「アメリカ、ですか…」


先生から告げられた言葉を反芻する。何度反芻したところで現実が変わることはないのに。


「…っ、良かったですね!先生の研究が認められて有名な研究所から声がかかったんですもんね!!私も嬉しいです」


そこまで一息に言って私はさっと視線を落とす。嗚呼、泣きそうだ。さっきの台詞だって笑って言うべきところなのに、多分ちゃんと笑えてなかっただろうから泣きそうなことぐらい先生にはバレているのだろうけど。
それでも、先生にとっては喜ばしい日に悲しくて涙を流す姿など見せたくなかった。


「まあ、そういうことだから。しばらく…いや、当分。会えそうにないな」


現実という刃が胸に突き刺さる。覚悟してはいたものの辛いものは辛いのだ。


ぐ、と唇を思い切り噛むと口の中に鉄の味がじんわりと広がって、


「そう、ですか…」


絞り出した声は掠れて消え入りそうだった。私のことなんかお気になさらず先生は研究の方頑張ってください。頭の中で何度もシュミレーションした台詞をついに口にすることが出来ない自分の意気地のなさに苛立つ。もう会えないかも知れないのに、言葉を掛けることさえも出来ないなんて。なんだか情けなくて。


「泣いても、いいぞ」


先生が、言った。突然の言葉にば、と顔を上げると辛そうに顔を歪めた先生と目が合う。細められた目には悲痛の色が浮かんでいた。代わりに泣いてくれ。次に告げられた言葉を合図に私の瞳から大粒の滴が零れ落ちた。


「せ、んせぇ…っ、」

「俺だって…離れたかねえよ。…すまねえな」


いつかまた帰ってきた時、お前さんと俺の気持ちが変わっていなかったらそん時は――。先生の一言一言が私を優しく包んでいく。そして最後の一言を先生は私を抱きしめて耳元で囁いた。





(そしたら先生からプロポーズされた時に、)
(私泣かないように頑張るから)



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