08 喉(欲求) ナギとカルラ

事後描写があります。ご注意ください。


bruler

クリスタリウムのカヅサの部屋に
依頼の報告をした帰り

本棚のすぐ横から
ナギは声をかけられた

「ハロハロー、アイドルさん」

そう言って彼の手をそっと取ったのは
品行方正で成績優秀のカルラだった



「何々? ナギ君にデートのお誘い?」
「えぇ」

いつものおどけた調子で返したのに
本当に誘われると戸惑うのか
カルラの微笑みに、一瞬ナギはフリーズしてしまい


それがナギの受難の始まりであり
彼の生活の一部がごっそり彼女に奪われるきっかけにもなったのだ








「私のことはいつから?」

ベッドの脇で頭を拭いていたナギの背に
カルラは尋ねた

背中にほんの少しだけ残った
彼女自身が爪でつけた小さな傷が紅く線になって見える

先にシャワーを浴びたナギを横目に
カルラは床に散らばった下着を拾い上げようと
ベッドの上から降りようとした

それに気づいたナギは、頭の上にタオルを乗せたまま
拾い集めて彼女に服を渡した
しかし、彼は何を聞かれたのかわからず
オウム返しに言葉を繰り返すことになった

ナギには唐突なその彼女の問いの意味が
当然聞きなおした


「え? いつから……? って?」
「ええ」
「えーっと、あんたの事が好きだったか……ってこと?」
「……私ってそこまで夢見てるように見える?」

そんなやり取りがしたいわけじゃないと言わんばかりに
カルラはうんざりしたような顔でため息をついた

誘ってきたのは彼女なのに
いつから好きだったとか聞かれてもナギだって困るだろうけれど

あまりにかみ合ってない会話に
ナギは何のことやらと
行為の余韻に浸る間もなく、脳内をかき回して
彼女の言っている話の芯をつかもうとしていた

「そうね……じゃあ言い方を変えるわ」
「なぁ、ちょっと待ってくれ? 今の会話おかしくないか?」

頭に乗せたタオルを首にかけなおし
部屋をうろうろしながらナギはカルラに聞いた
どれだけ脳内をひっかきまわしても
ナギは全く意味がわからないままだったからだった

「……質問の意味がわからない?」
「わかん……ねぇけど?」

カルラを半ば睨むように
ナギは上半身裸のままで
突っ立ったままカルラの次の言葉を待った

「……なら良いわ、ごめんなさいね。気にしないで」
「気にするだろ、そこは……他にどんな意味があるんだよ……?」

ナギはさっきまで求め合ったはずの彼女を見つめながら
その動きを瞬きもせずに観察し
自分が思い当たった仮説と考察を口にした

キャミソール一枚だけを着た彼女は
まだ熱をまとったままのように
頬が赤らんで見えるが
反応はといえば、うんざりしながら業を煮やしている様にも見えた

「落ちこぼれクラスのナギ君に、お情けかけてやらせてくれた……とか
俺の事が好きだとかじゃないなら……そんなとこだと思うけど?」
「意外と自信無いのね? 」
「え? じゃあ 本気で……」
「それはちょっと違うのよね」

掴みどころの無い彼女の態度と言動
彼に体を許した割には
本気ではないと言う

今日ナギを誘ったのはカルラだった
今日初めて、二人は関係を持ったし
昨日までは名前と顔、所属を知るだけの関係のはずだった

ナギが知っている彼女の表の顔は
クラス2ndの優等生
裏の顔は、とんでもない守銭奴という情報のみ

念のため、ナギはその方向で誘われたのかと
ひやひやしながらこう問うた

「俺……カネはもってないけど?」
「今すぐに自由に出来る資産は少ないみたいね」
「…………どこまで知ってんの?」

すでにナギの財布まで知り尽くしている
カルラはそう言い放った

ナギは肯定も否定も出来ない立場なので
彼女の独り言に対して沈黙を貫くしか出来なかった

「貴方が持っているお金は、単に今までの任務への報酬ではないし
落ちこぼれクラスが持っているには多すぎる……」
「……」
「それに、一部は偽名で保有しているお金もあるわよね?
作戦成功後に自分の名義にすり替えて使って良いと言われている……違う?」

彼の任務の殆どは極秘裏に行うことで
0組以外には、諜報員として動いていることすら
知らせていないこともある

任務の上で必要な経費も特別に預かっていたり
任務の上で得てしまった公に出来ない物も預かっていた
他クラスの人間には武官にさえも言っていなかったのに
仮にも諜報員の懐具合まで探ってきたカルラは
ナギにとって脅威であった


