※管理人はゲームしかやったことがないので、ライドウの口調が分かりません。 「ん?」と思っても大目に見てやって下さい。 「なまえちゃん、大学芋3つね」 「はい、ありがとうございます!」 皆さん、こんにちは。 わたし、なまえといいます。 少し前から、筑土町の多聞天のところで屋台をやっています。 わたしの家は貧乏なので少しでも家計の足しになればと始めた屋台ですが、これがなかなかどうして楽しく、今では将来自分のお店なんか出してみたいなぁと思うくらいです。 帝都には色んな人がいます。 嫌な思いもたくさんしますが、それ以上に、そんな様々な人々を見るのが面白いのです。 徐々に常連さんもついてきて、嬉しい限りです。 「にゃーん」 「ん?」 大学芋を3つ買ってくれたお客さんを見送ったちょうどその時、足元で可愛らしい泣き声がしました。 見れば、緑色の目をした黒い猫がこちらを見上げています。 「あ、ゴウトちゃん」 「にゃー」 猫はそんな風に返事をしてくれました。 この子はゴウトという名前で、この界隈では一番大きなビルヂングの中にある探偵事務所で飼われている猫ちゃんです。 「こんにちは。今日もいい天気だね」 「にゃー」 お客さんもちょうど途切れたのでかがんで頭を撫でると、ゴロゴロとのどを鳴らしてわたしの手にすり寄ってきました。 相変わらず、持って帰りたいくらい可愛いです。 「そうだ、ゴウトちゃん煮干し食べる?お出汁用の残りだけど」 「にゃっ!」 煮干し、という単語を聞いた途端、ゴウトちゃんの耳がぴんと立ち、尻尾が嬉しそうに揺れ始めました。 最近思うんだけど、この子はこちらの言葉が分かっているんじゃないかしら。 いつも一緒にいる書生さんとも息の合った掛け合いを見せてくれるし(片方は「にゃー」だけど)。 まるで、本当にお互いの言葉が通じているように。 「……すみません」 屋台の棚から煮干しをあげようとすると、不意に上から声が降ってきました。 はっとして顔を上げると、そこには見慣れた顔がありました。 「ライドウさん、」 学帽に外套を纏ったこの人は、葛葉ライドウさん。 ゴウトちゃんが飼われている探偵社の見習いだそうで、最近よく寄って下さいます。 ちなみにこのライドウさん、ものすごく綺麗なお顔立ちをされてます。 どのくらいすごいかと言うと、田舎出身のわたしなんか、初めて会った時は腰を抜かしそうになったほどです。 遥か昔に読んだ御伽草子の王子さまが歩いてる!…と本気で驚いてしまいました。 それはさておき、今日のライドウさんは何故かどことなく機嫌がよろしくないような気がします。 これまでお話しした限りでは、あまり気持ちを表に出さない方のような印象を持っていますが、それにしても眉のあたりの線がほんのちょっと固いような…… 「…ライドウさん?」 「……」 呼んでみても、ライドウさんはすぐには返事をしませんでした。 下を向いた視線を辿ると、ゴウトちゃんとかちあっています。 また何か、目でやり取りをしているのでしょうか。 数秒そのままでいた後、不意にライドウさんが顔を上げました。 「…ゴウトがご迷惑を」 「いえ、迷惑だなんて。そんなことありませんよ」 ああ、だからこんなに渋い顔なのか、と納得しました。 本当にライドウさんは律儀な人です。 これだけ美形で真面目なら、ご婦人方にさぞや人気があるでしょう。 「ゴウトちゃんとライドウさんにはいつも寄って頂いてますし、迷惑なんかじゃありませんよ」 そう言うと、ライドウさんは一瞬不思議な表情を浮かべました。 驚いたような、呆けたような――― 「にゃーぅ」 と、そこでやや唐突にゴウトちゃんが鳴いて、ライドウさんは我に返ったようにはっとしました。 わたしの顔に何かついていたのかしら。 もしかして、さっき下ごしらえをしたサツマイモの皮が…? 「……あの、」 思わず頬を触って確認していたら、ライドウさんが話しかけてきました。 思えば、ここに寄ったということは何か買いに来たわけです。 「あ、すみません、わたしったら……何にしましょう?」 「…大学芋を5つお願いします」 「はい、いつものですね。ちょうど出来たてのがあるんですよ」 先程出来上がったばかりの大学芋を袋に5つ。 ライドウさんは大学芋が好物だそうで、ここに来ると必ずこれを注文されます。 いつもは5つなのですが、今日はちょっとおまけをして更に5つ追加することにしました。 「はい、どうぞ」 「…?何だか多いようですが…」 「いつも買って下さるお礼です。少ないですが、皆さんで食べて下さい」 「しかし…」 「もう、ライドウさんはほんとに真面目な方ですね。これはわたしの気持ちですから、むげにしたら泣いちゃいますよ?」 