「人がどうして人を愛するか。化学的に証明するのってやっぱり無理なんでしょうかね」


先生がくるりと椅子を回転させて、こちらを見た。
にっこり笑って試験管を手渡すとまた椅子を回転させて赤っぽく濁った薬品に向き直る。





「俺が知るか」


と、先生の口から答えが紡がれたのは赤っぽく濁ったものが爆発した後。

絶好調ですね、と皮肉交じりに言いながら塵取りと小箒を持って割れた試験管の欠片を集めようと屈んだ私の頭の上から降ってきた。

私を心配したようなどうした、という言葉とともに。


「―――…告白、されたんです」


友達だと思っていたクラスメイトの男子に。もちろん私には好きだとかいう感情は一切なく。


「告白って、…もっと嬉しいものだと思ってました。もっとずっと幸せになれるものだと思ってました。
なのに、なのに…どうして私はこんなにも苦しくて…辛くて…怖いんでしょう…っ」

「だから、俺が知るかって。思春期なんて皆そんなもんじゃねえのか」

「そんなもん、なんでしょうかね」


先生に相談しても。それでもまだ、胸の奥に残るもやもや。それが苦しくて唇を噛みしめた。的外れに床を掃いていても欠片は集まる様子もなく、なぜだかだんだんと視界がぼやけてくる。嗚呼、どうしようと一際強く唇を噛む。

と。ぽんぽんと頭を軽く叩かれた。潤んだ目で見上げるとそこには優しく微笑んだ先生。


「無理すんなよ。お前は馬鹿だからすぐに心の奥にしまうが、時には吐き出さねえとな」

「うっ…せ、んせぇ…」

「ほら、すぐ泣く」

「だって、それは…せんせ、…が」

「とりあえず、告白は断っとけ。お前さんには俺がいるんだからな」

「…ん、」

「何か困ったら迷わず俺のところに来い。いつでも力になるぜ」

「…はい、」

「悩むのも突っ走るのも青春の特権だからな」

「…はい」



それはあまりにも静かにやってくるから、気付いたときにはもう遅いのだ


「…これが、青春なんですね」

呟いた私を見て先生がああそうだと頷いた。

「過ごしている間には気づかない、人生で一番楽しい時間だよ」



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