「まぁ良いわ、とにかく黙っていてくれれば黙っていてあげるわ
今日のことはそういう意味なのよ」

ナギは彼女が誘ってきた意味を理解した
彼女はナギへ口止め料として
自らの体を許してきたのだと言った

「黙ってろって……何を?」
「貴方が戦場で見た私を忘れてくれってだけよ」

そうは言われても、当のナギには意味がわからないのだ
仮にも優等生と言える彼女が自分に恋愛感情以外で抱かれた理由

しかも、自ら誘ってきて好きでもない男と関係を持ったと言うのだ

いくらこれ以上問答しようとしても、彼女の中では話が既に完結しているようで
取り付く島もないナギは
ただ一人、着替えが終わった彼女が部屋を出ていくのを見送るだけだった

男子寮のナギのベッド
ほんのりと残る彼女の香りと余韻に、シーツの皺

知らないうちに彼女を怒らせてしまったかのか
それとも本当はどこかで彼女の何かを見てしまったのか

なんとも歯切れが悪い行為の終わりに
彼は苛立ちすら湧かず、むしろ呆けていた

「何それ……お情けよりタチ悪くないか?」

言ったところで届かないぼやきは
ナギのため息をより大きく広げただけで
一人の部屋一杯に残ってしまっていた

ゆっくり近寄ってきて
体温だけ残して去って行ったカルラ

しかし、腑に落ちないのは彼女の行動だけでもなかった

抱いた時の感触がどうにも
口止め料として自分を投げ出すには不自然に思えたのだ

「遊び慣れても無さそうだったけどなぁ……」


最初からナギは彼女が如何いった理由から
自分をベッドに誘ったのかが気になっていたのだ

誘ってはきたけれど、彼女は床慣れしている素振りもなく
反応の初心さ加減は
せいぜい1,2人相手にした事があるくらい

そうなると、せいぜいあの捨て台詞は
虚勢を張っただけなのか、それとも真意あっての発言か__と



「優等生なりのプライドのため……とか? 」

ナギがいくら色々と推測すれど
お堅いはずの彼女が自分に体を許した理由はわからずじまいだった







乾きかけの頭のままナギは9組の教室へ向かい
カルラの情報を求めて
同級生の女子候補生に話を聞きに行った

「そうね……お金がらみではかなり汚い噂がある子よね」
「やっぱり?」
「目つけられたの? ナギ」
「いやいやいや……どうだろ?」

なんとなく内情を察した同級生は
少しため息をついてからこう提案してくれた

「こちらから話をつけようか?」
「いや、それは良い。自分で聞くさ。話す機会だけほしいかな」
「……ふぅん、了解」

ナギも事の真相がわからないのに
他クラスの女子に手を出したことが知れても
後々困ることになりそうだと
クラスメイトにそう話をつけてから教室を出た

ナギは何がなんだかと言った
振り回された感を抱いて
ため息をつくしかできなかったが

自分の事も多少なりとも調べられている今となっては
彼女と対峙してでも
問い詰めなければと、諜報課の脳に切り替えに入っていた





それから3日後、物資搬入用の飛空艇内部から
ナギは発着所の辺りを見回した

夕暮れをとっくに過ぎた飛空艇発着所に
停泊された一機の小型飛空艇

その内部には
今日もとある戦場から運ばれてきた物資が
山のように積まれていた

それらの中身を確認し、秘密裏に魔導院内に運び込む
9組で今回受け持ったこの任務は
その物資を見定めること

9組のナギを含む候補生が3人で
それぞれ品をチェックしていた

白虎軍と戦った現場に残っていたもの
死亡した朱雀候補生の遺品
軍の使っていた兵器の残骸などなど

これらをチェックするのは、これらの品の中に
盗聴器や爆弾、発信機などが混ざっている可能性もあり
それらの鑑定はかなり難しいからだ

戦時中であるのだから、当然兵器開発も朱雀は積極的だが
魔法技術に長けている分
兵器開発技術は皇国の方が未だに頭一つとびぬけており
それらの研究の余地は十分である

限りある物資の補充のためにも
これら地道な作業は必要であるし
9組が落ちこぼれクラスであるという目くらましには
ちょうどいい雑用なのだ


「ナギ、呼んどいたよ。ごく自然にね」
「サンキュ、礼は後でな」
「いいよ、間に合ってる。じゃあね」

小声でそう言うと、その女子候補生は
艇内にカルラを招き入れた

カルラの姿を見るや、ナギは手を止め
目で中に促した

促されたカルラは、飛空艇内にズカズカと入り込み

