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※現パロ






「…今は何月でしたっけ?」

「は?」

「私の認識では、6月なのですが」



6月って、どなたかお誕生日の方がおられましたでしょうか?

などと本気で首を傾けて考えている彼女に、力が抜ける思いがした。

彼女は賢い女だったが、たまに斜め上空からの消える魔球を放ってくることがある。

最早場外だ。要するに、突拍子もないということだ。


そもそも、これを見て誰かの誕生日だと勘違いする辺りが変なところで鈍感というか、なんというか。

彼も鈍感さでは人のことは言えないのだが、この時ばかりは「気付け」と思った。



「うーん、やっぱり思い当りませんわ」

「それで正解だ。いないのだからな」

「そうですか?…では、その眩しい小石殿はいったい?」



彼女はさらりと言ったが、彼の受けたショックはそれなりに大きかった。

…この女、今『小石』と言ったか?

確かに小さい石なのは間違いない。

間違いないが、それの持つ意味に気付かれない上に、そんな路傍に転がる石のような表現をあっさりとされてしまっては、元来繊細である彼の心が少なからずダメージを受けるのは致し方ないことだった。



「…お前の中には『婚約指輪』という概念が存在しないのか?」

「あら、もちろんございますよ。幾千の乙女たちが一度は憧れるものですわ」



かく言う私とて、その末席を汚す者のひとりです。

自称・幾千の乙女のひとりは、何故か得意げに言った。

何処が得意げなのだか。『婚約指輪』が『困惑指輪』である。



「………」


「うっ…そ、そこまで言うならいい加減気付け、にわか乙女め」

「慣れないことはするものではありませんわね。…む、半端者と仰せですか?幾ら三成さんでも、私ちょっと怒りますわよ」



三成さんのスーツのポケットに苺大福を忍ばせておりますが、後で私ひとりで頂いてしまいましょう。



「何!?まさか、『北条』か!?」

「言わずもがな」



ステキな笑顔で彼女は肯定した。


『北条』とは近所の老舗和菓子店の名で、飴色の入り口を開けると四代目店主の氏政翁と寡黙な職人に会うことができる。

その北条菓子店の代表菓子のひとつといえるのが、今も自宅で彼のスーツのポケットを占領しているはずの苺大福なのであった。

彼も彼女も、この大福が好物だった。

何故そんなところに菓子を隠すんだ、お前は冬眠前のリスか何かか、というツッコミには寄り道せず、真っ直ぐに大福に食いついた彼はやっぱり素直な青年である。

好物の魅力に彼の心はぐらりと揺れた。



(くっ、菓子ごときに心を乱されるとは…お許し下さい、秀吉様…!)



胸の中で許しを請うてから、彼は大福の誘惑を、頭をちょっと振って退けた。

そして、逸れかけた話を戻した。



「もう一度言うぞ。これを受け取れ」

「え?その小石殿、私に?」

「小石言うな、指輪と言え」

「宝石も石でございましょう」

「確かにそうだが…って、お前楽しんでないか?」

「あら、気付かれてしまいましたか」

「……」 
 
 

しゃらりと肯定し、唇からわずかに舌先を覗かせて笑う彼女。

今までどうにも会話が噛み合わないと思ったら、わざとだったのか。

湿度の高い目で睨むと、彼女はうふふと声を出した。

そんなに見つめられては穴が空いてしまいますわ、と嘯いた後、彼の視線から外れるように顔の向きを変えた。



「言い訳させて下さいまし」

「釈明など、聞く気もない」

「そう仰らずに。…ね?」

「……。何だ」



彼は、彼女の発するこの「ね」という音と、後に続く「?」の絶妙な流れに弱かった。

何でも言うことを聞いてしまいそうになる。



「先程も申しましたが、私も幾千の乙女の末席を汚しております。ゆえに、『困惑指輪』……失礼しました、『婚約指輪』なるものは憧れの存在、それを突然目の前に出されて、びっくりしてしまったのですわ」



頭の中を整理するために少しだけ時間を要したので、その間にちょっと消える魔球を投げてみました。

彼女は、彼の慣れない発言をさり気なく蒸し返しつつそう言った。



「お前という奴は…」
 
 

何だか妙に力が抜けて、彼は小石殿が入ったケースごと腕を下げた。

またしても良いように転がされていたらしい。

そういえば出会ってから今まで、一度も彼女に勝てたことがないのを思い出した。

さすが、最大の武器は口だと公言するだけある。

全て承知で、この小石殿を贈ろうとしている彼も彼だったが。



「おや、どうなさいました」

「今更だが…本当に性格が悪いな」

「確かに今更ですわね」



ころころと笑い、彼女はふと小首を傾げた。



「それで、その素敵な小石殿…くれるのではなかったのですか?」

「…欲しいのか」



せめてもの仕返しに精一杯意地悪く言ってやったつもりだったが、そんな分かりやすくストレートの球では彼女にあっさり打ち返されるのが落ちだった。



「あなたがくれると言うなら」



案の定、更に意地の悪い言い回しで対抗してきた。

しかし、彼女は彼がちょっと眉根を寄せて口を開きかけたのをやんわりと遮った。



「冗談ですわ。今回ばかりは、そんな意地悪なことは言うべきではありませんね」



上品な振る舞いの割に人をからかって遊ぶのが趣味の彼女にしては、珍しく素直に引き下がった。

そうして、彼女は顔を上げて真っ直ぐ彼の目を見つめて柔らかに微笑み、頭を下げた。



「慎んで、お受け致します」






↓オマケ


「聞いた?」


「…ああ」


「見たよな?」


「…はいっ」


「撮ったな?」


「バッチリだぜ」


「は…破廉恥でござっ…!」


「旦那黙って、聞こえちゃうでしょ!」


「ばっ、声デケェぞ猿!」


「……貴様ら、いったいそこで何をしている」


「あーほら見つかっちゃったよ、言わんこっちゃない!」


「誰の所為だと思ってんだよ!」

 
「何をしているのかと…聞いているのだが」


「三成さんがなまえさんにプロポーズする様子を録画してました!」


「お、オイ鶴の字!バラしてどうする!?」


「失敗と成功、どちらに転んでも後々有益な証拠になり得るであろうからな」


「てめェも黙ってろ毛利!」


「そうか…では、覚悟はできているだろうな?」


「遅れてすまん!三成はうまくいっ―――」


「家康ゥゥ!貴様ァァァ!!」


「えっ?ちょ、三成!?」




「…まったく、騒がしい奴らだ。貸し切っておいて良かったな」


「……(こくっ)」


「ん?…北条に電話か、風魔」


『――何、本当か風魔!よっし、すぐに店に戻るのじゃ!赤飯を炊くぞい!』


「…無言なのに分かるのか…?」





―――――――――――――
6月といえばジューンブライドということで、結婚ネタでした。

またもや夢主に振り回される三成氏になってしまった^q^


そしてオマケも長くなってしまいました。

シチュエーションとしては、どこかのレストランでのお話で、心配した(もしくは面白がって)友人たちがこっそり見守ってたっていう感じです。

盗撮付きの見守りです。

来てたメンバーとしては一番上から佐助・政宗・慶次・鶴姫・元就・元親・幸村で、途中から家康が来ますが三成氏に八つ当たりされちゃってます←

最後の風魔とやり取りしてるのは、一応孫市姐さんです。

え、慶次?ええ、いたんですよ実は。

一言しか喋ってないですけど。


まぁ、なんだかんだで三成氏と夢主は愛されてるってことですね!(ナンダソレ


では、読んで下さった方、ありがとうございました。




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