「……!」 うっと詰まり、結局受け取ってくれました。 …ちょっと悪いことをしたかしら? 「…ありがとう、ございます」 「こちらこそ。これからもご贔屓に」 少しふざけた調子でそんなことを言うと、ライドウさんはほんの少し微笑んでくれました。 その顔があんまり綺麗だったので、一瞬ぽうっとしてしまい、ライドウさんに心配されてしまいました。 それから少しお話しして、猫と書生さんは帰っていきました。 「…また明日も来てくれるかな」 ちょっと不思議な一人と一匹がやって来るのが楽しみになりつつある、今日この頃です。 * * * * * 『いい加減、機嫌を直したらどうだ?』 「…別に、不機嫌になんかなっていない」 『それにしては、先程から全く目が合わぬが』 「気のせいだろう」 短い返答を聞いて、業斗童子――ゴウトは嘆息した。前を大股に歩く少年の心中はよく分かっているつもりだ。 『そもそも、うぬがさっさとあの娘に話しかけないから我が先行して突破口を開いてやったというに、その態度は流石にないのではないか?』 少し前から多聞天の脇に屋台が立った。 屋台の主はまだ若いが、家計の足しにするために始めたという感心な娘だった。 娘の名はなまえ、歳は18。 笑うと右頬にえくぼができる、なかなかに愛らしいその娘のことが、どうやら目の前の少年は気になって仕方がないらしい。 今まで葛葉の里で修行漬けの毎日を送ってきた彼に、そういう年相応の気持ちが芽生えたことはゴウトとしても嬉しくないわけではない。 しかし、如何せん人と話すのが不得意である彼に女性を口説ける(直接的な言い方をすればそういうことだ)わけがなく、ひと月以上経った今でも特別進展もないままだ。 とりあえず毎日とはいかないまでも頻繁に通っているので、見かけると向こうから親しげに挨拶してくれるくらいまでにはなったが、先は長い。 この日もゴウトが先に彼女に接触することにより、ライドウが入りやすいようにとの気遣いの下の行動だったが、今回は裏目に出たようだ。 『それに、あの娘にとっては我はただの猫ぞ?我に妬いてどうする』 「……。…分かっている」 ゴウトのもっともな言葉に頷くが、未だ表情は晴れない。 彼自身、自分の気持ちをどう扱っていいか分からないのだろう。 これまでの環境が環境だけに致し方ないといえるが、この調子では、そのうちあの娘が嫁に行ってしまうかもしれないなとゴウトは思った。 (…全く、悪魔に対する時とは大違いよ。…まぁそれは当たり前か) 己で完結させて、ゴウトは鼻先を掠める甘い匂いに鼻を鳴らした。 あの娘が作るものはどれも美味だが、特にこの大学芋は近所でも評判になるほどで、しかも今日は出来立て、ゴウトとしては熱さに弱い猫の舌を酷使してでも味わいたいものだ。 『まぁ、徐々に慣れるしかないな。あの娘も商売が楽しいようだから、しばらくはあそこに店を出しているだろう。……それよりもその大学芋、当然我の分もあるであろうな?』 すると、ライドウが唐突に立ち止まって肩越しにゴウトを見下ろした。 「……」 『…?どうかしたか』 「…あげない」 『え?』 「…全部、僕が頂きます」 なにゆえ敬語、というツッコミよりも先に、ライドウはさっさと歩き出してしまった。 『…まぁ、あの娘の「気持ち」だからな…』 取り残されたゴウトはそんな風に自分を納得させて、黒い外套の後を追った。 しかしやはり大学芋は食べたいので、折りを見て頂戴することにしよう。 いつかは、彼の好物のように甘い展開になることを期待せずにはいられないゴウトであった。 初デビルサマナー葛葉ライドウでした。 ところで略って『デビサマ』であってる?; 管理人はアトラスの作品では、P4とアバドン王しかやったことがありません。 ちなみに今更ながらP3を現在プレイ中です。 しかもアバドン王ラスダンで止まってるっていうね… とりあえずライドウの天然さにニヤニヤしました。 バナナの皮ですっ転ぶ主人公初めて見たよ、あたしゃ。 さて、今回の話ですが、桜雲の中のライドウは無口で無表情だけど意外と天然で人付き合い下手なイメージです。 里でずっと修行してたから恋なんてしたことないかもなーということで、なんかヘタレたライドウになってしまいました。 喋り方とか一人称とかさっぱりわかりませんでしたが、普段は「自分」、親しい人の前では「僕」とかだといいなと思います。 ちなみに、最後に出てきた敬語は、管理人の脳内のライドウが敬語で喋ったのでそのまま書きました(え こういう甘ガユイ話をもっと可愛く書きたいなと思う今日この頃。 では、読んで下さってありがとうございました。 |