彼が終えようとしていた品定めを見て
すごい速さで品物を仕分けし始めた

どうやら、同級生がカルラを
鑑定員の一人として招いたのだろう

「……甘いわね、こんなところに見落としよ?
見なさいよ、これ中に埋め込まれている装置、盗聴器でしょ?」

「よく見つけたな……なんで分かった?」

私の目は節穴じゃないから、と言って
今度は鑑定用ルーペを自ら取り出し、念入りに品定めしていくカルラ

すると、見る間に品々は
不要なものと必要なものに仕分けされていった

武器に見せかけて、グリップ内部に仕掛けられた盗聴器
ただのテントに見せた、中の支柱に埋め込まれた爆弾

危険度も高いが
持ち込まれても困る品々を見定め
必要なものは回収し、不要なものは処分する

そんな地味な作業を
喜んで引き受けるカルラに

ナギはほんの少しだけ
呆れたり感心したりしながら
その動きに見入っていた

そうこうしている間に
それ以外の9組のクラスメイトは席を外し
艇内は二人きりになっていた

彼女の小麦色の肌が
黄昏色から闇に変わる薄暗い艇内で
自分の部屋で触れたはずの彼女がわき見もせずに作業する姿は
全身であの時の事を拒絶しているようだとナギは思っていた


「でも……そうね、他はガラクタが多いわ
それ以外は大丈夫じゃないかしら?
9組で要るものがあるなら、今のうちに回収しちゃいなさいよ」


ナギ達が先に終えていた仕分けの出来は
まぁまぁだと値踏みしたカルラは
立ち上がってから彼に視線を送った

「私は、今回これを頂けると助かるわ」
「それって?」
「最新の皇国製の盗聴器! 高く売れるのよ」
「あそ……」



そう返してぼんやりとカルラを見ていただけのナギは
少し考え込んだような表情をしてから
ただ彼女に向って右手を差し出した


カルラはナギの真意が分からず
手のひらを上に向けて広げてみせた

「他には何も取ってないわよ? 失礼……」

彼女がそう言おうとした瞬間
ナギはカルラの手首を引き
自分の胸に彼女を引き込んだ


「!っ……?」

突然のことに声も出ないカルラだったが
いつもはヘラヘラ笑っているナギの表情が
真剣な男の顔そのものだったので

カルラは声も出せず、思わずごくりと唾を飲んだ

「……な、に……?」
「質問に答えてもらう」

ナギは淡々とそう言うと
もう一度ごくりと喉を鳴らしたカルラの喉に
少し頭を下げて長い指を軽く這わせてから

次の瞬間まるで 肉食獣が草食獣の喉笛に食らいつく様に
ナギはカルラの喉に歯を当てた

「っぅ!?」
「動くなよ? ……この前の真意、答えて貰う」
「言った……はずよ」


カルラがそう答えた途端
歯を当てる力を強めた


「っつ……!」
「こうしてるとさ、脈拍で嘘ついてるかとかがわかるんだよな
あんたがこの前俺に抱かれた理由は、取引材料としては
リスクがありすぎんだよな。考えすぎたね? 優等生さん」

そういうと、ナギはカルラの両腕を拘束して
胸の前で痕が残る勢いで、手首を掴んだ

「痛い……」
「俺もさ、あんたが何考えてんのかなんて
知りもしないでこんな問い詰め方するのは本当はイヤなんだよ」

しかし、諜報課としての彼の任務上
どうしても詳細を語れない部分があり
誘われた以上いつものキャラを演じて彼女を受け入れざるを得なかったのだ

無論嫌だったわけでもないが

ナギは彼女が求めてきたその瞬間
彼女をその時受け入れたとして、その後どう接して行けばいいのか
ずっと考えていたのだ

一時の性欲で魔導院の優等生と関係を持てるほど
ナギは自分をコントロール出来ない男では無かったからだ

「俺もさ、頭の端じゃあんたから迫ってもらった時すでに
何かの取引じゃないかとか、考えてたんだけどな?」
「……」

喉のすぐそばで、吐息をかけられ
至近距離で囁かれるたびに
カルラは震えながら、ナギの声を聞くしか出来なかった

「あんたが自分の体張ってまで言ってくれた話だから言うけど
俺はあんたと同じ戦地には、ここ一か月以上行って無いんだ」
「えっ!?」

あまりの驚きに
カルラはのけ反って、ナギの目をじっと凝視して黙り込んだ


「あんたに今言う事は出来ないが、俺は今別の特殊任務のために
他の9組の候補生と一緒にその場にいたことになってる
軍事記録か何か見たんだろうけど、同じ戦場であんたを見てる訳無いんだ」

