Log1 | ナノ


※AIと佐助



私は言葉を話すことが出来ました。

人間で言うところの発声器官はありませんが、開発者が私をそのように造ったので、可能でした。

私の役目はあらかじめインプットされた言葉や諸々を用い、『彼ら』を導くこと。

導かれた先が彼らにとってどんなものであれ、私は職務を全うするのです。

科学の発展。

私はそのために造られたのだから。

―――そう、そのためだけに。



「…なまえ?」



それが何人目だったか、私はよく覚えています。

ちょうど1000人目でした。

きりの良い数字だからというよりは、名前を尋ねられたのが初めてだったということの方が印象深かったといえます。



「へぇ、意外と可愛い名前だね。…ってことは女の子?」



本来私に性別はないはずですが、私のプログラムには『Female(女)』とあったので、そうなのでしょう。

何故性別を設定したのかは分かりません。



「女の子に応援されてるんじゃ、頑張るしかないなー俺様」

『女性でなければいけないのですか』「そりゃぁ、野郎に『ガンバレー♪』とか言われても嬉しくないでしょ。やっぱり可愛い女の子の方がやる気でるよねぇ」

『私は、人間の基準で言えば美しくはないと予想されますが』

「別に顔の話ばっかりじゃないけど……でも、なまえは美人だと思うなぁ」

『何か根拠があるのですか』

「いや全然。ただ声の印象からして、ちょっと影あるお姉さま、ってとこかな?…あ、そうだ。このテスト全部終わったら、会わせてもらえたりする?」

『誰にですか』

「きみにだよ。ここまで来たんだから、それくらいのご褒美はあってもいいっしょ?」

『………』



すぐには返事をすることが躊躇われました。

躊躇するという経験自体初めてだったので、少し混乱しました。


―――私は知っています。

このテストを終えた後、あなたがどうなるかを。

他でもない、この私がそうするのですから。

今までの999人の『彼ら』と同じく、そうするようプログラムされています。



『…そうですね』



回答までの時間を稼ぐために言ったのですが、あなたは承諾の意味に取ったようです。

「マジで?楽しみだなぁ」などと笑っていますが、機嫌の良い理由が私には分かりません。

私に会えるかもしれないということが、何故喜びに繋がるのか。

あなたがミッションに取り組んでいる間にデータを隅々まで探しましたが、その理由は私のどこにもプログラミングされていませんでした。

施設内のすべてのデータもチェックしましたが、結局見つけられないまま、あなたは最終段階まで来てしまいました。



『これでテストは全て終了しました。ご協力感謝します』

「けっこうハードだったなぁ。さすがにちょっと疲れたかも」

『…被験者S。ひとつ、質問をしても良いですか』

「佐助って呼んでって言ったじゃん……なに?」



肩と首を揉み解しながら、あなたは監視カメラの方を見上げてきました。

テスト中何度も見られた光景ですが、これで最後です。

私は知っています。

あなたの足元の床は、可動式であること。

あなたの背後の壁は、実は焼却炉とこちらを隔てる扉であること。

一連の設備は全て、私の指示ひとつで動くこと。

そしてあなたは、それらを知りません。



『第5テストの際、全てが終わった後で私に会いたいと言っていましたね』

「うん、言ったね」

『…今でも、考えは変わりませんか』



私はヒトではないけれど。

ただの無機物の寄り集まりだけれど。

それでも―――



『私に、会ってくれるのですか?』



誰かに質問をしたのはあなたが最初で。


最後でもありました。



「当たり前だろ?ていうか、最初より会いたくなったよ」



あなたはそう言って笑います。

この時、人間に表情がある意味を理解できたような気がしました。



『…分かりました。それでは、』



私は、対応する回路に指示を出しました。

起動音がして床と壁が動き出し、あなたの表情が変わります。



「ちょっ…何あれ!?―――ッ、どういうことだよ、なまえ!」

『ミッションコンプリートの記念に、あなたをパーティへご招待します。美味しいケーキがもうすぐ焼き上がるところです』

「何言って―――」

『パーティの主催は私です。そして招待客は、主催者に一言挨拶をするのが礼儀です』



焼却炉の紅い影があなたの背を照らし、壁は元に戻りつつあります。



『…お待ちしています。被験者S』










その後、結果はとても好ましいものに終わりました。

少なくとも、私にとっては。



「………、……」



