剣盾の女主人公に転生した件



気がつくと、そこはポケモンの世界だった。


いやぁビックリだよね。
生まれた頃はよく分かってなかったんだけどさ、親に連れられて外に出てみたらウールーやスボミーがいてバタフリーが飛んでるのよ。
その時点で「あっ(察し)」だったね。
しかもウールーがいるということは、ポケモン剣盾のガラル地方にいるということだ。

……私が最後にクリアしたゲームと同じ。
ということは、私がプレイしていたシールドの世界の可能性が高い。それに家の周りの植物が多いし、幼馴染の名前がホップでその兄の名前がダンデときた。

つまり、私は女主人公に成り変わってしまったということだ。
まぁ罪悪感とかは特に無い。私自身ゲームやってたし。てか髪と目の色がプレイしてた時と同じ色になってるんだよね、プラチナブロンドにウルトラマリン。母親もそれに合わせたかの様に同じ色になってるし。
なんでか分かんないけど、まぁいっか。
初期の色よりその方が好きだし。


この世界に生まれて今年で5歳になった。
小さな町だし、もう一人でホップの家に行けるから、遊びに行こうとしてたんだけど…

「あれ?開いてる…?」

まどろみの森へ続く木の扉が開いている。
普段は誰も入らない様に閉めてあるのに……なんでだろう?まるで私においでと言っているかの様だ。
……これは入るしかないだろう。
そう思い、私はまどろみの森へ入っていった。










ーまどろみの森ー


「やっぱり霧が凄いなぁ、濃霧ってヤツだな。ゲームでもそうだったけど、先が全く見えない」

いつになったらお墓まで着くんだろう。
やっぱり5歳児の足じゃ時間かかるね。
そういやあのお墓って二匹の為のお墓かな?でも殿堂入り後に捕まえられるし、二人の英雄のお墓かな?そこに寄り添って護ってるとか。
考えても真相が分かるわけじゃないし、考察はここまでにしておこう。


ウルォオオオオンーー……


…………今、聞き覚えのある遠吠えが聞こえた。
ゲームで何回か聞いたことあるぞ。あのプリンターのインクと同じ名前の奴だ(ry
私はその声の方へ足を進めた。


ウルォオオオオンーー……


だんだん近くなってきた。
やっぱりそうだ、この声はあの伝説ポケモンの遠吠えだ。イベントでの遠吠えは二匹共同じ声だったから見分けつかないけど、あの二匹のどちらかだろう。
あ、シルエットが見えてきた。

『……誰だ、我らの地に入ってくるのは』
「いやぁゴメンゴメン、扉が開いてたから誘ってるのかなぁと。それに君の遠吠えが聞こえてきたからね、ザマちゃん」

そこにいたのは、予想通りザマゼンタだった。
やっぱりシールドの世界だね、私がプレイしてたゲームの世界だ。
てか伝説って喋れるの?

『その妙な呼び方…それにその魂……ハティか?我の声が聞こえるその力は健在か』
「え、誰それ。どゆこと?」

ハティ?魂?声が聞こえるのは伝説だからじゃないの?頭にハテナを浮かべていると、ザマちゃんが近づいてきて私の目の前でかしずいた。

『よく戻ってきた、ガラルの王よ。この地に危機が訪れた時は、再び力を貸すとここに誓おう』
「え、ちょッ…!?なんで傅くの!?王って何!?ハティって誰だよ誰か説明プリーズッ!!」

よし、一旦落ち着こう。ひっひっふー。
ふぅ、漸く落ち着いた。え?使い方が違うって?良いじゃんボケると落ち着くんだよ。
とりあえずザマちゃんには説明してもらった。

私が盾の英雄の生まれ変わりであること。
その英雄の名前がハティという王族だったこと。
ハティにはポケモンの言葉が解る不思議な力があったこと。
何故私がハティと分かったかというと、ハティと同じ誰にも染められない真っ白な魂をしていたから……らしい。

なんかよく分からないけど、私は盾の英雄の生まれ変わりだから、此方の世界に引き戻されたんじゃないかとザマちゃんは言う。
そういや私、生前の記憶が神社にいた所で終わってるんだよね。気がついたら生まれ変わってた。
マジで連れ戻されたのかもしれない。

因みにザシアンとザマゼンタは、ガラル地方に危険が訪れた時以外は、この土地から離れられないらしい。だからタペストリーには二匹のお墓が描かれていたのかな?殿堂入り後に捕まえられるのは多分主人公補正だね。

『ククッ…まさかお前が女に生まれ変わるとはな、あのやんちゃだったハティが』
「私やんちゃだったの?てかその頃の記憶無いから分かんないんだけど。」
『ああ。スコルと共に王位を継いでからも、臣下の目を盗んで旅に出ることが多くてな。我らの元へ来る度に旅の話を聞かされたものだ』
「へぇ、スコルって誰?」
『スコルはお前の相棒だった剣の英雄だ。
昔から仲が良くてな、先代の王が王位をどちらかに譲ろうとしたら、「一緒じゃないなら王位を継がない」ときたもんだ。流石に王も困り果てていたぞ、結局二人に継がせたがな。』