「……そ」

何か言葉を吐こうとしたのだろうが
カルラは膝をついて
床に崩れ落ちてしまった

「戦場で見られちゃ困るもんを、俺がいたはずの場所で
見られたかもしれない状況になってたってことなんだろ?」

「…………」

カルラはショックが大きかったのか
涙目になって、ナギの問いにも答えず押し黙ってしまった

「あんたが何にがっかりしてるのか、わかんないけどな
俺には、俺なりにどうしても行かなきゃなんない任務もあったんだよ」
「そうじゃ……ない」


ようやく喋ったカルラは
潤んだ目のままで床を見つめたまま
せっかく手に入れた皇国性の盗聴器も放り出し
力なく項垂れていた


「俺に体を許した事がショック……」
「違う」

そこだけはハッキリと
彼女は即答したが

しばらくしてから
何かに気づいたかのように
恐る恐る顔を上げた

顔を上げた先にあった
ちょっとにやついたナギの笑顔と
ばったり視線が出くわしてしまい

カルラは再び床に視線を落としてしまった

「じゃぁいいじゃん。 俺たち仲良し〜 ♪」

そう言って、ナギはカルラの手を取って
立ち上がらせようとその手を引いてみた

しかし、カルラはてこでも動かないと言った様子で
床になろうとしているように、丸くなってしまった


それを見て、仕方ないなと言うように
ナギは肩でため息を一つついてから

自らも床にしゃがみ込んで言った

「言ったでしょ、俺は答えがほしいんだって」
「……?」

そういうと、もう一度カルラの喉に
そっと人差し指を当ててから

「あ、キスマークついちゃった」
「えぇっ!!? やだやだやだっ! 」
「ぷっ…… ハハハ、うそうそっ!! つぅかなんか反応新鮮〜っ!」

ふざけたナギの顔を見て
カルラは真っ赤になって
思い切り平手を振り下ろした

しかし、やはりその手をナギに制されて
否応なく見つめあってしまう

「俺もさ、さんっざんあんたに振り回されたんだ
頼むから、本当の答えを教えて頂戴よ」


それだけ言うと
ナギはカルラの前にどかりと座り

彼女の話の続きを聞いた

すると、もう黙っていても仕方ないと踏んだのか
訥々と彼女は語り始めた

カルラは、命乞いをする敵兵から
金や物資裏を取引し、逃がしていたと言った

当然、後から来る援軍が
逃がした人間を取り押さえる手筈だったのだが
彼女は油断させるタイミングを得ることが出来
ポケットも潤わせて、さらに味方が敵を捕捉する隙まで作る

