑うな……ッ!!」

竜君の感情の変化を蝦蟇が見逃す筈がなく、竜君に容赦なく襲いかかる。

「あ、しまッ……!!」
「ゲボォォオオッ!!」
「竜君逃げてぇぇええッ!!」

食べられるかと思った瞬間、燐兄が素早く動いて竜君の前に立つ。


バクンッッ!!


「おいッ!!」
「きゃぁあああ燐ッ!!」

皆が悲鳴をあげる中、燐兄は慌てることもなく蝦蟇を獣の様な瞳で睨む。


「離せよ……離せっつってんだッ!!」


その時の燐兄が先程のさっちゃんの姿と重なって見え、「やはり血は争えないな」と僕は思った。
蝦蟇はきっと「何この親子怖い((((;゜Д゜)))」と心の中で思っているに違いない、現に今ガクブルしながら冷や汗垂らしてそろりと燐兄を解放している。

「何やってんだ、馬鹿かお前はッ!!いいか?よーく聞け!サタンを倒すのはこの俺だッ!!テメェはすっこんでろッ!!」

り、燐兄ェ………
飛び出した燐兄も人のこと言えないよ、僕もだけど。

「ば、馬鹿はテメェやろッ!!死んだらどうするんや!!つーか人の野望パクんなッ!!」
「パクってねぇよオリジナルだよッ!!」

その後またもや二人は口論になり、僕らが取り押さえる事になった。




――……一方、影でその様子を見ていた二人。


「………はぁ、兄さんは本当に手のかかる…」
「まぁ…無事で良かったから良いんじゃない?」

構えていた銃を降ろし、雪男は肩の力を抜く。

(“魔神の力”というものは、あんたが考えているよりもずっと手に負えないものかもしれないよ…………メフィスト。)

雪男が隣で嘆いているのをチラリと横目で見ながら、燐や私達を楽しい玩具としか考えていないであろうメフィストの事を考え、私は今日一番の深い溜め息をついた。



―後日談―

「お、親父……」
「ん?どうした燐?」
「こないだはその……勝呂から俺のこと庇ってくれて…………ありがとな」ボソッ

それを聞いた藤本は一瞬目を見開いた後、ニッと嬉しそうに笑った。

「おう!」



↓おまけ(帰宅後の風呂)
『蝦蟇に臭いつけられてんじゃねぇよ折角マーキングしてたのによォ』ガシガシガシ
『痛い痛いもっと優しくしてよさっちゃんッ!!ていうかマーキングって!?』
終われ(^q^)


To be continued…
*H27.1/21 執筆。



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