どんだけ仲良いんだよ、そりゃ王様も困るわ。
二人で王様になるって凄いな、意見が割れたらどうするんだろう。

「そういやそのスコルって人は生まれ変わってないの?私が生まれたならスコルも生まれてるんじゃない?」
『スコルはお前よりも少し前に生まれたぞ。この森には一度も来ていないが、ガラルの何処かにいるのは分かる。しかし………恐らく奴は駄目だな
「駄目って……どういうこと?」
『どうやらスコルは間違った道を進んでいるようでな、このままだと英雄の素質を失ってしまうだろう。ザシアンが嘆いていた』

スコルの生まれ変わりって誰だろう……ビートかな?いや私とそんな年離れてないし違うか。
何やってんだよスコル、ザッシーが泣いてるぞ。まだザッシーに会って無いけど。会ってもないのに勝手にあだ名つけちゃった。

「英雄の素質を失うとどうなるの?」
『堕ちた英雄はただの人間と変わらぬ。普通の人間に戻るだけだ。現世でも来世でも、もう我らと関わることはないだろう』

つまり主役からエキストラになるわけか。
一度資格を失うと、もう二度とその資格は与えられない。
テレビで見る役者さん達もそうだよね。どんなに有名な俳優でも、一度罪を犯すと一気に地へ堕ちる。

『……そうだ、名を聞いていなかったな。ハティ、今の名は何という?』
「私?私は…………ヒナ。この森の近くに住む、ごく普通の女の子だよ」
『ヒナ……か。名前の通り幼いな』
「ちょっと、まだ5歳なんだから小さくても仕方ないでしょ。喧嘩売ってんの?」
『ハハ、冗談だ。良い名だな』

そう言って、ザマちゃんは私の頬に頭をすり寄せてきたので、私はその頭をソッと撫でる。

『ハティ………いや、ヒナ。どうかお前は変わらずに、真っ直ぐでいてくれ。そのままのお前でいてくれ。ヒナまで変わってしまうなど……考えたくもない…』
「……大丈夫だよ、私は私。何があっても変わらないよ。……………性別は変わったけど」
『クッ……ハハハッ!そうだったな、今は女だったか』

余程ツボにハマったのか、ザマちゃんは体を震わせ笑いを堪えながら、霧の奥から不思議な杯を持ってきた。

「何それ?優勝カップ…にしては神秘的だね」
『これは森の奥の湖にある聖杯だ。普段は湖の底に隠してあるが、お前が来たからな。特別だ』
「聖杯?そんな凄いアイテムを持ってきてどうするの?」
『聖杯の中に水が溜まってきているだろう、そこにお前の血を一滴垂らせ』
「え、何それ怖いんだけど」
『怖いなら手を出せ、我がやろう』

聖杯に血を垂らすとか何それ怖い。
でも自分を傷つけて血を出すのはもっと怖い。私はザマちゃんの前に素直に手を出した。ザマちゃんは私の指を軽く甘噛みして、聖杯の中にポタリと血を垂らす。
すると、今度はザマちゃん自身が自分の指を傷つけ、聖杯の中に血を垂らした。

『飲め』
「え?この聖水みたいなやつを?」
『そうだ、それを飲み干せ』
「うん?よく分かんないけど分かった」

伝説ポケモンが子供に危険なことさせるわけないし、ザマちゃんが言うなら大丈夫だよね。私はザマちゃんに言われるまま、聖杯の中に溜まった聖水の様なものを飲み干した。
すると、私の体が淡く光り、全身から力が湧いてくる様な感覚と同時に、睡魔が襲ってくる。

「何この感じ……体が軽くなった様な…?」
『お前に我の加護を与えた。これでそう簡単に死ぬことはないだろう』
「そうなの…?ありがと……なにこれ…ねむ……」
『幼いお前にはまだ早かったようだな、暫し眠れ。時期にお前の保護者が迎えに来るだろう。姿を見られるわけにはいかぬからな、我は去るとしよう。
いずれまた会うことになるだろう。去らばだ、ヒナ』

そう言ってザマちゃんは霧の奥へ去っていき、私の意識はそこで途切れた。




気がつくと自室のベッドで寝かされていて、ダンデ兄ちゃんが私を発見して連れ帰ってきてくれたらしい。
ホップには「お前は危なっかしいからな!これからは男の俺が迎えに行くから、お前は家で待ってろ!」と言われてしまった。
ベッドの上でショボくれて、ふと自分の手を見てみると、指には動物に噛まれた様な痕が。

「……………夢だけど!夢じゃなかった!」
「コラッ!!急に何言ってんだよ!!ちゃんと反省しろッ!!」
「はい……スイマセン」

心配して怒ってくれているホップを見て、私は苦笑いした。ネタが通じないって悲しいよね。


To be continued…
*R1年11月27日 執筆。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -