Log1 | ナノ


※現パロ







今日も一日、一生懸命働いた。


働き過ぎてすごく疲れた。


今日こそ早く帰ろうと思ったのに……。


ああ残業がウラメシイ。




でも、私の足取りは軽い。


何故って?


そりゃぁ、あれですよ。




「ただいまー」




声をかけつつ、がちゃりと玄関扉を開ける。


すると、靴を脱いでいる間に後ろのドアが開いて、男の人がひとり顔を覗かせた。


彼は石田三成くん(20)。


恥ずかしながら、私の彼氏さんです。


7つも年下ですが、気にしたら負けだと思うことにしてます。




さて、彼は不機嫌そうな顔をしてるけど、彼の場合は大抵機嫌がよろしくないので、気にせず胸板にダイブする。


…勢いがよすぎて、ちょっと鼻をぶつけた。

 
ほそっこいクセに意外と筋肉質なのよね。


私の奇襲も、いつもあっさり受け止めてくれる。




「…遅いぞ」


「今日も残業頑張ってきました。寂しかった?」


「ほざけ」




そう言って、彼は私のこめかみを両側からこぶしで圧迫した。


もちろん、中指だけちょこっと出して。




「いたたたたた!?ちょっ、何すんの!」


「ちょうどいい位置に頭があったからな」


「だからって実行しないでよ!」


「恨むなら己の身長を恨め」




何よ、ちょっと背高いからって!


どうせ私は中学から変わらず140cm台よ、身体測定の時さり気なく背伸びしつつ気持ち顎上げてたわよ!


弁論大会の時、演説台の上のマイクに届かなくて『背の不自由な人用』のミカン箱を急きょ用意してもらったクチよ!


キスしたくても足つっちゃうくらい背伸びしないと出来ないわよ!(ちなみに彼は180cm超え。縮め!)




「…てか、少食なのに何でそんな背伸びたのよ?」


「知るか」
付き合ってからの最大の疑問にも素っ気なく返して、彼はさっさと私を放して部屋の中に引き返した。


…さり気なく荷物を持っていってくれたことには、触れないわよ。




「…ん?」



そこで、違和感に気付いた。




「ねぇ、三成くん?」


「なんだ」


「それ…」




指さしたのは、彼が着用しているエプロン。


今日はご飯を作りに来てくれるということになっていたし、彼は几帳面な方だから料理時のエプロン着用は分かる。


…でもさすがに、明朝体で『妻』の字がプリントされたエプロンをスルーしろなんて、ちょっと無理だ。




「自分で買ったの?」


「?…半兵衛様に頂いたものだが」


「え。半兵衛さん?」


「なまえの家に行くと言ったら、下さったのだ」


「…なるほどね…」




何だか妙に納得した。


半兵衛というのは彼の保護者のような人物のことだ。


三成くんが真面目でピュアなのをいいことに、色々間違ったことを吹き込んでは私が焦る様を楽しむ程度のいい性格をしている。


おそらく今も、このエプロンを目の前にした私の反応を御茶請けに、呑気に紅茶なんか飲んでいるんだろう。


頭の良いあの人にしてみれば、私のリアクションなんてお見通しだろうから。




「あのさ…それ見て何かこう、言いたいこととかない?」


「?」


「だってほら…『妻』だよ?しかも字体明朝体だよ、ゴシック体とかみたいに可愛げあるのじゃなくてさ。気合入った妻だよ?」


「何が言いたい」


「何って、それは…えーと、」


「はっきりしろ」




曖昧なことを好かない彼は、眉間に若干皺を寄せてこっちを見てます。


…何で私が焦らなきゃいけないのよ?




「え、えーっと…あの、それは…その…」


「……」


「(む、無言の圧力…)…えと…み、…」


「…み?」




先を促されて、逃げ場を絶たれた感じだった。


あの、言わなきゃダメですか?




「………」




デスヨネー。


しょうがない、恥ずかしいけどここは大人の余裕を捻り出しつつ言ってしまえ!




「あ、あの……み、三成くんは男の子だから、『妻』より『婿』の方がいいんじゃないかなーって言っちゃったりしてみたりしなかったり?」




我ながら、大人の余裕なんて欠片もない言い方だと思った。


案の定というか、彼はちょっとおかしな顔をしてるし。




「……」


「……っ(沈黙がツライ…!)」


「…お前は阿呆か?」


「…へ?」




まさかの阿呆呼ばわり。


彼に罵倒されるのは割と慣れてる(慣れてるだけであって嬉しくはない、断じて)けど、この時はさすがにぐさりときた。


せっかく勇気を振り絞ったのに―――




「何故、お前が嫁に来るという選択肢がないんだ」


「………へ?」




一瞬、思考が停止した。


今…なんて?


嫁。よめ。


ヨメ。YOME。


色々変換してみたけれど、当然のことながら意味は同じだ。




「読め…って誰に言ってるの?」


「漢字の変換が間違っているぞ。正しくは『嫁』だ。…そんなに動揺することか?」


「あ、当たり前でしょ!何さらっとプロポーズ紛いのことしてくれちゃってんの!?」


「何が紛いだ。紛うことなきプロポーズだ」


「……っ…!!?」




顔が熱い。


きっと今、私の顔はまな板の上にあるトマトなみに赤いだろう。


対する彼は、いたって冷静。


何なの、この温度差?




