03 瞼(憧憬) ジャックとセブン


bruler

窓の外がオレンジ色に輝き
誰も長い影を引き連れて歩き始める時間

クリスタリウムで、二人の影が
振るえながら重なり合っていた

0組のジャックとセブンの二人が
誰も来ないクリスタリウムの奥で

ただひたすら口づけ合っていた


深く口づけるジャックを受け入れるセブンは
腰の位置ぐらいの高さの本棚に座り
ジャックの背に回した手を所在なさげに泳がせていたが

彼女の手はジャックの激しさに
思わず彼の制服ごと腕を掴んで止まった

「……っ……ふ」
「はっ……」

荒々しく口内を貪る彼に
ついていくのすら必死なセブン

彼女は涙目になりながらも
彼の口づけをひたすら受け入れ続けていた

チュ……と音が幾度も響くほど
執拗にジャックは彼女を求め続けているが

口づけ以上の事をするでもなく

まるで彼女の唇を溶かそうとしているようだった


「ジャッ……ク、もう」
「ん……」

ついにセブンがその長い口づけの息苦しさに
彼の腕を押して、体を離した

彼女の薄い唇も
さすがに熱と潤いを帯び、ほのかに赤く色づいている

いつもなら甘えて
彼女に触れようとしてくるジャックだが
今日はセブンの肩に頭をもたげ
静かに瞳を閉じているだけだった


「落ち着いたか……?」
「うん」

ジャックの瞳も濡れて見えるのは
先ほどまで口づけていた高揚感のせいではなさそうで

いつも瞳を潤ませるセブンのほうが
今は慈愛に満ちた表情で
労わるようにジャックを見つめていた

今日の戦闘で
ジャックはただ一人最前線に残され
時間で言えばほんの10分ほどではあるが

たった一人で30人以上の人を斬らねばならなかったのだ

彼が殺めた人を、彼は覚えていない

しかし、手に残る肉を断つ感触と
全身に浴びた返り血

そして、何より足元を埋め尽くした躯の数々が
彼に、自身が殺めた命の数を思い知らせていたのだ

候補生の援軍が彼を回収しようとした時

興奮状態のままだった彼は

危うく味方を斬りつけようとし
クラサメとアレシアのフォローにより
今まで軍令違反で裁かれるかどうか
自室で待機させられていたのだった

「大丈夫だよ……ジャック。大丈夫だ」
「ん……」

今の今まで、ナインでさえ
ジャックに近寄ることが出来ないほどだったのだ

鬼気迫ると言った様相だった彼は
ピリピリと全身から殺気を放っており

こうなった彼を戻すことは
アレシアと彼女しかいなかった

彼のもっとも愛する少女
セブンしか

ジャックはセブンを見つめた

セブンも彼が何か答えてくれるのを
ただひたすら待っているようだ


「セブン……」
「なんだ?」

彼はただ彼女の名を呼んでから
叱られた子供の様におどおどと彼女を見上げた

何か言いたいことがあるのかと問うように
セブンはジャックの頬を包んで覗き込んだが


ジャックは子供の様に彼女の首元に
顔をうずめただけで

次の言葉を発しなかった


随分長いことそうしていたジャックは
オレンジ色の外からの景色が
紫がかってきた頃ようやく
ゆっくりと呼吸を整えてから

セブンの白い頬に頬ずりしながら
彼女の目をまっすぐ見つめた

長い沈黙があり
彼は次の言葉を発するように
口を開きかけたが


彼女の瞼に優しく、そして長く口づけた


「……ジャック?」
「セブンは……綺麗だね」

そう言うと彼は一つ深いため息をついてから
彼女を腕に抱きしめ呟いた

「貴女みたいになれたら良いのに……って、今思ったんだ」


言われたセブンは
彼がなぜそんな事を言ったのか
わからないようだったが

「僕はきっと、セブンに憧れ続けてるんだって思う。今もこれからもずっと……」


泣き出しそうな顔で、いつものようにジャックが笑ってそう言ったので
セブンはたまらずに彼の頭ごと思い切り胸に抱きしめた

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