そうやって戦場でうまく功績をあげていたのだと言う

問題があるとすれば
戦利品の横領という部分だけだろうが
軍令違反以外の何でもない行為だった


「お金ねぇ……まあ品行方正な優等生が横領着服してちゃダメだよなぁ」
「お願い……黙ってて」
「良いよ? 別に それぐらいのこと、しょっちゅうだしね」


その話を聞き終えると
ナギは少しだけ残念そうな顔で頭をガリガリと掻き
もう既に彼女の輪郭しかわからないほど暗い邸内で
彼女の言葉の続きを待った

「あと、本当は……貴方の事が気になってたの」
「何、その本当は……って」
「私は貴方の事かなり切れ者だと思ってた……なのに」
「落ちこぼれクラスにいるから?」

ナギの問いに、カルラは目も見ずに頷いて見せた
言われた本人も、そうだろうなと言う顔をした

「調べてみれば、貴方たちの方が、エリートだったのにね」
「えらく贔屓目に見てくれるんだな」

カルラはほんの少し顔を上げて
ちらりとナギの目を見てからこう言いだした

「最初はカモになる奴を探すだけだったけど
調べて行けば、貴方の事は謎だらけだったわ
貴方だけじゃない、9組すべて……悔しかったっていうのも本当」

彼女はナギという人間を、所有額というかなり斜めから見て
彼を評価していったが
見れば見るほどわからなくなったのだ

わかることといえば、彼がそれだけの任務を終えて
結果を出し、その報酬を得ているということだけだった


「それで……スッキリした?」
「……ううん」

彼女はかぶりを振って否定したが
その瞳は穏やかだった

「でも、もうこんな真似は止めるわ。敵相手なら軍令違反だもの」

カルラはナギが密告するような人間だとは思わなかっただろうが
いくら彼女とは言え、やってしまった事のばつの悪さに
反省している様子だった

「そっか、なら是非次はこちらからデートにお誘いさせて貰わないとな」
「怒らないの?」
「別に、怒る理由は無くなった。
俺のこと、ちょっとは意識した上でやってくれてたんでしょ?」

少し照れたように笑ってから
ナギは膝を立て、立ち上がって伸びをした

「まあね」

彼女がそう小声で呟く声を聞いてから
ナギは頭をかきながら、カルラにもう一度手を伸ばして言った

「なぁ、それより 0組に会ったことあるか?」
「いえ……2組の同級生は敵対視しているから、特には」
「じゃぁ、会ってみろよ。 面白いぜ?」

そう言って
カルラにも0組と接することを促した

数日後、カルラはリフレッシュルームで
0組メンバーと出会うことになり

後に、朱のマントを得てからカルラは
ナギの口からミッション・クリムゾンについても
戦場で得たファントマについても知らされる

自分がしたことなど小さな事だと思ったのは事実だが
自らの手を汚しても、決して汚れない彼らの方が
エリートとしてふさわしいと

その時カルラは思うことになる




西日の射しこむクリスタリウムの隅で
課題をこなす優等生の横に
落ちこぼれクラスの男が近づいていく

あれから半月ほどが経ち
ナギとカルラは任務に追われ
魔導院内で顔を見る事も無かった

もうすぐ寮の夕食時になるため
残っている候補生の数もまばらである

「貴方、足音わざと立てて歩いてるのね」
「……何のことやら」

わざとカルラに気づかせる様に歩くナギに
わざと気づいているとカルラは声をかけたのだ

「別に良いけど、で何?」
「まだちゃんと答え貰って無いからさ」

そういうと、ポケットから
以前カルラが貰うと言っていた盗聴器を取り出し
課題の資料が広げられた机に乗せられた

「俺さ、一つスッキリしてない事があるんだよね」
「……何よ?」

ナギはカルラの右側に立ったまま
ひたすら彼女の所作を見つめていたが
視線に耐え切れなくなったのか

「あんたさ、口止め料って理由だけで
他にもあんなことしたことあんのか?」

聞かれて思い切り、カルラは動揺した
目を見開き、ナギにその目を撃ち抜かれたかのように
微動だに出来ず、机から落ちたペンにも気づかなかった

「私は……別に」

唯一絞り出せたのは、その一言のみで
後は俯いて、ばつが悪そうに本の角を指でなぞるだけだった

「そっか〜」
「は?」

急に暢気な声を上げたので
カルラが驚いて、ナギの方を見た

「優等生のカルラさんが、
証拠を隠蔽するために、男と関係持っちゃうなんて
よろしくないんじゃないかな?」

「そ、それを言うなら貴方こそ、
それに応じた訳だから、同罪じゃないの!」

「うん、まーね。でもそれだとお互いが
いつ秘密をばらすかもしれないってひやひやしない?」

「それは……」

ナギはカルラの動揺などお構いなしに
話を続ける

「一先ず、俺たちが付き合っちゃえば、話は丸くおさまるって!」
「へ?」

完全に虚を突かれたカルラは
まさかそんな提案になると思わなかったからか
ナギを見つめてポカンとするのみだった

「いーじゃん、俺口は固いよ? 彼氏にしてもイケメンだし!!」
「そうじゃなくって……どういうつもり!?」

提案の意味がわからないのではなく
意図がわからないと言って
静寂なクリスタリウムの隅で
思い切り音を立てて椅子から立ち上がった

「しーっ…… クリスタリウムじゃお静かに〜」
ご、ごめんなさい……じゃなくてっ!」

ナギは少しだけ腰をかがめてから
人差し指でカルラの喉を指した

「俺……この前聞いたよな?」
「……何を……?」
「答えを頂戴よ……って」

今度はまっすぐに彼女に向って立ち
ナギはカルラの喉に軽く指先で触れながら
今度は彼女の唇に答えを求めた

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