「い、一応聞くけど、からかってるなら笑えないからね!?オトメの心弄んじゃダメなんだからね!?」


「お前がいつ『乙』な『女』になったか問い質したいところだが……どうしてふざける必要がある?」




彼はむしろ不思議そうにそんなことを言いながら、台所に引き返した。


料理の続きをするのだろうが、こっちはそれどころじゃない。




「ほ、ほんとにほんと?本当に、私と結婚するの?」


「くどいぞ。先程からそうだと言っている」


「え、ちょ、なにこの急展開?おねーさん、ついていけないよ」


「追いつけ。…ところで、次の連休に帰省すると言っていたな」


「へっ?え、あぁ、うん、そうだけど…」


「チケットはキャンセルしろ。今ならまだキャンセル料は発生しない」


「え、それじゃ直行の電車乗れないよ?私帰れないじゃない、」


「私が運転していくから問題ない」


「三成くん、普通免許だけじゃなかったっけ?」


「阿呆か、自家用車に決まっているだろう。部外者に運転させる鉄道会社などあってたまるか」


「言葉少なすぎる人に言われたくないよ!…ってか、何で三成くんの車で行くことになってんの?」




何だか話の方向的に予想がつく気がするけれど―――




「挨拶はきちんとしろ、と秀吉様も半兵衛様も仰られるからな」




やっぱり。




「…な、なんか色々信じらんない…っていうか、私まだ返事してないよね?」




今まで話の展開の所為で忘れてたけど。


すると、彼はぴたりと手を止めて振り返った。




「…まさか、拒むか?」


「包丁近くにある時その言い方やめて、すっごいコワイから!」


「誰も斬りなどしない。…それはいいとして、なまえ。お前は、私を拒むのか?」




じっと見つめられる。


そんな澄んだ目で真っ直ぐ見つめないでよ、なんかすごく悪いことしてるような気分になるじゃない、




「……私、料理苦手だよ」


「承知している」


「片付けもあんまり得意じゃないし、洗濯は洗濯機のスイッチ入れるまでが好きだし」


「畳むのが一番嫌いだったな」


「満足にできるのって仕事くらいだから、なんにも……その、奥さんらしいこととか、できないよ…?」


「案ずるな。元よりその手のことはお前に期待していない」


「ちょっとひどくない?……それから、年上だよ?……7つも」




気にしたら負けと思っていた。


いや、そう思うようにしていた。


だって、20歳の子から見たら27なんて見ようによってはおばさんっていう人もいるし。


気にしないなんて嘘。


本当は、気になってしょうがなかった。


大学には可愛くて性格も良い子なんてたくさんいるだろうし、話によれば(彼の友達の某迷彩くんが情報ソース)三成くんは相当モテるらしいし。


心のどこかに、いつもそのことが引っ掛かっていたけれど、怖くて言い出せなかった。


口にしたら、面倒だと言って彼が離れていってしまうような気がして―――




「…なまえ」




と、不意に彼に呼ばれて、いつの間にか下げていた顔を上げる。


視線が合う。




「何を言い出すかと思えば…」


「……」


「やはりお前は阿呆だ」


「ちょっ、人が真面目に言ってるのに…!」


「私はそんな下らんことを真面目に悩む暇など、与えたつもりはないのだがな」




言って、彼が―――微笑んだ。


今まで見たことがないくらい、優しく。




「歳の差がどうした。お前の方が、たかだか7年早く生まれたというだけの話だ」


「三成くん…」


「後は何か言いたいことはあるか?あるなら、この機会に全て言っておけ」




言葉はぶっきらぼうに、でも表情と声は柔らかいという彼にしては器用な調子で言った。


私は、少し黙った。


言葉を探しているんじゃない。


彼の言葉が染み込んで、心臓の辺りが暖かくなるような感覚を少しの間感じていたかったんだ。


あれ、私ってばいつからこんな詩人になったんだろ。




「……あるよ、言いたいこと」


「なんだ」


「……」




私は、深呼吸してから、




「そのエプロン、次から私が着る」




それを受けた三成くんは、一瞬間を開けて。




「丈を詰めた方がいいな」


「いくらなんでも引きずらないわよ!肩紐調節でなんとかなる!」




またもや不自由な身長のことを言われて抗議する私はそのままに、彼は調理に戻ってしまった。




「…毎日頭にスーパーの袋被せてやるんだから」


「何のまじないだ?」


「スーパーの袋とかを被ると身長縮むって言うでしょ?」


「そうか…被ったのか、お前」


「これは元々です悪かったねチビで!」


「別に悪いとは言っていない。納まりが良くてむしろ好ましいぞ」


「……っ!?」




意外と、こんなことを素で言えちゃうお人です。




「ふざけている暇があるなら、皿を出せ」


「ふざけてないってば……あ、深皿の方いいよね?」




食器棚を開けつつ、彼が纏ったエプロンをちらりと見る。


ほんの数分の間に『ただの恋人』から『婚約者』になったなんて、本当に信じられない。


それにこの前衛的なデザインのエプロンが一役買っているなんて、もっと信じられない。


これを彼にもたせた張本人には感謝しなければならないのかもしれないけど、でも、





―――――――――――――
なんか夢主27歳なのに子供っぽくないか?と思いつつ後書きです。

いや、仕事場では一応バリバリのキャリアウーマンであって、今回はたまたま恋人に甘えてただけだから問題ないか、と変に自己完結したりしています。



それから、三成って色恋に初心なのとそうじゃないのと、どっちも違和感ないような気がします。

なので、今回は妙に冷静な三成を書いてみました。

さらっと何食わぬ顔でプロポーズとかしちゃう。

努めてそうしてるんじゃなくて、あくまで天然みたいな。


夢主に迫られてあたふたするのもいいんですけどねぇ…(笑


では、読んで下さってありがとうございました。




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