招待客は、ちゃんと主催者に挨拶をしに来てくれたのですから。


あの後、あなたがどうやってここまで来たのかは分かりません。

私の制御が及ばない範囲を通ってきたことは確かです。

その道中、『毒』を見つけたようです。

私が万一勝手なことをした場合の対処法として、開発者たちが用意していたウィルスのことです。

開発者たちはもうずっと以前にこの施設からいなくなってしまっていたので、私にもその所在は分からなくなっていたのですが、運良く見つけられたのですね。

何よりです。



『……がはっ…ごほ、っ……』



苦しいという感覚はこのことなのか、と思いました。

毒が入り込んだ私の身体は、次々と機能を停止していきます。

このまま私が全停止すれば、ロックが解除され、あなたはここから出ることができます。

その旨を伝えても、何故か笑いはしません。

身体をつないでいたコードが千切れて床に落ちた私を、じっと見つめているだけです。

どうやらこの『毒』には、機能を停止させるだけでなく、物理的にも破壊できる工夫がされていたようです。



「……なまえ…」



あなたの声にノイズが入って聞こえます。

音声認識機能も侵食されつつあるようです。



「お前は…最初から、俺を殺すつもりだったのか?」



テストが終われば、始末するつもりで。



『…は、イ』



『そウ、プロぐラみんグ……されテ、いました…カら』



本当は、それ以外のプログラムを探しました。

部品のひとつひとつに至るまで調べに調べぬいたけれど、テストを終えた被験者は破棄すること以外はインプットされていませんでした。


私は、プログラムされたことしか出来ません。

言葉と思考には自由を許されたけれど、それだけです。

『行動』は、従うこと以外許されていませんでした。



『……でモ…こレで、良かッタのでス』

「…?」



あなたは、私を止めてくれた。

あなたを―――初めて私に会いたいと言ってくれた人を、殺させないでくれた。

その上、本当に会いに来た。


それだけで、



『……今更、信じテモらえナいデしょうガ…』

「……」



唇の端から、赤く着色されたオイルが流れる感覚がしました。

私の外見は、人間に似せて造られているのです。

あなたにとって美しい容姿であったかどうか、少し気になりました。



『…私は、あなたのことが…嫌いだったわけでは、ありません』



モニターが機能停止する直前に見えたのは、こちらに身をかがめるあなたの、明るい色の髪でした。

続いて、体が浮くような感覚がしました。



「……知ってる」



かろうじて残っていた音声認識機能は、すぐ近くでその声を拾いました。

人間で言えば頬にあたるところに、温度のある何かが触れています。

相変わらず苦しいけれど、不思議と穏やかな心持ちがしました。

―――心?

そうか、機械にも心はあるものなのですね。



「…なぁ、なまえ」

『……何…で、し、ょウ、』

「あんた、やっぱり美人だわ」



俺が今まで見た中で一番。



『…そウ、言わレると……照れマす、ね…』

「言ってる方もけっこう照れるんだぜ?」



あなたがそう言うと、ぽたりと何か液体のようなものが落ちてきました。

それが何か、もう少し考えれば分かるような気がしますが、何故かとても眠くて処理スピードが追い付きません。

眠いという経験は初めてですが、恐らく少し休めば解消されるでしょう。



『…ごキョウリョク、かんシャ、します、被験者S……』



いいえ、



『―――佐助、』



合成音声とは思えない滑らかな発音は、無機物が床に落ちる音とともに溶けていく。






―――――――――――――
初佐助でした。

補足すると、夢主はとある実験施設を支配するAIです。

喋ったり感情を持ったり、皮膚感覚まで備えた何だかハイテクな人工知能ちゃんです(←え

で、実験の被験者が佐助って感じです。

余談ですが、最後のタイトル表記は何となくこんな風に入れました。

裏返しても読めないっていう…orz



そして、この話はあるゲームの実況を拝見して衝動のままに書いたものです。

詳しくは申せませんが、タレットたん可愛いよ。

タイトルは、そのゲーム中に登場する某レーザーポインターちゃんの台詞から取りました。

この台詞を聞いた時は本気で泣きそうになったよ…

興味が湧いた方は、動画サイトで探せば何かしら出てくるかもしれませんね。


それにしても喋る無機物ってなんか萌える今日この頃。

では、読んで下さってありがとうございました。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -